ヴァイスとの問答
「貴方は……一体…?……使徒では無いのですかァ?」
ヴァイスがゆっくりと立ち上がってくる。
……ようやく魔力の隠蔽を解いたようだが、何だ?これは…。
「父上!?母上!?」
ジュリが突然叫び出す。
だが、その内容は…。
「んんー?何を言ってるのですかァ?」
「……お前!?一体何をした!!何故お前からあの二人の魔力が感じられるっ!!」
ジュリが鬼気迫る表情で詰問する。
普段のゆったりとした口調とは打って変わり、言葉自体に魔力を込めているようだ。
「魔力ですかァ?何故私が貴女に答えなくてはならないのですかァ?」
ヴァイスはさっきとは打って変わり、急に口を閉ざしてしまった。
……私の事を見る目も変わっているし、お喋りタイムは終了のようだな。
「…私にも聞きたい事が有るんじゃ無いのか?お互いに質問タイムといかないか?」
大体何をやったのかは分かっているが、ジュリの為にも聞いておく必要が有る。
「んんー。そう言う事なら良いですよォ。なら、先に私から答えましょォ。答えは簡単ですからねェ。」
ヴァイスが隠蔽を解いていく。
「貴女との関係は知りませんが、大昔の勇者と賢者の魂を頂いたんですよォ。邪神の使徒となった事でこの世から疎外されてしまい、少々生き辛くなってしまったのでねェ。」
そう言うヴァイスからは暖かな…ジュリと良く似た力を感じられる。
二つの力が混ざり合っているが、溶け合ってはいないような感じだ。
「……貴様!!」
ジュリが激昂しているので、抱き締めて心を落ち着けさせる。
「(ジュリ、大丈夫だ。必ず二人は解放する。…だから少しだけ待っていてくれ。)」
「(……ご主人様。……はい。分かりました。)」
お互いに念話で会話する。
……何とか落ち着いてくれたようだ。
「んんーー。仲が良いのは宜しいですが、何とも締まりませんねェ。…まァ良いでしょォ。それではこちらの質問です。……貴方は何者なのですかァ?」
ヴァイスが私の方を見つめてくる。
今までのニヤけた表情からは一変し、真剣な表情だ。
「……使徒じゃ無かったのか?」
「私もそう思っていたのですがねェ。有り得ないのですよ。邪神の使徒が善神の神具たる『龍脈之要石』を使い、あまつさえ、神聖なる剣を振るうなど、有ってはならないのですよォ!」
「…そう言われてもな。自分が何者か、なんて難しい質問だからな。……それでも言うなら、私は聖女マイハの子、ディノス=シェールだ。」
「……そうですかァ。どうやら、折角の供物だと言うのに、善神の邪魔が入ったようですねェ。」
そう言って、何かを考え始める。
私が邪神の使徒で無い事は理解したようだ。
「……最近、各地で善神の使徒らしい人物が出没していますが、アレも貴方なのですかァ?『神の使い』を名乗り、壁やらなにやら作っているようですが。」
……答える必要など無いが、どうやら何かしようとしているようだな。
「そうだな。別に使徒では無いがな…。」
「なるほどォ。貴方からは神聖な気配は感じられませんしィ、どうやら唯のお人好しですか。」
……話を長引かせているな。
(……これが魂魄魔法か。ジュリに当たるとマズい。…位置を変えて。)
私達に向かって魔法をゆっくりと使ってくる。
上手く使えないと言っていたが、普通に使えている……いや、僅かに表情を歪めているか。
…それでこの程度か。シェールの魔法に比べると、確かに見劣りするな。
「かかりましたねェ!これで、貴方は私の操り人形ですよォ!……ふふふ、結局、結果は変わらなかったみたいですねェ!!」
私の意識を奪おうと…いや、魂を操ろうと、ヴァイスの魔法が暴れ出す。
……確かに、使徒の魔法と言うだけあって強力だ。
「魔法!?そんな!そんな気配は少しも有りませんでしたよ!?」
私の腕の中でジュリが叫ぶ。
心配そうに私を見つめてくる。
「神の魔法が唯人に感知出来る訳無いでしょォ?シェールの魔法は所詮人の魔法だったからこそ、貴方達が理解出来たのですよォ!?」
「……そんな。」
ジュリが何か考え込んでいる。
……もう少し私の心配をして欲しかったが、見つめられた時にすぐ気付かれてしまったようだ。
「では、手始めにそこの聖女を殺し、ついでにマイハを殺してくるのですよォ!その後は復活の儀式です!!」
「断る。」
「何を…ッギャアアアア!!!」
……しまった。
もう少し様子を見るつもりが、この男が余りにも狂った事を言うから斬ってしまった…。
後を見ると、ジュリは『仕方無いですねぇ…。』と言う顔をしている。
他の三人はうんうんと頷いている。
「ば、馬鹿な…。本当に、どうなっているのですかァ……?」
困惑した表情でこちらを見つめてくる。
……適当に答えておくか。
「シェールの血とやらに覚醒したのかもな。『純魔法』はあらゆる魔力を支配下におけるんだろう?」
「…ックソ!この土壇場でですかァ!?…これだから、聖女の関係者は嫌なんですよォ!……ック、傷がァ…!」
…思った以上に深く斬ってしまったようだ。
ヴァイスは上手く傷を塞ぐ事が出来ないようで、徐々に最後の隠蔽が解かれていく。
(……これが、邪神の使徒の力か。)
確かに強い。
……だが、非常に不安定だ。まるで昔のリサのように、いつ爆発するか分からない感じがする。
