兄との戦い
「……兄上、この男の話は聞いていましたか?私達が戦えば、この男の思うツボですよ?」
一応聞いておく。
「…貴様こそ気付かんのか?ヴァイスは四つの器を手中にしている。邪神の使徒だと言うし、その気になれば今すぐ復活させられるんじゃ無いか?」
兄の言葉に驚く。
ヴァイスを見るが、黙ったままだ。
どうやら私達が戦うのを待ってるみたいだな……。
「そして、あれだけの力を持って邪神が生み出されれば、オレ達単体では危ういだろう。だからこそ、ここで戦い、一つにまとめるのだ。」
そう言って、兄が不敵に笑う。
だが……。
「……ただ単に、兄上が戦いたいだけでは?」
そう思えて仕方ない。
「…ふ。貴様もシェールの何たるかが分かって来たようだな。強者を前にして、戦わずになどおられん。…貴様はオレ達とは毛色が違うようだし、心から楽しめそうだ。」
やはりそうか…。
(と言うか、兄はそれで良いかも知れんが、私としてはシェールの器なぞ欲しく無いのだが…。)
器を回収したら、一時的にせよシェールの血に飲まれると思う。
そのせいで、とんでも無い事を引き起こす可能性だって有るのだ…。
(…だが、止められそうに無いか。)
実際、私も兄の言葉を否定する事は出来なかった。
少なくとも今のままでは、邪神を止める事は出来そうに無い。
「…まずは小手調べだ。受けてみよ。」
『隕石』
私が答える前に魔法を放ってくる。
……仕方無い。
もはや戦う他有るまい…。
「獄焔!」
いつか使った、ゲーム最強の魔法を放つ。
あの時よりも改良してあり、質量を持った火柱が隕石を迎え打つ。
「「おお…!」」
兄の配下も目を覚ましたようだ。
目の前の光景に目を奪われている。
(徐々に……押されているな。流石に通常魔法一発で相殺するのは無理か…。)
隕石が真っ赤に赤熱し、私の出した火柱を押し戻してくる。
このままでは力負けしてしまうので、新たに魔法を放つ。
「天道!」
各地で使った天壁の修正版だ。
直径1M程の円柱が、真っ直ぐ隕石に向かって伸びていく。
『ドオオォォォォン!!』
轟音と地響きが伝わってくる。
隕石は……無事砕け、空中で獄焔によって燃やし尽くされていく。
「……見事だ。ただの魔法でオレの星魔法を砕くとはな…。」
(…ギリギリだったよ。幼い頃から修練しておいて良かった…!)
続けて、兄が魔法を使おうとする。
(…それは!)
「兄上!!」
「……なんだ?」
「…星魔法を封印して頂けませんか?…私も『龍脈之要石』と『魔力操作』の使用を止めます。」
そう言って、要石を懐から取り出す。
ヴァイスが何か驚いているが、無視して話を続ける。
「私達が本気で戦えば、この公都は壊滅します。ですからどうか、お願い出来ないでしょうか。」
…夢か何かで、何度も公都が滅ぶ風景を見た気がする。
……あの時、リサ達は一体どうなったんだろうか……。
「……ふん。力を制限しての戦いなぞ御免だが……。貴様らには借りが有るか…。……良かろう。その考えに乗ってやる。」
(……恐らく、弟の元に母上達が向かった事を言っているんだろうな。…思ったより義理堅い人だ。)
これで最悪の事態は回避出来そうだ。
「…だが、貴様が二つの武器を封印するのに、オレが一つでは割に合わんな。……部下達が情けない姿を見せたようだし、挽回の機会を与えてやるか。」
(ん…?何を言って……?)
そう思った瞬間、兄が魔法を発動する。
……それも、初めて見る魔法だ!
