古都の復活
城に戻り、ミアと会談する。
内政官の剣幕から面倒な事になるかと思っていたが、どうなるら杞憂だったようだ。
「御使い!聞いたわよ!試しの儀を無事にクリアしたんですって!?しかも石にも認められたって言うし!!もう最高よ!!」
「…怒られるかと思っていましたが…。そう言って下さると助かります。」
「あの案内の者は興奮してただけよ。この危機を目の前にして、力が使えるならそれに越した事は無いわ。…ああ、貴方にここを守れとも言わないわよ。それじゃ約束が違うもの。…でも、試しの石を返す時は直接私に手渡しなさいね?これは絶対の絶対よ!?」
「…分かりました。」
「(まさか、石の力を借りれるなんて…!流石私の旦那様だわ!しかも石を直接手渡してくれるなんて…!伝承にあった、神からのプロポーズそのものじゃ無い!神が皇姫を娶る代わりに贈られたのが『龍脈之要石』よ!まさか、長年の夢が叶うなんて…!!)」
「? …どうしましたか?」
「…何でも無いわ。石の力を借りれるなら、城壁の建造速度は上がるかしら?」
「…そうですね。今までより遥かに素晴らしい壁を作って見せます。」
「その言葉を聞ければ十分よ!そもそも、石に認められたなら私達に文句を言う資格は無いわ。最後に返してくれれば大丈夫よ!」
途中に長い沈黙が有ったが、石を借りる事に問題無いようだ。
小さくなった石を見せると、うっとりした表情で石を見つめていた。
「指輪には大きすぎるわよね…。」と言っていたが、国の宝をアクセサリーにするつもりなんだろうか…。
(まさかな…。)
ちょっと心配になったが、私が口出しする事でも無いので黙っておいた。
「それじゃ、要石も手に入ったし、皆を強化するか。」
ミアとの話も終わり、今は城の一室だ。
壁を作り、要石に認められた事で、今は賓客として扱われている。
最も豪華で広い私の部屋に集まり、皆に告げる。
強化とは、あの龍の化身を皆の守りにする事だ。
隕石を食い破った程の力は出せないが、それでも今までとは一線を画す力だ。
「……凄い力ですね。これは…制御し切れるか心配です。」
「凄いです!この子達、ボクの出した雷食べれますよ!」
「本当に可愛い子達ですわ〜。暖かい力に包まれて眠くなっちゃいますぅ。」
三人とも喜んでいるようだ。
リサは心配しているが、この龍は簡単な意思を持っており、特に制御する必要も無い。
龍の力を使う時も、逆に龍がサポートしてくれるだろう。
「私もですか……。感謝致します。」
セバスにも龍を付ける。
本当はゆっくりしていて欲しいが、異界の門が開けばそういう訳にもいかないだろう。
(他の皆も強化すれば…少なくとも王国は大丈夫そうだ。)
戦乙女を強化して、以前作った防壁も有れば何とかなると思う。
この龍の力は凄まじく、これを付けるだけでSランクの力を容易く得られる。
(問題は、どこまでの人に力を与えるかだな…。)
当たり前だが、この力も無制限に使える訳では無い。
正確に言えばほぼ無制限に使えるが、それをやったら大地が枯れる事になる。
あくまでも大地の力を借り受けてるので、力を使えばその分が大地から失われていくからだ。
王国では父達との戦いも有るし、出来るだけ抑えておきたい。
戦乙女くらいまでに留めておいた方が良いだろう。
他国においては誰かに力を授ける事など出来ないので、龍を各地に配置する形になる。
時が来たら近くの力有る人物に宿って力を貸すだろう。
人に宿るのは、その方が効率が良いからだ。
小さな龍では簡単な意思しか持てないので、目の前の敵を殲滅するだけで終わるだろう。
誰かに宿れば力を貸すだけで済む。
(その方法なら誰がやったかバレないし、ちょうど良い。)
皇国の人間にはバレると思うが、そこは仕方ないだろう。
「それで、これが城壁の拡張案か。…普通だな。」
「奇をてらっても良い事は有りませんからな。普通が一番です。」
セバス経由で伝えられた拡張案は普通のものだった。
現在の城壁は『ロ』の下半分が欠けている状態だ。
それを『凸』の形に直すのが拡張案になる。
「早く決まってくれたのは嬉しかったな。これで早く王都に帰れそうだ。」
ヒメからアイテムを譲り受ける必要が有るし、これが終わったら王都に戻るつもりだ。
早くティニーを聖女にしてあげたい。
「要石の使用についての注意点も伝えております。代々継承してきたので既に知っているようでした。皇国全土が不作にならなければ良い、との事です。」
「異界虫が現れたらそれどころじゃ無いしな。」
