父との会話
「……ようやく来たか。」
玉座の間のように作られた謁見の間で、怪物がゆっくりと喋る。
相変わらず昏い目をしているが、その存在感は圧倒的だ。
この部屋全てが父の空間のようで、一緒について来た皆が苦しそうにしている。
(…結界。)
リサ達の周囲に結界を張っておく。
龍の守りさえ効かないオーラだったが、『魔力操作』を使った結界で防御する事が出来た。
そのまま、私以外の人間は壁際に下がらせておく。
「…父上、お久しぶりです。…単刀直入に聞きますが、父上は今でも邪神復活を目論んでいるのですか?」
父が邪神復活を諦めれば、目的の半分は達成出来る。
王には父と戦うと言ったが、父を引退させる事が出来れば納得させられるはずだ。
「……どこからその話を聞いたかは知らんが、今でもそのつもりだ。」
「何故ですか? 邪神を復活させてどうしようと言うのでしょうか…?」
やはり、ゲームと同様に邪神と戦いたいだけなのか…?
それなら、もう戦って止めるしか無さそうだが…。
「……この血を与えてくれた礼をする為だ。シェールの血は強き者を求める。行く着く先が邪神となるは当然だろう。」
……やはり、無理か。
「……そろそろ話は終わりだな。では、始めようか。」
「お待ち下さい。父上。……本当に、戦うしか道は無いのでしょうか?」
「何を言うかと思えば……。貴様は戦いに来たのだろう?この公都に。余を打ち倒さねば邪神復活は止められんぞ?」
「それは……。確かに、そうですが……。」
「ならば道は一つだ。…手加減はせんぞ。」
(……この光景、何度も見た気がするが……。)
「剣は……抜かないのですか?」
(そうだ。何故、いつも剣を抜かない?いつも椅子に座って…。……いつも?一体何を考えている?)
「……ふ。シェールの戦いは結局の所、どちらの魔法が強いかだ。貴様はシェールの魔法を使えんようだし、余の魔法を受け切ったら貴様の勝利としてやろう。」
「…お待ち下さい! どうか、ディの、息子の話を聞いて下さい!!」
父が魔法を使う直前、母上が静止の声を上げる。
そして、私の方をジッと見てくる。
(母上……。)
よく見ると、皆不安そうな顔をしている。
まるで、この戦いの先には、悲劇が待ち受けていると知ってるかのように……。
「剣を…。剣を見せてくれませんか?」
咄嗟に言葉が出た。
…そう言えば、シェールの剣は持ち主の特性に合わせた剣に変わると、どこかで聞いたような……。
「……良かろう。」
父が母上の事を一瞥した後、私の願いに応える。
(アレが……。)
父の剣か…。
まるで、全てを拒絶するかのような剣だ…。
「これが余の『虚無剣』だ。……少し興が削がれたな。其方の剣も見せてみよ。あれからどう変貌を遂げたか見てやろう。」
(…そう言えば、剣を見せるのは初めてだな。……当たり前か。この剣を貰ってから、会った事など無いんだ。)
剣を鞘から抜く。
今は神剣状態では無く、聖剣のままだ。
「…………それが、其方の剣か……?」
「はい。」
(母上の力を借りて浄化した、世界に一つの剣だ。)
「……ハハハハハ!!ハハハハハハハ!!!まさか!シェールの人間が聖剣を使うだと!?」
父が呵々大笑してい……!
(なんだ……!!今……!馬鹿な…。そんな、事……可能なのか……?)
私が驚愕の表情を浮かべていると、いつの間にか父の笑いが止まっていた。
「……どうやら、気付いたか。だが、気にする事など何も無い。存分に戦おうぞ!!」
「……。」
父が戦いに誘ってくるが、私には、とても応じる事など出来なかった……。
「……。」
「……。」
…そのまま沈黙が流れる。
「…ふん。聖剣の使い手だと言うなら、戦う気などおこらんか…。無理に戦わせても本気は出さんだろうな……。」
「…申し訳、ありません……。」
「……いや、良い。」
父が天井を仰ぎ見ている。
「…まさか、最期の時を、こんな愉快な気持ちで迎えるとはな。…それも戦いも無く。……ディノス。我が…、いや、マイハの息子よ。礼を言おう。」
そう言って、父は目を瞑った……。
「……え? …どう、なったのですか?」
後ろから、アリスの声が聞こえる。
振り返ると、皆がよく分からない顔をしていた。
……いや、トバスリーだけは穏やかな表情をしている。
「父上は死んだ。……いや、正確に言うならずっと死んでいた。意思の力で無理矢理心臓を動かしていたんだ…。」
そんな事が可能なのかは不明だが、現に目の前で起こっていた。
笑っていた時は気が緩んでいたのか、ずっと心臓が止まっていたのだ……。
「ヌルド様はずっと昔、二人の肉親を手にかけた時から、こうなる運命だったのです。むしろ、ここまでもった事が奇跡かと…。」
トバスリーが父の横に移動し、黒い布を被せる。
「数年前からあの状態でした。邪神と戦うと言う怨念で体を動かしていたようですが……。最期は人として死ねたようです。…ディノス殿。感謝致します。」
「……ああ。」
「アイズ様は中庭でお待ちです。…後はお二人で、最後の決着を。」
「分かった。」
……まさか、こんな結末を迎えるとは…。
父はあんな状態で戦っていた…いや、戦おうとしていたのか?
あり得るのか?あんな事が…。
私には、とても出来そうに無いぞ……。
「ディ。」
母上が手を握って来たので、二人で父に一礼する。
(シェール家の結末がどうなるか、見守っていて下さい。)
良い父親とは言えない人だったし、最悪の領主としか呼べない人間だった。
それでも、あの人智を超えた技を目にしたら何も言えなくなってしまった。
ある意味、父の偉大さに圧倒されているのだろう…。
謁見の間を後にする。
まだ気持ちの整理はついていないが、兄が待っているはずだ…!
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