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欲望の魔法

「…ようやく来たのね。わたくしを待たせるなんて良い度胸よね。流石は天下のシェール家だわ。」


ミードに面会の申し込みを伝えると、驚いた事に寮の私室に案内された。

ファリアと言い、女子寮だと言う事を理解しているんだろうか…。


(ファリアはまだ理解出来るが、コイツはな…。寮も酷い有様だった。)


ここは第一女子寮で、最も高貴な貴族令嬢が住んでいる寮だ。

ファリア達、戦乙女ワルキューレの面々が抜けているので実際はそうでも無いらしいが、名目上はそうなっている。


だがロビーに居た使用人や何人かの女生徒達はうつろな目をして呆けていた。

しかも最上階のミードの私室に近付くに連れ、男子生徒がうろついている。


彼らは女子よりまだ意識が有るようだが、『ミード様…。』とぶつぶつ呟いていた。

伯爵位以上の生徒が集められているらしく、同じクラスの人間も居た。


(そして、私室には王子ギル侯爵令息フランツ伯爵令息エドガーか…。…ミードの魔力も今までとは違うな。これも魅了を使っている効果か?)


恐らくクルーは奴隷だから無視されたんだろう。

3人とも心ここにあらずと言った感じで、私にも声をかけて来ない。

顔色も悪く、目もうつろだ。


ミードの魔力は以前から濁っていたが、今は禍々しい感じに変貌している。


「そう褒めるな。遅れた詫びに、生意気な口調は許してやる。…それで、何の用だ?」


少し偽悪的な感じで話す。

口調を許したのは話が進まないからだ。

この女は私に対して命令口調のような言葉使いをするので、こう言わないとリサがキレてしまうのだ。


(一応私は公爵令息の立場なんだがな…。どうせ正室フィアスの影響を受けているんだろうな。)


「ふん…!相変わらずメイドを連れて、悪趣味な男ね!そんな小間使いで満足してるから見くびられるのよ!」


「…それで?」


「伯母様からの命令よ!貴方はこれからわたくしに仕えるの!頑張れば二番目の夫にしてあげるても良いわよ!」


腰に手を当てて偉そうに言っているが、どう考えても従う訳無いだろうに…。


「断る。」


「そうよね?有り難く思いなさい?貴方はお金の使い方が分からないみたいだし、迷宮都市の経営はわたくしがするわ。…ああ、それから、周囲の女どもは全て排除してね。わたくしのコレクションを他の女が触るなんて考えられないわ。」


…人の話を全く聞いて無いな。


「断ると言ったんだ。」


「はぁ!?断る!?何言ってるの!?貴方にそんな事言える訳無いじゃない!大人しく従いなさい!」


(何を言ってるんだ?……ああ、魅了のアイテムを私にも使っているのか。)


だからリサが殺気を出しているのか。

…この状況で普通に喋れるんだから、これも一種の才能かもな。


「…そろそろ遊びも終わりにしよう。臭い息を撒き散らすな。」


「…そう。腐ってもシェール家って訳ね。ギル!フランツ!エドガー!痛い目を見せてやりなさい!」


(コイツはどこまで馬鹿なんだ…?この3人が私に勝てないのは一学期に十分見せただろうに。……いや、何だ?コイツら強化されている?)


「伯母様から教わった『欲望の魔法』よ!一学期の頃とは別人だと言う事を教えてあげなさい!」


「欲望の魔法だと!?」


(また厄介な魔法が出て来たな…!早く片付けないと洒落にならんぞ!?)


「リサ!この寮の人間を全て気絶させろ!傷は付けるなよ!」


「御心のままに。」


「え!?誰!?」


ミードが何か叫んでいるが、無視だ。


「シルフィ!すぐに解呪を!」


「はい!」


「え!?シルフィって、同じクラスの!?アンタ、メイドじゃ――」

睡眠スリープ。」


…ようやく静かになったようだ。

今回、シルフィには従者メイド役をやって貰った。

本当は二人で来る予定だったのだが、リサがどうしても来たいと言うので、気配を消して付いて来て貰ったのだ。


ミードは最後までリサに気付かなかったようだ。


「…すみません。ディノス様、御力を…。」


「ああ。力を貸すよ。」


シルフィに魔力を渡し、ついでに魔力の流れを整えていく。

…どうやら無事解呪出来たようだ。


「ディノス様、全て完了しました。寮内の者は全て眠っております。」


「分かった。ミードを縛っておいてくれ。確か魔力を封じる鎖が有っただろう。」


「畏まりました。しかし、それほどの魔法なのですか?」


リサの言葉に答えようとした所で、ミードの身に異変が起きる。


「…これは……。」


ミード=ゴウツの髪が白くなり、肌がシワだらけになっていく。

まだうら若き少女だと言うのに、まるで老婆のような姿になってしまった。


「…魔法の代償だろう。『欲望の魔法』……それは人が魔王化する手段の一つだ。」


ゲームではこの魔法を使って正室フィアスは侮れない存在…魔王に至る。

ミードに教えていると言う事は、もう手遅れかも知れない。


(マズいな…。魔王は邪神を強化する要素の一つだ。そうじゃ無くても周辺の魔物が強化されるし、いつ暴れ出すか分からん。出来れば倒したいが…。)


