装備品完成
翌日王都に戻ると、皆から笑顔で歓迎された。
…それは良いのだが、ジュリの鼻息が荒い…。
「次は…。」とか「やっと…。」と言って危険な笑いをしている。
…一応注意しておこう。
(アリスは皆に連れられて行ってしまったな…。)
仕方無いので私室に戻る。
そろそろ装備品を完成させないとな。
「ディノス様、ミルクです。…余り根を詰めましては……。」
「…ああ。もう少しで完成する。……皆を呼んでおいてくれ。」
装備品ももうすぐ完成する。
これでようやく決戦に向けた準備が整うぞ…!
古都から持ち帰った至宝を選別し、使えそうなものに力を込めていった。
その上で私達が使いそうなものを残し、他は皇国…ミアに返している。
込められた力が変わっているので若干性能は変わっているが、効果自体は元のアイテムと似ているはずだ。
私が作った装備品は四種類だ。
まずは『龍剣』。
これはずっと欲しかったアリスの二本目の武器だ。
これで皆のメインウェポンは完成となる。
剣自体の性能は雷剣に一歩劣る。
雷剣は黒皇帝の宝剣に雷の宝珠(魔石)を付けた物だ。
龍剣に使った剣の元は使い切りの魔法剣だったが、剣自体はとてもよく出来ていたので使わせて貰った。
その剣に幾つかの宝珠を粉にして、塗り込んでおいた。
助言を貰う為に呼んだ鍛治師は最初怒っていたが、やがて黙り込み、次の日から来なくなってしまった。
他に呼んだ鍛治師も同様だったので、全て自己流だ。
(最初は宝の山を見て、とても喜んでいたのにな……。)
取り敢えず、剣の性能は何故か増していると言っていたので良いだろう。
その上で、持ち手の所にナックルガードをつけておいた。
龍の形を模した物で、至宝の一つだ。
鉱物っぽかったから土魔法で無理矢理つけておいた。
龍の形は崩して無いから大丈夫だ。
そうして完成した龍剣は、雷剣に迫る性能となっている。
龍を自在に出せるから、使い勝手としては雷剣以上かもしれない。
「アリス。龍剣を渡す。遅くなったが、頑張って使いこなしてくれ。」
「はい!……凄い!手によく馴染みます!今までの剣よりずっと使いやすいです!」
今までは名剣では有るものの、魔法的な力は殆ど無い物だった。
大幅な戦力アップだ。
次は…『地の苦無』と『天の羽衣』、リサとティニーの装備品だ。
地のクナイはリサのサブウェポンで、『龍脈之要石』の力を少し分けている。
その一番の効果は、いわゆる影縫いだ。
影が必要な訳じゃ無いが、敵の足元にクナイを刺すと身動きを封じる事が出来る。
その効果は絶大で、私でも離脱するのに少しの時間を要する程だ。
その間は好きに攻撃出来るだろう。
もちろん、通常の飛び道具としても十分強い。
「リサ。これからはこのクナイを使うように。」
「感謝致します。……これは。とても素晴らしいです…!これならプレイ……戦術の幅も広がります…!」
「……ああ。」
何か聞こえちゃいけないワードが聞こえた気がするが、気のせいだろう。
気にしたら負ける気がする。
…天の羽衣はリュミドラから貰った薄い羽衣に、『天空の靴』と言うアイテムの性能を付けた物だ。
何故か私があの羽衣を気に入ってると言う噂が広がっていて、あの布を使う事になった。
素材としては十分だったので使わせて貰ったが…噂の出所を調査する必要が有るだろう。
効果は空を自由に歩ける事と、高い防御力だ。
元々の『天空の靴』が空を飛べる効果を持っていたので、割と簡単に出来た。
靴自体壊れていたので気軽に使えた。
来て貰った錬金術師や魔法具職人達は鍛治師と同じように帰ってしまったので、助言を貰う事は出来なかった。
「ティニー。飛び跳ねる時はスカートに気をつけてな。…母上も、どうぞ使って下さい。」
「ちゃんと見せても良いのを履いているわ!…でも安心して!ディノス以外で見たヤツの記憶は消しとくから!!」
「ありがとうね。お空を飛ぶ事がずっと私の夢だったのー。」
母上は公都にも来ると言っていたので、もしもの時は空に逃げて貰う。
転移石も有るし、大きな危険は無いだろう。
そして、最後まで調整していたのがこれだ。
「エメルト、ナタリー。覚醒珠を渡す。手に持って珠に集中してくれ。」
「「はい!!」」
天人娘と闇人娘に珠を渡す。
他の黄金郷のメンバーは危険なので今回はお預けになる。
両手に持った珠の上に片手ずつ乗せる。
「珠に集中して、力を込めていってくれ。」
「「はい!!」」
私もサポートをする。
(……これは、思ったよりスムーズに行きそうだな。)
少しずつ二人が発光していき、最後に強く光った事で完了した。
(無事成功したな。)
二人には羽と、ナタリーには角が生えていた。
「羽……。それも天使っぽい羽ですか。」
「我は…コウモリのような翼と…。角?」
「おめでとう。二人は『天使』と『悪魔』に覚醒した。これで今まで以上の力を出せるよ。」
