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アリスの故郷

フィアスとの戦いの後、どこからともなくトバスリーがやって来た。

恐らくどこかから監視していたんだろう。


事の顛末を告げ、フィアスの遺灰…ならぬ遺砂と、ディーガンの身柄を渡す。

ディーガンはしっかり裁くと約束させたから、もう会う事は無いだろう。


アイズとの戦いの際には公都へと呼ばれるみたいだ。

どんなに伸ばしても十日程が限度で、その頃には異界門が開くと言っていた。


同じタイミングなのは困るが、こちらの準備もまだ出来ていない。

出来るだけ引き伸ばして欲しいと頼んでおいた。


黄金郷エルドラドもすぐに帰って来た。

やはりトバスリーが後始末をしていたようだ。



「では、戻りましょう。黄金郷エルドラドも王都へ来て下さい。」


「「「はい!」」」


何となく元気が無い私や母上に代わり、リサが指示を出してくれている。

これから王都に帰る所だ。


「リサ姉!あるじ様と一緒に行きたい所が有るんだ!…少しだけ、行って来ても良いかな?」


「…そうですね。ディノス様を任せましたよ。」


「うん!…あるじ様!行きましょう!?」


「あ、ああ。」



アリスに手を引かれ、一緒に転移する。

到着した先は数軒の農家…と少しだけ大きな家が有る集落だ。

…ただ、誰も住んでないように思えるが…。


「ここはボクが生まれ育った場所なんです!今はみんなでユガハ家に行ってるんですよ!」


アリスが両手を広げて説明してくれる。

ユガハは母上の旧姓で、ニムド家が今仕えている家だ。


「みんな、か。没落してもついて来てくれるなんて、素晴らしい関係だな。」


普通は新しい領主に仕えなおすか、大きな街に出て仕官先を求める。

この集落を見る限り、ニムド家は没落してからこの地に移り住み、雌伏しふくの時を過ごして来たんだろうな。


「はい!みんな良い子達ばかりですよ!この前行った時も大きくなってて驚きました!」


「ユガハ家の守りを固めに行った時か。…アリスの兄にも会ったが、精悍で優しそうな人だったな。」


異界虫に備えて大陸中を周ってた時、当然母上の生家も訪れた。

私の伯父に当たる、現ユガハ家当主は私を見ると驚き、母上の面影が有ると喜んでくれた。


母上も久しぶりに訪れた実家に喜んでいたが、母上の姿を見たユガハ家一同は驚愕していた。

昔のままの姿だった為、神の使いとして戻って来たのかと思ったらしい。


「兄上も父上も、あるじ様のお姿を見て感銘していましたよ!『優しくも力強いオーラに圧倒されたよ。』と言ってました。後は……マイハ様のお姿にも。」


「…昔から母上を知ってる人は皆驚いていたみたいだからな。」


アリスの兄は真っ赤な顔で母上を見ていたが…見なかった事にしておこう。


「龍を出した時は皆腰を抜かせて…。自分達に宿ったら一転して大喜びでしたね。」


「強大な力を手にしてもただ純粋に喜んでいたからな。」


『これで民を守れる。』と、心から喜んでいた。

本当に良い人達だよ。


「ここがボクの家ですよ!わー!凄い小さく感じます!」


私に説明しながらも、久しぶりの家を堪能しているようだ。

幾つかの家具が置かれ、薄らと埃をかぶっている。

それでも汚れは殆ど無く、汚らしい感じは全くしなかった。


「ちょっと待ってて下さいね。ボクの部屋は見せても大丈夫…………です!どうぞー!」


アリスが自分の部屋を確認してから案内してくれる。

暗かったので、今は家の各所に魔法で灯りをつけている。

太陽の光とはまた違う、柔らかい明かりだ。


「これが、アリスの部屋か。」


「…はい。ベッドしか無い、小さな部屋なんですけどね。」


子供には大きなベッドが置いてあり、当たり前だがマットや布団は置いてない。

サイズが大きいのは大人になってもそのまま使うからだろう。

何故かホコリ一つ無いが、そう言う事も有るか…。


「貴族でも無いならこんなものだろう。むしろ自分の部屋が有るだけ凄いじゃ無いか。」


農家なんかだと、兄弟で一部屋なんかも普通と聞いた。

その辺の一般市民の情報はエルフの三つ子が仕入れてくる。幼年学校で色んな人と仲良くなってるようだ。


今のアリスの部屋は小物が並んでいる。この部屋だと入りきらないだろう。


(アリスは可愛いモノが好きだからな…。)


ゲーム通り顔立ちは凛々しく、まさしく麗人といった感じだ。

真っ直ぐの金髪をたなびかせて剣を振るう姿は理想の女騎士にも見えるだろう。

でも、性格は可愛らしいし、可愛いもの好きだし、メイド服を好んで着る。


(メイド服は私の要望だがな…。)


