邪神の使徒
白都に別れを告げ、世界樹に戻ると皆に笑顔で迎えられた。
何故か皆非常に良い笑顔で、アリスとジュリが気合を入れている。
「おかえり〜。ナニか良い事有ったみたいね〜。」
リュミドラはニマニマと笑っているし、相手にすると面倒そうだな…。
「聖女の継承については感謝している。何か私達に出来る事が有れば手伝うが…。」
ハイエルフに人の助けが必要とも思えない。
礼には何をすれば良いんだろうか…。
「お礼なんて良いわよ〜。勇者や聖女を導くのは私の務めですもの〜。…でもそうねぇ、もし何かしてくれるって言うなら、世界樹の周辺にいるエルフ達を保護してくれない?世界樹に入れるエルフは限られていて、外の子達まで守ってあげられないのよ〜。」
「そう言う事なら了解した。私の管理する迷宮都市へと連れて行こう。」
迷宮都市なら広めに拡張したし、獣人やダークエルフも多い。ちょうど良いだろう。
「ありがと〜。お礼に、最新の情報を教えてあげるわ〜。」
「最新情報?」
「そうよ〜。異界門を開けた人物が分かったわ〜。」
(…父の関係者かと疑っている人物か。)
「一体誰だ?」
「…それがね〜。身内の恥を晒すようで申し訳無いんだけど、ハイエルフがやったみたいなの〜。もう、大分昔に世界樹から離れた人物で、正確にはもうハイエルフじゃ無いんだけどねぇ…。」
「ハイエルフ…それなら少なくとも、亜神級の力は持ってるのか。」
「そうねぇ…。しかも、いつの間にか邪神の使徒になってたみたいなのよ〜…。」
「邪神の…使徒だと…!?」
(それが事実ならとんでもない話じゃ無いか?)
使徒は神の代弁者とも言える存在だ。
神の力の一部を受け継いでいる可能性だって有る。
その上ハイエルフ…元々亜神級の力を持っているなんて…。
「シェール家との関わりは有るのか?」
「それは分からないの〜。あくまで震源地に残った力から分析した情報だから〜。」
「そうか…。」
「ソイツの名前はヴァイスよ。くれぐれも注意してね〜。」
ヴァイスか…。新たな敵が増えた訳だな。
しかも強さ的にも未知数だ。
父達に匹敵するかも知れない。
「最悪の情報だが…知れて良かったよ。」
「一応神々からも追放されてるから、ハイエルフでは無いんだけど…。元身内がごめんね〜。ディノスは大陸を回って守りを固めてくれてるみたいだし、お詫びも兼ねて前より詳しい情報もあげるわ〜。」
「詳しい情報?」
「貴方達の事よ〜。自分が何者かを知っているって言うのは、いざと言う時に力になるわ。ディノスの事は言えないけど、他の皆の事を教えてあげる。ついでに覚醒の手助けをしちゃうわね〜。」
私達の事…?一体どう言う事だろうか…。
「まずはジュリね〜。貴女は『賢者』の資格を持っているのに、いつまで経っても覚醒しないでダメじゃない。そんな事じゃお母様も悲しむわよ〜。」
「私が、『賢者』ですか?ですが、賢者は母上でして…。」
「そこがダメなのよ〜。賢者=母って決めつけているから、ずっと殻を破れないのよ?貴女はもう十分力を持ってるの。後は自覚するだけよ〜。」
「自覚……。」
ジュリと話しているが…。
(ジュリは賢者だったのか。…確かに、ただの魔法使いというには強過ぎると思っていた。……それに、古代の賢者は母親だったのか。)
だからあんなに邪神を憎んでいたのか…。
「次は〜ティニーは『聖女』になったから良しとして〜。
アリス!貴女は『英雄』よ〜。既に覚醒もしているわ。これからも精進して行きなさい〜。」
「はい!!」
「きっと次は貴女の番だからね。頑張ってね〜。」
「……はい!!!!」
……アリスは英雄か。
確かにそれっぽい感じは有るな。
「次はリサね〜。貴女は『魔王』よ。…魔王と言っても安心しなさい?悪い魔王じゃ無いから。」
(リサが……魔王?確かに風格は有るが…。それより、悪い魔王ってどう言う事だ?)