今の木柵じゃ何の役にも立たない。
この地は異界のゲートからも近いし、真っ先に狙われるだろう。
そうなったら全てが失われる。
「無事成功したら皇国の爵位も与えると言われましたが…。しかも何故か公爵位を……。」
「その可能性は有ると言っていたが、公爵位か…。断っておいたんだろう?」
「はい。事前の話通り、お断りしておきました。何故か…『身分差が有るのも逆に良いわね。』と納得していましたが…。」
言葉の意味は不明だが、揉めなかったなら良いか。
何故かリサ達が目を光らせているが…何か分かったんだろうか。
「ディノス様。」
「…どうした? リサ。」
「ミア様は『神の使い』が皇国の敵にならないか不安なのでしょう。…ですので、私が行ってディノス様の素晴らしさを伝えてきましょう。」
「不安なのは分かるが…。私の事を話すにしても、名前を言う訳にはいかないぞ?」
下手に話してシェール家の人間だとバレたら面倒になる。
なんせ古都を破壊した宿敵の一族だからな。
「それは……。ディノス様の御尊名を知る事が出来ないなど、人生最大の損です。9割以上損していると言えるでしょう。…ですので、愛称だけでも伝えても宜しいでしょうか?『ディノ様』という名前で。」
「それなら大丈夫だと思うが…。相手が迷惑そうにしたらすぐ止めるんだぞ?」
「もちろんです。」
そこまでする必要が有るかは謎だが、何か考えが有るんだろう。
少しだけ不安だが、リサはいつも結果を出すから任せておこう。
「それじゃ、早速壁を作るぞ。」
「そ、そうね……。」
「…建設予定地に人は居ないんだよな?」
「え、ええ…。全員退去させているわ。」
「……この観客は?」
「これは『神の使い』…ううん。ディノ様の勇姿を一目見ようと集まったのよ。以前の壁作りも凄かったし、今回はもっと凄いって宣伝しておいたの。……もしかして、迷惑だったかしら?」
「…いや、住民が喜ぶなら良い。今まで不安だっただろうしな。」
「ええ。だからディノ様には皆期待しているわ。……もちろん私も。」
「……。」
(リサは一体何を話したんだ?顔を赤らめて熱い視線を送ってくるし…。しかも何故『様』付きなんだ?)
リサを見ると、ゆっくりと一礼される。
綺麗な仕草だが、何も情報は得られなかった。
「…では、始めるぞ。」
「ディノ様!頑張って!」
「…『天壁』。」
以前と違い、元々あった城壁に高さと幅を合わせる。
その上で、長さを5KMほどに伸ばしたが、問題無く出来たようだ。
「……凄い。」
「…なんと。」
ミアとセバスが驚いている。
後ろのリサ達は誇らしそうに頷いている。
「「「「「「「おおおおおおお!!!!!!!」」」」」」」
街からも怒号のような歓声が聞こえてくる。
いくつもの街で聞いてきたが、一番大きいように聞こえる。
「転移。」
ミアとセバス、それにリサ達を連れて壁の先に転移する。
「『天壁』。」
続けて壁を作り、同じように転移していく。
「…凄い!本当に凄いわ!」
最後の壁を作り、元の位置に戻る。
それほど時間は経ってないので、まだ周囲は沸いているようだ。
今は古都中がこんな感じだろう。
「それじゃ最後に…。『守護結界』!『守護龍』!!」
城壁を強化し、更に龍の化身を四方に送る。
元々似たようなものが有ったらしいのでオマケだ。
この地には砕けた至宝が数多く眠っており、思った以上に力が有ったのだ。
「凄い!凄い!!凄い!!!リサの言う通りよ!!!!ディノ様は世界を救う救世主だわ!」
ミアが抱きついてくる。
慌てて受け止めたが、こんなの誰かに見られたら…。
「「「「「「「おおおおおおお!!!!!!!」」」」」」」
「壁が…!輝いている!!おお!しかもこの壁、光を通すぞ!?」
「壁際は日照問題が酷かったのに…!なんて言う事だ!?」
「いやいや!!私は元宮廷魔術師だが…!この結界はとんでも無いぞ!絶対今までのより凄い!!」
「龍が…。シェールに倒された龍が帰ってきた…。」
「街の守護神が…。ああ…何て美しい光景だ…。」
「…いや、あの時の龍より輝いて見える。…あの龍からは神々しさまで感じられるよ。」
…街の皆はこっちを見ていないようだ。
居並ぶ武官や文官も、龍や壁に見入っている。
この日、旧皇都は復活を遂げた。
まだ街の復興が終わった訳では無いが、住民達に笑顔が戻った。
後年、悪の呪縛から解放された日として、長く祝われ続ける事になるのだった。
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