『星よ、我と共に』
その聖句と共に、ガイウス、ガロ、ザダの体が光り出す。
……まるで、第二魔法のようだ。力は制限されているようが、これは……。
何故、見た事も無い魔法の事を考えたのかは不明だが、そう思ってしまった。
三人から爆発的な力が吹き出している。
(……星の加護を受けたかのようだ。私の龍強化と同等…いや、それ以上の力を感じる。)
「第三魔法だと…?有り得ないのです…!今代のシェール達は一体、どうなっているんですかァ!!」
ヴァイスが這いつくばりながら喚いている。
…そう言えば、第三魔法まで習得したのは初代だけだと情報が有ったな。
兄は歴代のシェール家の中でも最高峰に到達していると言う訳か……。
「これは……アイズ様の御力…!何と素晴らしい…!!」
「内側から、温かい力が湧いてクル…!本能ヲ!力で押さえつけられル!!」
「凄イ……。コレナラ、出来そうデス…。」
三人が自分の力を確かめるように体を動かしている。
……先ほどとは桁違いの力だ。
もはや覚醒とかの次元を超えている。
「リサ、アリス、ジュリ。任せたぞ。」
「「「はい!」」」
少しだけ不安だが、三人に任せるしか無い。
ティニーにはヴァイスの見張りをお願いし、横槍を防いで貰う。
「…では、オレ達も始めようか。」
「……はい。」
兄はそれなりに消耗しているようだが、回復もせずに戦うようだ。
これが『魔力操作』の代わりと言う訳か。
結局戦う事になってしまったが、公都の壊滅だけは避けられそうだ。
後はうまく決着をつけたいが…。
(手加減出来る相手じゃ無い。全力で相手をしなくては。)
ここからは未知の領域だ。
最善の道を進んでいる事を信じ、最後まで突き進もう。
「行くぞ。」
兄…アイズが神速で剣を振ってくる。
距離は離れているのに、当たり前のように斬撃を飛ばしてくる。
その斬撃を斬って消滅させていくが、思った以上に重い。
(なんだ…?ただの斬撃じゃ、無い……!?)
「これが…『星剣』の効果か……。」
「…ほぉ、知っていたか。オレの特性は『星』。貴様を食らい、より巨大な星へと変貌してやろう。」
今度は直接斬りつけてくる。
私も神剣でそれを受ける…!
「…私の特性は何でしょうね?…この剣は母上に浄化して頂いた物。私は皆に支えられてここに居ます。…例え星が相手でも、負ける気は有りません…!」
「良く言った…!」
そのまま近距離での剣戟が始まる。
お互いの剣がぶつかる度に衝撃波が飛び、周囲が崩れていく。
本邸は一部が吹き飛び、押し潰れ、斬られている。
周囲で戦っている皆なら避けてくれると信じ、全力で剣を振る!
鏡合わせのように。
『ガキィィン!』
同じように攻撃を繰り広げる。
「ギャリィィィン!!』
私が頭を狙えば、アイズも頭を。
『カァァアァァン!』
アイズが足を斬ろうとしたら、私も足を。
(…なんだ、この感覚は……。)
私自身、戦いに没頭して行く。
まるでこの戦いがこの世界の全てのように……。
…他には何も考えられない。
初めての感覚…いや、どこかで感じた事も有るような……。
(漆黒骸骨や、黒皇帝と戦った時のような…?)
それ以上の感覚だ。
…戦いとは、これ程楽しかったのか。
「ハハハ!ハハハハハ!!見事だ!!!褒美を与えよう!!!!」
アイズが渾身の一撃を放ってくる。
「ハハハハハ!!返礼だ!!!私の攻撃も受けてみろ!!!!」
その攻撃を難なく防ぎ、反撃する。
周囲では皆が私達の姿に見入っているようだが、全く気にならない。
……戦いとは!こんなにも……!!
(シェールの血に飲まれている訳では無い。……むしろ、これは……。)
心の闇が晴れていくようだ。
今まで以上に体が動く…。力が溢れて来る…!
