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シェール家の陣営

「ディノス様。お知らせした通り、正室フィアス様が魔王化した状態で迷宮都市ペイスに向かっているとの事です。……何でも、あの都市は自分の物だと言っているそうです。」


王都に向かうとセバスと、見知らぬ老人に出迎えられた。

白髪で深いシワを刻み、杖をついているが背筋はしっかりと伸びている。

何より…。


(強いな…。なんだ、この老人は…。下手するとウチのリサと同じくらいの強さだぞ…?)


リサは私達の中では私に次いで強い。

今ではジュリも超え、他の3人とは大きな力の差が有る状態だ。

つまり、この老人はティニー達よりも強いと言う事になる。


「分かった。良く知らせてくれた。……それで、そのご老人は?」


「こちらは私の師匠でして…。現在シェール家の家宰を務めているトバスリー様です。長男アイズ様にでは無く、当主ヌルド様…と言うよりはシェールの家に忠誠を誓っている方です。」


(セバスの師匠だと…?道理で強い訳だ。…しかし、一体何歳なんだ?)


セバスの言葉に驚く。

シェール家の家臣は強いと聞いていたが、ここまでの強者が居るとは…。


「…ご安心下さい。いくらシェール家と言えども、トバスリー様ほどの方は居ないか……居ても少数かと。私も長男アイズ様の陣営はよく知りませんが、間違いないと思います。なにせ、トバスリー様は『勇者』ですので。」


(勇者……恐らく覚醒し、亜神級の力を得ているんだろうな。それならこの強さにも納得だ。しかし、勇者を家臣にしているとはな……。)


「…こうして会うのは初めまして、ですな。セバスの言う事など話半分に聞いて下され。当の昔に勇者は引退しておりますし、家宰と言っても今は名ばかりですしな。……しかし、また珍しい成長を遂げておりますなぁ。」


トバスリーが話しかけてくる。

柔らかい表情だが、その目は鋭く光っている。

じっくりとこちらを品定めしているようだ。


「それで何故、父上ヌルドの家臣がここに?正室フィアスの話と関係有るのか?」


(関係有るからこそ来たんだろうが、一体何の話だ?)


「なに…簡単な事です。次男ディノス殿には正室フィアス様の討伐をお願いしたいのですよ。」


「討伐だと……?いや、魔王化したなら討伐は止む無しだと思うが、父上ヌルド兄上アイズはそれで納得するのか?」


「納得は…しますな。ですが長男アイズ様との対決は避けられないでしょう。」


トバスリーの言葉に落胆する。

それじゃ納得してないのと同じじゃないか…。


「そもそも、異界門が開けば戦いへと導かれる運命です。今となっては気にする事も無いかと。」


「……何だと?どう言う意味だ?それに、その頼みは誰のものなんだ?」


「…そうですな。順を追って話しますか…。異界門が開けば世界に瘴気が満ち溢れ、シェールの血に覚醒した人間は理性を失っていきます。そして、同じ血族を求めて殺し合うのです。…自らが最強だと言う称号の為に。」


「何だ、それは……。」


呆れてしまう。

瘴気の影響なら哀れとも思うが、勝手に殺し合ってくれと言う思いの方が強い。

…とは言え、私も同じ血族だ。トバスリーの言う通り、襲ってくるんだろうな…。


「…その血の呪縛から逃れる為、シェール家は長い間『欲望の魔法』を求めて来ました。本来なら『愛の魔法』が良いのですが、そちらはシェール家と相性が悪すぎましてな…。」


「『欲望の魔法』だと?それなら正室フィアスが習得しているんじゃ無いのか?…それに、『愛の魔法』?一体何の事だ?」


「おや…、ご存知有りませんか?欲望の魔法と愛の魔法は『想いの魔法』と呼ばれる魔法の一つです。『想いの魔法』は常人に許された、唯一つの特殊魔法なのですよ。」


「特殊魔法だと…?」


…シェール家の魔法と同じだと言う事か?

確かに、ゲームではただの婦人であるフィアスが魔王へと至った。

それも決して弱く無い実力を持ってだ。

破格の魔法と言えるが……。


「そうです。本来なら正室フィアス様が『欲望の魔法』を習得された事はシェール家にとって喜ばしい事です。……ですが、此度はタイミングが良く有りませんでした。」


「タイミングだと?」


「はい。『欲望の魔法』は魔法の所有者を殺す事で継承されるのですが、肝心の継承者が居ないのです。当主ヌルド様は新たに魔法を覚えるだけの余裕が有りませんし、長男アイズ様はその方法を好んでおりません。あの方は自らの力で呪縛から逃れようとしているのです。」