リサからは禍々しい気配は感じられない。
魔王と言われても素直に信じる事は出来ない。
「魔王…ですか?」
「そう。リサは魔人種……でしょ?魔人種で力を持ち過ぎると、『魔王』に至っちゃうのよ。人族を含めた獣人族は『英雄』に、亜人族は『精霊』か、元の種族に先祖返りするわ〜。だから、一般的に人界で言われる『魔王』とはまた別物ね〜。」
「なるほど。…そういう事なら納得できます。」
(…良かった。今更リサと戦う道など有り得ないからな…。)
知らずに心臓が鼓動を速めていた。
そして、今は心から安堵している…。
「リサも覚醒しているわ〜。……ただ、…う〜ん。魔人種には違いないんだけど、どこか違和感が有るのよね〜?貴女の家系に勇者や賢者は居る?」
「いえ、居ないと思いますが…。」
「う〜ん。それじゃ、なんだろ〜?」
一応、以前セバスから聞いた先祖返りの事を話しておく。
セバスの家系に魔人種は居ないし、かなりレアなケースと聞いている。
「う〜ん。それなのかな〜?私にはその辺の事まで分からないのよね〜。…でも安心してね。何か問題がある訳じゃ無いわ〜。」
結局よく分からないが、取り敢えず問題は無いらしい。
「それでね?今言った『聖女』とか『英雄』は、この世界の理から一歩外に出る為の称号なの。具体的に言うと…人界で言う所のSランクの上、Exランクに至る為のものよ。Exランクからは神の領域なの。私達ハイエルフもExランクよ。」
(……つまり、皆は亜神級の領域に至れると言う事か。……そして、シェール家の力はそれ以上だな。)
ゲームではそう言った情報は無かった。
どれだけ強くなってもSランク止まりだ。
シェール家については、代々勇者や英雄に戦いを挑んでいる。
中には覚醒した勇者も居ただろうし、そう考えておいた方が良いだろう。
「それで…最後のマイハちゃんはね〜。『使徒』なのでした〜。きっと眠りについた時に認められたのね〜。聖女を飛び越して使徒になっちゃうなんて凄いわ〜。」
「え?私が…使徒様なのですか?リュミドラ様、何かの間違いでは…?」
「も〜。呼び捨てで良いわよ〜。使徒になったからには私と同格だし、仲良くしましょ〜。」
「ですが……。ティニーちゃんに聖女の力を渡して、ただの人に戻ったのでは無いのですか?」
「それが、違うのよ〜。ティニーに力を渡す前は『使徒』で有り、『聖女』だったの。あのままじゃ、ちょっと体の負担が大きすぎて辛かったと思うわ〜。」
「そ、そうなのですか…?」
母上とリュミドラが話している。
(母上があそこまで押されるのも珍しいな。暫く見ていよう。)
いつも私が振り回される側だからたまには良いだろう。
使徒と言っても特定の神の使徒では無く、善なる神々の使徒との事だ。
特別な力を授けられたのでも無く、今まで特に変わりは無い。
母上には黙って見ていた事を後で叱られたが、叱られるのも久しぶりの事だったので楽しかった。
「それじゃ、異界門の対策頑張ってね〜。どうしようも無くなったら私も動くけど、出来れば人間達の手で解決して欲しいわ〜。」
リュミドラの役割は勇者達を導く事と世界樹の管理で、世界の危機が迫った時は世界樹を動かすらしい。
世界樹の守りが有れば異界虫くらいは退けられるが、その為に世界の力を大きく使う。
力を失った世界は荒廃していくとの事だ。
世界樹での話も終わり、エルフ達を迷宮都市に送る。
ついでに黄金郷やダークエルフの長、内政官を始めとした人物を強化しておいた。
その後も各地を回り、龍の化身を守護につかせる。
不謹慎かも知れないが、皆と見知らぬ地を旅するのは楽しかった。
次は平和になってからゆっくり来たいと強く思った。
そしてその作業も終わる頃、セバスからの知らせが届いた。
魔王と化したフィアスが、迷宮都市へと向かっていると…。
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