二人は亜人種だが、『精霊』では無く元の種族に先祖返りしたみたいだ。
ここで言う『悪魔』は精霊の一種で、悪の心を持った存在では無い。
「私が…天使ですか?」
「我が…悪魔…?」
リュミドラとの話は伝えているので、覚醒の事は知っているはずだが、まだピンと来てないようだ。
「そう。Sランクの壁を越えてExランクになったんだ。…でも、アイテムのお陰だから慢心しないようにね。」
二人ならそんな事にはならないだろうが、一応伝えておく。
「アイテム…。!? ディノス様!覚醒珠が!!」
「消えてる!!そんな!?折角頂いた至宝が!!…こうなったら腹を切ってお詫びするしか!!」
「大丈夫!大丈夫だから。ナタリーは服を着なさい。」
躊躇無く上を脱いだな…。
「あのアイテムは二人の羽と角に変わっている。覚醒を解くと戻るよ。」
服を着せた後に二人を戻す。
しっかりと二人に握られた私の手の上に覚醒珠が現れた。
「こんな感じだ。」
二人の姿も元に戻った。
これは覚醒玉と言う、ゲームで言う限界突破用のアイテムを改造した物だ。
ゲームでは限界レベルを引き上げる効果を持っていた。
使用済みだった空っぽの玉に力を込めたらこうなったのだ。
最初は用途が分からずにリュミドラに聞いた所、驚いて王都にやって来た。
ハイエルフが世界樹を離れるのはマズいんだが、私の作った物も相当ヤバいらしい。
リュミドラからは調整に手を貸すから、門外不出として欲しいと言われた。
限られた仲間内でのみ使い、それ以上広げるのは止めて欲しいと懇願され、土下座までされそうになったのだ。
もちろん承諾し、つい先程まで調整していた訳だ。
リュミドラは私のベッドで寝ている。
……あ、ジュリが抱えて別の部屋に移したようだ。
広めなたくない理由は、『私の仕事が無くなるから。』だそうだ。
「次こそは……妾も手を包み込んでさしあげますわ…!」
「二人ばっかりズルいわよね!イヴ!頑張りましょう…!」
雪女と夢魔娘がやる気を出している。
二人なら近い内に使えるはずだ。
「僕達には何も無いー?」
「ぼく達悪い子ー?」
銀狼娘と金狐娘が悲しそうにしているので、他に作ったアイテムや食べ物をあげる。
エルフ達も参加してきたので、皆の口に飴を入れていってあげた。
黄金郷の武器についても魔法的な面での調整はしておいた。
魔力の流れや許容量を増やしておいたのだ。
(これで完成だな…。)
皆の武器はこんな感じだ。
私は神剣と龍脈之要石。
リサは重力刀と地の苦無。
アリスは龍剣と雷剣(黒皇帝の宝剣)。
ティニーは純白の天使のグローブと天の羽衣。
ジュリは賢者の杖と賢者の石のようなモノ(ピンク色のスライムみたいな物)。
母上は天の羽衣だ。
ティニーは元の天使のグローブに白宝珠の粉をかけていたので純白の天使のグローブにした。
私のように魔力的に繋げてもいないのに一つのアイテムになるんだから、ティニーの方がよっぽどおかしいと思う。
ジュリの賢者の石は……以前迷宮で取れた『古代王国の秘宝』らしい。
あれは素材で、今は加工したモノとの事だ。
見せて貰ったが、絶対賢者の石じゃ無い。
賢者が持っていそうな物だから適当に名前を付けただけだと思う。
名前も『賢者の石のようなモノ』だからな…。
それから、リサには許容限界まで魔力を貯めて貰い、左腕と左脚に文様を浮かび上がらせている。
あれから改造を重ねて、今は龍の形になっている。
今となっては魔力暴走をリサ自身で制御出来るし、限界まで貯めた状態で戦いに向かうつもりだ。
防具は普段着ている服をそのまま使う。
以前は胸当てや足甲くらい付けていたんだが、龍の守りを得た事で不要になった。
この守りを突破出来る攻撃なら、大抵の防具は意味を成さないだろう。
私は学園のブレザー服に、白都で貰ったローブを付けている。
ローブは豪華過ぎると思うのだが、皆の強い勧めに従った形だ。
リサはいつものメイド服だ。
黒を基調としたシックなデザインで、長袖にロングスカートだ。
アリスは戦闘時は紳士服を着ている。
見慣れてくると、アレはアレで良いモノだ。
ティニーは黒の修道服に、やはり黒の革ジャンを着ている。
羽衣はストールのように使っているようだ。
ジュリはずっと変わらず、一枚の布を体に巻きつけているみたいだ。
一度薄布でやろうとしていたので、止めた後説教しておいた。
母上は…最近修道服を着るようになった。
フィアスとの戦いの後からだ。何か思うところが有ったのだろう。
ティニーとは違い、白を基調とした修道服だ。
(これで準備は万端のはずだ……。だが……。)
何かが足りない気がしている。
それも、重要な何かが……。
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