「……こうなったら仕方が無いですよォ!!」
ヴァイスが兄に向けて魔法を放ち、器とやらを回収する。
「もう!私自らの手で邪神を復活するしか無いようですねェ! 絶望に打ちひしがれなさァい!!」
その言葉を残し、空間転移して行った。
「……良かったのですか?」
ヴァイスが去った後、ガイウスが声をかけてくる。
ヴァイスの魔力を感知出来なくても、何をしたのかは分かっているのだろう。若干怒気を含んだ口調だ。
「そろそろ全てを終わらせる時だ。…兄の言葉を聞いていなかったのか?今の私なら完全な邪神相手でも勝てるそうだぞ?」
「それは……。大変失礼しました。この戦いが終わりましたら、如何様な裁きもお受けします。」
私の言葉に納得した表情を浮かべる。
……私が邪神の完全体と戦いたがってると思ってそうだが、無理に否定する事も無いか。
「三人は公爵家の兵を連れ、領内の虫を一掃せよ。その後、ガイウスとガロは東進し、かつて兄上が進んだ道を辿れ。…但し、今度は救う為だ。全ての街と民を救い、かつての罪を清算して見せろ!」
それ位で清算出来るかと言えば、答えは否だろう。
だが、せめてそれ位はして貰わないと、私も配下にしようとは思えない。
「「……御意!!」
「ジュリ、ザダと戦ってみてどうだった?二人の戦いだけが読めない。」
ガロやガイウスの戦いは、お互いの傷や周囲の状況で大体分かる。
ガロの怪力はリサに通じず、ガイウスの技術はアリスの速度に負けたんだろう。
流石に二人とも龍の力は使ったようだが、それでも余裕は有ったはずだ。
「それが……。信じられないのですが、あの方は人工的な『原種』ですわぁ。」
原種……確か、漆黒骸骨がそうだったか。
ジュリに話を聞くと、原種とはこの世界の理から外れた存在で、原種の力を使ったザダの攻撃は、あらゆる防御が通じなかったとの事だ。
ただその体にかかる負担も非常に大きいようで、数回使って倒れてしまったようだ。
「古代王国でも成し遂げられなかった秘術ですわ〜。……手法は残忍極まり有りませんが……。」
ザダはいわゆる合成獣のような存在だ。
その寿命も長くは無いはずだとジュリが教えてくれた。
(…力を使った事で魂が半分程失われているのか。兄の魔法が無かったら、一発使って即死だったろうな…。)
「ザダは公爵領から虫を駆除した後、領内の治安維持に当たれ。決してその力は使わないようにな。」
「……御意。」
少し不服…と言うか、自らの未熟さを悔いているようだ。
「安心しろ。その歪な体はすぐに治す。…だが、暫くは十全に力を発揮出来ないだろう。回復したら全力で私に仕えろ。」
そう言ってから、ザダの魂を見る。
……幾つかの魔人や亜人の魂がザダ本来の魂にこびりついている。
それも、呪詛を吐き散らしながら…。
(これは…酷いな。取り敢えず、魂を引き剥がして、そのまま浄化してやろう。……ック、これは、予想以上にキツイな。…これが魂魄魔法か。)
ヴァイスの魔法を受けたので見様見真似で試してみたが…ハイエルフが苦痛を浮かべる訳だ。
世界から拒絶されているかのような感覚だ。
それでも何とかやり終える。
ザダはジュリが言う程、世界の理から外れている訳でも無いようだ。
恐らく神のレベルには通用しないだろう。
「…御意!」
ザダが元気に返事をする。
少しはやる気を出してくれたようだな。捨てられないと分かっただけでこの変わり様か。
体が治った事には気付いてないようだが、虫との戦いを重ねれば自ずと気付くだろう。
「この公都には暫く雨を降らせる。私と兄の加護が得られるから、兵士達は暫く雨に打たれてから行け。」
『星と龍よ、我らに従う者に力を』
聖句を唱え、雨雲を呼び出す。
私と兄上が戦っていた時に一瞬だけ降った雨だ。
私達の力を多く含んでいて、私も雨に打たれた事で魔力の構成が分かった。
星の力は構成を真似ただけの紛い物だが、それでも十分な力を得られる。
因みに聖句は適当だ。これはシェールの魔法では無いが、演出も大事だからな。
「……これは。」
「力が湧いてクル…。これナラ…!」
「アタタカイ…。」
私に一礼した後、三人は兵を指揮しに行った。
…どうやら兄の指示で、公都の兵は一ヶ所にまとめられているようだ。
(…兄も、私と戦った後に虫と戦うつもりだったのか…?この街の守りを置いて無いのは気になるが…。)
この街は兄にとって守るべき街じゃ無かったのかも知れない。
自由にやってる分、非常時も自由にやれと言う事だろうか…。
「ディ!!」
「「「「ディノス様!!」」」」
「「ディ様ーー!!」」
母上と黄金郷、それにセバスが戻って来た。
弟は一命を取り留め、取り敢えず魔王化も止まったようだ。
来る途中に会ったザダ達に引き渡したようなので、兵士達が面倒を見てくれるだろう。
黄金郷も無事教会を守り、悪党達は軒並み潰して来たようだ。
覚醒した二人が居れば敵無しだろう。
本邸の方が騒がしくなって来たので、一旦こっちに来たようだ。
「それじゃ、行こう。決戦の地へ。」
皆を連れ、異界門へと向かおう。
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