「……父上ヌルドに余裕が無い?」


アイズの話は少しだけ分かる。

少し会っただけだが、天上天下唯我独尊といった感じだったからな…。


当主ヌルド様は……戦でお父上とお爺様…次男ディノス殿で言う所のお爺様とひいお爺様をその手にかけているのです。その結果、元々持っていた特殊魔法が強化されてしまいました。その力を制御するので手一杯なのですよ。」


「祖父と、曽祖父をか……。」


曽祖父は病を患っていて、戦場で体調を崩し、敵に討たれる所を介錯したらしい。

そして祖父は…シェールの血に溺れ、暴走した所を討ったとの事だ……。


「…話を戻しますな。次男ディノス殿は今の様子ですと『欲望の魔法』を継承出来ません。そして三男ドリス様は……正室フィアス様に甘やかされて育った為、戦いとは無縁なのです。」


「…随分勝手だな。欲しかった魔法だと言うのに、手に入らないから正室フィアスを倒せと言うのか?」


「そうですな。ですから当主ヌルド様や長男アイズ様は静観されております。正室フィアス様の討伐は私の願いなのです。このまま欲望のままに暴れられてはシェール家にとって害でしか有りませんから。」


「……。」


「そもそも、正室フィアス様はご自分で『欲望の魔法』を習得されたのです。シェール家の人間は関わっておりませぬ。行き着いた先が魔王化だったのです。ああなっては誰も止められませぬ。止まった時が正室フィアス様の最期です。」


(トバスリーの言う事を鵜呑みにする訳にはいかないが、元々魔王化した正室フィアスとは戦う予定だった。シェール家の人間の協力が有れば多少は楽になるか……。)


そして、気になったのが『愛の魔法』だ。これこそが、ゲームで言う『愛の力』では無いだろうか…。

後でジュリにも聞いてみよう。


「どの道ペイスに向かっているなら戦いは避けられないだろう。…それで、トバスリーは何をしてくれるんだ?一応お前の願いなんだろ?」


「私は皆様方の戦いには参加致しません。元々私は先々代様に敗北した事でシェールに仕える事になりました。今では家に仕えていると思っております。戦いが終わった後、新しく当主となる方の裁きを受けましょう。

 …後は、長男アイズ様の陣営の事を少しお話しします。」


「『勇者』が敵にならないなら助かるが…。兄上アイズの事はどうして話す?トバスリーは中立じゃ無いのか?」


下手に偽情報を掴まされてもたまらん。

理由だけでも聞いておこう。


長男アイズ様の陣営に虫が入り込んでいるようでしてな…。シェール家にとっては害となる予感がします。中々巧妙で、特定出来てはおりませんがな…。ですので、この際長男(アイズ)様の陣営を一掃して貰えたらと思っております。」


「……なるほど。結局最後は私と兄上アイズの戦いになる。陣営の情報をいくら渡そうが構わんと言う訳か…。」


非情では有るが理に適っている。

私もアイズとの戦いに皆を巻き込むつもりは無いしな。


(リサの言葉も有るし、ヌルド達との戦いは出来るだけ伸ばしたかったがな…。)


どうやらそう言ってる暇も無さそうだ。

まずは正室フィアスだな。


「そう言う訳です。

 …それで、長男アイズ様の配下ですが、主要人物は4人居ます。

 一人目は『黒衣の軍師』…この者は名前も顔も不明です。呼び名の通り、陣営の中で軍師の役割をしています。

 二人目は『ガイウス』。この者は代々シェール家に仕える忠臣ですな。力を信奉しており、長男アイズ様に心酔しています。

 三人目が『ガロ』。幼い頃に長男アイズ様に拾われた亜人です。悪魔の力を宿しており、忌み児として捨てられていたようですな。

 四人目が『ザダ』です。公都の研究所出身という話ですが、こちらも詳細は不明です。」


ガロとザダについては本名じゃ無いだろうとも言われた。


(虫か……。もし、リュミドラの言う邪神の使徒が居るとしたら、一番怪しいのは黒衣の軍師だな…。)


次がザダ、その次がガロだろう。

全く別の場所に居る可能性も有るがな…。


「それと、魔王化した正室フィアス様の供として、ディーガンが動いていますな。代官を解任された逆恨みらしいですが…今の皆様なら敵では無いでしょう。」


最後にそう告げられ、トバスリーとの話は終わった。


「セバス。お前の師匠は中々食えない御仁だな。」


私の方が力は強いが…何というか、全ての力を受け流されるイメージしか浮かばなかった。

技術的な差が相当開いているんだろう。


「……ほほほ。昔から全く変わらぬ御方でして…。私も苦労しております…。」


少し嬉しそうに笑った後、段々言葉に力が無くなっていく。

…今でも振り回されているのかもしれないな。

誤字脱字報告ありがとうございます。


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