アイズも力を増しているようだが、私の比では無い。
…徐々に形勢が私に傾いていく。
「ハハハ!見事だ!!!最後まで楽しませて見せろ!!!!」
「ハハハハハ!!そちらもな!!!私をより高みへと連れて行け!!!!」
まるで獣のように歯を剥き出して笑い、力の限り剣を振り合う。
私達を中心に魔力の渦が巻き起こり、いつの間にか雨が降り注いでいる。
だが、そんな事など少しも気にならない!
「食らえ!星の一撃を!!」
「食らえ!神の一撃だ!!」
お互いに最高の力を込めた一撃を放つ。
お互いの剣がぶつかり、狭間の空間が歪んで行く…。
……そして、その歪みが収まった時、全ての衝撃がアイズへと向かっていった。
「……見事だ。」
アイズは悠然と立ち尽くし、天を仰ぎ見ている。
体はボロボロの状態だが、まだ剣を握りしめている。
先ほどまでの狂乱が嘘のように、穏やかな空間だ。
私の心も、全ての感情を吐き出したかのように、凪いでいる。
雨も一瞬の事だったようで、アイズへと穏やかな光が降り注いでいる。
「…では、これで最期だ。見事受け止めて見せよ。」
「…………はい。」
アイズが静かに剣を構える。
その構えから力強さは感じられないが、今まで以上の気迫が感じられる。
細心の注意を払い、相対する。
…アイズがゆっくりと動き出す。
そのまま上段から斬りつけてくる。
余裕を持って受け止める、が…。
(重い…!なんだ、この重さは…!)
今までで一番の力だ。
それも数段上の力…!瀕死の状態でここまでの力が出せるとは…!
アイズの剣から凄まじい力が溢れ出している。
まるで二つ目の星が出現したかのようだ…!
私も剣に力を込め、必死に抗う。
神剣も私に呼応し、眩き光を放っていく…!
「……終幕だな。貴様との戦い、心ゆくまで楽しめた。」
神剣の光が収まると同時に、星剣の力も消えて行った。
後に残ったのは満足そうな顔をした兄と……。
「……何故、最後に剣を引いたのですか?」
どこか納得してない私だった。
「…ふ。最後のアレは星魔法だ。知らぬ内に、剣を媒介にして使えるようになっていたようでな。」
そんな私を見て、少しだけ面白そうに兄が微笑んでいる。
(…だから、あれほどの力が。……くそ。私から言い出した事とは言え、こんな結末…。)
とても納得出来なかった。
正直、最後の攻撃は抑え込む事が出来ないでいた。
あのまま兄が剣を引かなかったら、違う結末となっていたかも知れないのだ。
「…今の貴様なら、例え完全な邪神が相手だろうと何とか出来るだろう。
私の器とやらは好きにしろ。」
そう言った後、三人の家臣の方を向く。
ガイウス達はボロボロの状態で、対するリサ達は軽傷だ。
……戦いに夢中になり過ぎていたが、どうやら決着がついていたようだな。
「ガイウス!ガロ!ザダ!どうやら勝てなかったようだな!
…今後の主はそこなディノスだ。存分に尽くせ!まずは虫どもを追い払って見せよ!!」
「「「……御意!」」」
悔しさと悲しさが混ざり合ったような表情で、三人が返事をする。
……この三人は心からの忠臣だったようだな。
「他の家臣達にも告げておけ。……と、言う事だ。シェール家の家臣は貴様の物だ。後は任せるぞ。」
……兄上がしてやったりと言う表情で私を見る。
そう言っておけば、私が家臣達を不当に扱わないと信じているのだろう。
例え罪を犯していたとしても、自分のせいにしろとでも言わんばかりの眼差しだ。
「兄上と戦う事が出来て良かったです。……後は全てお任せ下さい。」
「……うむ。オレは冥府の底に行く。もう会う事は無いだろう。……さらばだ。弟よ。」
そう言ってから目を瞑り、果ててしまった。
偉大な兄を持てた事、そしてその兄を失ってしまった事に、私も天を仰ぎ見るのだった…。
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