魔王フィアス
「貴様は……!ディノス!!そして!!!マイハ!!!!!ようやく見つけた!!貴様らを殺して、私の息子がシェールを継ぐんだ!!!」
私達を見たフィアスが襲いかかってくる。
すぐにティニーが割って入り、外の広場へと弾き飛ばした。
「おやおや…!あの時のガキが随分大きくなりましたなぁ…!上手く当主様に取り入ってペイスを貰ったようだが、あそこは私の物だ!!以前より栄えていると言うし、貴様を殺して奪ってやる!!!」
ディーガンも私に殴りかかってきたので、剣を掴んで広場へと投げる。
「…は?!…何をした!貴様はシェール家の血に目覚めていない落ちこぼれのはずだ!!」
ディーガンが今度はハンマーを振り回してきたので、素手で受ける。
腕力だけはそこそこだが、それだけだな。
ディーガンの攻撃を受けながらティニーの方を見る。
今は母上と二人でフィアスの相手をしているようだ。
「マイハ!!マイハ!!貴様のせいで!!全てが変わった!!ヌルド様の寵愛を得て!!王家の信頼を得て!!その上、息子を使ってシェール家を得るのか!!絶対に許さんぞ!!」
フィアスが叫びながら母上に殴りかかっている。
殴ると言うよりは張り手のような感じだが…その威力は高い。
腕を振る度に空気が震え、砂埃が巻き起こっている。
「…魔法よ!!」
フィアスの欲望の魔法により、周囲の魔力が吸収されていく。
私達は龍の加護が有るから問題無い。
…住民もリサ達が遠くにやった。
(要石よ…!)
大地からも吸おうとしていたので、要石によって封じる。
これで、大気の僅かな魔力と…後は建物からも吸収出来るのか。
村の建物が朽ちていく。
大気中の魔力も失われ、少しだけ息苦しい感じだ。
「何故力が来ない!!これもお前のせいか!!!マイハァァァ!!!!!」
フィアスの髪が白くなっていく。
……それでも、更に力が増していく。
どこからも吸収出来ないはずだが…。
(命を削っている様子も無い…。これこそが法則を無視した効果か…。)
戦闘訓練をした事は無いんだろう。
張り手を食らわそうとしているみたいだが、全て母上が弾いている。
「それなら!!こっちも!!言わせて貰うわ!!!あの人の寵愛なんか!!受けて無いし!!いらないわ!!!貴女こそ!!私の気持ちが分かるの!?愛する息子と一緒の時間が過ごせない事が!!貴女に分かるの!!?」
今度は母上が攻撃していく。
一言一言短く区切り、その度に攻撃をしている。
ティニーに習ったようで、掌底が的確に決まっていく。
「そんな事!!知るか!!何が聖女だ!!絶対に許さん!!」
「私だって!知るもんですか!何が悪女!?ガメツイだけじゃない!!!」
…お互い殴り合っている。
フィアスの張り手はカスリもしないが、それでもまだ諦めないようだ。
(…何と言うか、親が感情剥き出しで戦っている姿を見るものじゃ無いな…。)
いたたまれないと言うか、こっちが恥ずかしいと言うか…。
「フハ…ハハ…ハ!馬鹿が…!何を…よそ見をしている!…隙有りだ!ハァ!ハァ!!」
母上の戦いに意識を取られていると、ディーガンが目潰しをしてきた。
そのままハンマーで頭を潰そうとしてくる。
「阿呆が。ただの目潰しなぞ効くか。」
魔法も使って目眩しをしているならともかく、目をつぶっただけで戦いに影響が出る訳無いだろう。
もうそんな次元の戦いじゃ無いんだぞ。
「何故だ!?公爵家の秘宝でも使ったのか…!?」
「はぁ……。」
この男、これだけ泳がせても欲望の魔法は使わずか…。
フィアスのお零れを吸ってただけのようだな。
「死んでも良いが、そのまま捨て置くぞ。」
そう言って、掌底を腹に打ち込む。
どうせだし、今日は私もティニー式でいこう。
「ッッグ!!」
小さく呻き声を吐き、意識を失ったようだ。
腕力だけじゃ無くてしぶとさもそこそこだな。
「貴女のした事は!!決して許されません!!ですから!!一生をかけて償っていきましょう!!!死んで逃げるなんて許しませんよ!!!」
「ッウ!!ッガ!!ッギャア!!ウグゥアア!!!ッッガアア!!!
母上の方も終わりそうだ。
いつかティニーがやったように、空中へフィアスを打ち上げていく。
(どうやら、母上は連撃を食らわせる事で、内部から浄化しているようだな…。)
だからあんなに何度も攻撃しているんだろう。
……恐らく。
「これで!!最後!!!よ!!!!!…ついでにオマケ!!!!!」
「っぎゃあああああああ!!!!!」
最後と言いながら三回攻撃し、ついでにトドメを刺していたが、見なかった事にしておこう。
これでフィアスの浄化も……。
(いや…。あれだけやってもまだ駄目か…。)
正確には、殆ど浄化は終わっている。
ただ、フィアスの魂の汚染は消えないままだ。
(…恐らく、魂が消滅するまで消えないだろうな。トバスリーの言う通り、最後までやるしか無いか…。)
「……まだ、みたいね。はぁ…はぁ…。追加でいくわよ。」
母上は続けるみたいだが…。
「ふざけるな!!これ以上殴られてたまるか!!欲望の魔法よ!!コイツらを殺せ!!私の全てを捧げる!!!」
……フィアスはもう終わりにしたいみたいだ。
…あの女が全てを捧げると言うとはな。
「二人とも!!離れろ!!」
私の声と同時にティニーと母上が大きく後ろに下がる。
(魔法が発動したか…。真っ黒い球が…徐々に大きくなっていく。)
「ハハハハ!!何でも貴様の思い通りになると思うな!!ここで貴様ら諸共消滅してやる!!アイズ!!ドリス!!!我が愛しい息子達に栄光あれ!!!!!」
中心にいたフィアスが黒い球に飲み込まれていく。
今までの魔法よりも遥かに強い力だ。
恐らく簡単には消せないだろう。
「……母上、滅します。」
「…………分かったわ。ディ。ごめんね。」
母上の言葉を聞き、神剣を取り出す。
久しぶりに神剣の姿に開封したが、今まで以上に手に馴染む。
母上が何に対して謝ったのかは不明だが、手早くやってしまおう。
「さらばだ。フィアス。」
そう言って剣を振る。
剣先から光があふれ、全てを包み込んでいく。
黒い球も分解されていき、後には何も残らなかった。
「……救う事は出来なかったけど、今まで言いたかった事は全部言えたわ。…きっとあの人もね。…本当は、もっと早くこう出来たら良かったんだけどね…。」
母上は少し寂しそうに笑いながら、黒い球のあった場所の砂をすくっている。
地面が球状にえぐれ、その上に砂が降り注いでいる。
元の土の量より大きいから、恐らくこの砂が……。
「…一応、アイテムボックスに入れてから兄に届けます。例え仇からだとしても、母の遺品は欲しいでしょう。」
「……うん。」
砂をしまい、少しだけ空虚な気持ちになる。
(……あの二人の母親を奪ってしまったんだな。)
完全な勝利だと言うのに、素直に喜ぶ事が出来ない戦いだった。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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