今でも我が家のマスコットだ。


「へへー。そうですよね。次は周りを案内しますね。」


ここでみんなとチャンバラした、鬼ごっこをしたと説明してくれる。

かなりヤンチャな幼女だったみたいだ。



一通り案内された後、小高い丘に上がり、集落を見下ろす。


「小さい頃はずっと大きな村だって思ってましたけど、いざ戻ってみると小さな集落でした。家も思った以上に小さくて驚きました。」


「そう言うものかもな。」


私にはそう言う経験が無いので分からないが、少しだけアリスが寂しがっているように見えた。

帰るべき故郷が無くなって、郷愁に浸っているのかも知れない。


少しでも気持ちが紛れるように、軽く手を握ってやる。


「…あるじ様には本当に感謝しています。兄上から聞きました。昔、あるじ様から貰った手紙とアイテムのお陰で一命を取り留めたと…。

 魔物の討伐をする時に敵を追いかけて行ったけど、途中であるじ様の手紙を思い出して引き返したんです。そのお陰で敵の罠にはまらず生還出来たそうです。その時負った怪我も、同封されていたアイテムで完治したって…。

 …本当に、ありがとうございます。」


「…ああ。そんな事も有ったな。」


アリスが来た時に送った手紙の事だ。


「物語の話と同じだったので驚きました。…本当にあるじ様はニムド家の救世主です。その上、ユガハ家だけでなく、ニムド家にまで龍の守りまで頂いてしまって…。」


「アリスの兄上なら使いこなせそうだったしな。…それにアリスの家族だ。当たり前だろ?」


私にとっても家族同然だ。

いずれ本当にそうなるし、見捨てるなんて有り得ない。


あるじ様…。あの龍の化身、普通ならいくらお金を積んでも手に入らないモノなんですよ?それを気軽に……。ボクがどれだけ感謝してるか、ちゃんと分かってます?」


そう言って、一つずつ私への感謝を言ってくる。

昔に慰めた事から始まり、宝剣や叙爵した事…。


「最近はボクに朝の支度を任せてくれるのも感謝しています。お陰であるじ様の寝顔をじっくり……。ううううん、ゆっくりとあるじ様を起こせます。ノスリ達に着替えを任せるのはちょっと考え直して欲しいですけど…。

 あ、たまに寝癖を直させてくれるのは本当に感謝していますよ!」


何故か日常のよく分からない事まで感謝されている。

以前は朝の支度をリサに任せていたが、暴走が酷いので最近はアリスにやって貰っている。

人に自分の世話をして貰うのは未だに慣れないが、自分でやると二人が落ち込むからな…。


(『ううううん』って…。そんな慌てて否定しても、もう殆ど言ってるんだけどな。)


それでも寝顔を見られるくらいなら可愛いものだ。


「……だから、元気出して下さいね?ボク達はどこまでも付いていきますから。」


「……ああ。」


どうやら、しっかり気付かれていたみたいだ。

フィアスと戦った結果、彼女が死ぬ事になってしまった。

それ自体は覚悟していたんだが、同時にアイズドリスから母を奪う事になってしまった。


アイズはまだ良いが、ドリスがな……。)


傍若無人で残虐な性格らしいが、まだ一線は超えて無いとも聞いている。

ドリスの年齢は私が公都を旅立った時よりも幼い。

仕方無かったとは言え、ドリスにその理屈は通じないだろう。


(だが…それでも立ち止まる訳にはいかん。ドリスに憎まれようと、最後まで止まる訳にはいかん。)


アリスの手を強く握り返し、改めて決意する。

アリスにも伝わったみたいで、嬉しそうに微笑んでくれた。



「ア!あるじ様!雨デスヨー!」


アリスが遠くの雨雲を指差す。

…確かに、早い速度でこちらに向かって来ているようだ。


(何故、微妙にカタコトなんだ?それに、あの雲……。)


「早ク!早ク!急いでボクの家ニ!」


雲を観察しようとした所でアリスに急かされる。

家に着く頃には辺り一面土砂降りになっていた。


「……急な雨雲だったな。」


「ソウデスねー。確か、この辺りハ、この季節ニ、あの位の雨ガ、よく降る気がしまス。……それより!濡れちゃってますよ!すぐに着替えましょう!」


アリスに上着を脱がされる。

……魔法で保護していたから、お互い濡れていなかったが、全然気付いていないようだ。


「ソ、ソウイエば!裏口にある納屋に藁がまだ残ってるはずデス!それが有れば布団が作れマス!この雨の中帰るのは危ないデスし!今日はゆっくりしていきまショウ!」


「……分かった。用意してくるから、気分を落ち着けておくように。」


目的は分かったが、アリスが緊張の余り別人になっている。

戻ってくるまでにいつものアリスに戻っていて欲しい。


納屋には綺麗な藁が置いてあったので、使わせて貰う。


(……確か、少し前にジュリに高級シーツを渡されてたな。…使わせて貰おう。)


シーツに藁を詰め、布団の完成だ。もう一つ作ってマット代わりにする。

かなり良い藁みたいで、ゴワゴワした感じが全くしない。


(……と言うか、以前寝具店で見た高級品だな。『魔法の藁』とかの謳い文句だった気がする。…そう言えば、アリスは気に入ったみたいだったな。)


部屋に行くとアリスが居たが……。

ティニーが世界樹で着ていた薄い羽衣を身に着けている。


…その日は雨が止んだ後も、家から出る事は無かった。

誤字脱字報告ありがとうございます。


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