だが、そうするとアイズとは完全に敵対するだろう。

放っておいて異界の門が開いた時に暴れられても困る。


「魔王化…。この女は伯母…フィアスから教わったと言っていましたね…。」


「ああ。…近い内に、戦わなくてはならないだろう。」


まずはこの寮と中に居る人間を浄化していかなくては。

『欲望の魔法』は伝染していく。

欲にまみれた人物にしか移らないが、確かめてる時間も無い。

片っ端からやっていこう。


「シルフィ。辛いだろうが、もう少しだけ頑張ってくれ。この寮を浄化していきたい。」


話しかけながら魔力を渡し、体力も回復させる。

ギル達の浄化で疲れているだろうが、何とか頑張って欲しい。


「はい!頑張ります!知らない内にお婆ちゃんになっちゃったら悲し過ぎます!!」


シルフィが気合を入れている。

出来る限りサポートして負担を減らしてあげよう。


「この者はどうしますか?」


リサがミードの事を指差している。

既に鎖で縛ってあるようだ。


「…禍々しい魔力どころか、一切魔力を感じないな。生きてるのが不思議なくらいだ…。ひとまず縛ったままベッドに転がしておけ。その後はファリアにこの事を知らせに行ってくれ。浄化が済むまで寮に入らないようにも言ってくれ。」


魔封じの鎖越しに感知するのは面倒だったが、『魔力操作』のお陰で感じ取れた。

恐らく私には、この手のアイテムは効かないだろうな。


ミードは極刑は免れないだろう。

これだけの高位貴族を魅了したんだ。恐らくゴウツ家も無事では済まないはずだ。


リサに指示を出し、シルフィと一緒に浄化を進めていった。



「ギル!!ブランヅ!!エドガー!!うわーーーーん!!良がっだよーーー!!!!」


無事浄化が終わりヒメに知らせると、靴もはかずに飛び込んで来た。

後から来たクルーが靴を抱えている状況だ。


3人はまだ気を失ったままだが、今までとは違い顔に生気が戻っている。

その姿を見たヒメが泣き崩れ、3人を抱きしめている状態だ。


「クルー。3人の浄化は済んでいる。後は任せるぞ。」


「はい!ありがとうございます!ご主人様が落ち着いたらお礼に伺います!」


ヒメは現在第二寮に住んでおり、しかも休みの間は近くの別邸で暮らしているらしい。

この二人が第一寮に住んで無くて良かった。


「ディノス。本当にありがとう。」


「ああ。すぐに知らせてくれて助かったよ。ファリアのお陰ですぐに王国も動いてくれたし、寮に居る生徒達も皆無事だ。」


この後生徒達は病院に運ばれ、経過を観察する流れだ。

寮は一時的に封鎖されるらしい。


「そうか。……ところで、いつまでシルフィを、お姫様抱っこ、してるのかね?いや、シルフィは今回の功労者と聞いている。ある程度は仕方無いと思うがね?そろそろベッドに寝かせてあげた方が良いんじゃないかね?」


ファリアの言葉にヴェリミエールとカズナが何度も頷いている。

シルフィの消耗が激しかったので、途中から抱きかかえて浄化していたのだ。


「そうですね。では、戦乙女ワルキューレの寮へと移動しましょう。」


余り人目につくのも良くないし、ファリアの言う通りにしよう。


「そうだな。それが良い。……シルフィも、ディノスの首にしがみつくのは程々にな?次の訓練の時に、うっかり手が滑ってしまいそうだよ。」


「そうですわね…。聖女の力も手にしたと言いますし、次は百人組手が良さそうですね。」


「私もクラスメイトとして、シルフィの成長には手を貸さないとな。」


ヴェリミエールとカズナも加わって、「ふふふ……。」と妖しい笑みを浮かべている。

シルフィはより強く抱きついてきたが、彼女達から守るのは難しいと思う…。

誤字脱字報告ありがとうございます。


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