転生について
この際だし、転生についても話をしてしまおうかと思う。
話す必要も無いと思っていたが、『女神の雫』の話ではかなり色々と話していた。
皆からすると意味不明だっただろう。
「…と、言う訳で、私には前世の記憶が有るんだ。
前世の世界にはこの世界の事が書かれた物語があって、皆の事もその物語に書いてある。」
皆の事は信頼しているし、この話をした事で変な事にはならないだろう。
ただ、もっと早く話して欲しかったと怒られる可能性は高い。
(母上の事だけが気がかりだ。折角呪いを受けてまで産んだ子が前世の記憶持ちなんて…。気持ち悪がられ無いと良いが…。)
そんなはず無いと思ってるが、それでも少しだけ恐怖している。
「……ディ。前世の頃の記憶が有るの?どんな人物だったか覚えている?」
「…どんな?…男性でしたよ。…それでブラック…過酷な仕事をしていたと…思います。」
「どんな性格だった?好きな食べ物は?付き合ってる子は居たの?」
「……それは。…………。」
あれ…。思い出せない…。
物語に関する事は思い出せるんだが…。
「ディ…。私の考えを話すわね。勿論全部推測だから、間違っているかも知れないわ。」
母上の話によると、時魔法によって精神だけが時を遡り、生まれる前の世界…神の世界を見たんじゃ無いか、との事だ。
あくまで情報として見たので、主観は殆ど欠けてるのでは、と言われた。
(…なるほど。説得力は有る…のか?結局、死後、生前の世界は不明だからな…。)
母上の言う、生まれる前の世界が神の世界と言うのも、あくまで神の教えに過ぎない。
結局確かめる術は無いだろう。
「……前世の事は置いておきましょう。確認しようが無いですし…。取り敢えず、色々知識を持っていると言う事だ。」
前半は母上に、後半は皆に向けて言う。
思い切って言ってみたが、微妙な感じになってしまったな。
「ああ、そうだ。後は転生特典がある。転生特典なのかは不明だが、強力なギフトだな。『魔力操作』と言って、魔力を自由に操作出来る。」
「『魔力操作』……。ディ。気付いているかも知れないけど、それは……。」
「……ええ。その可能性は分かっています。」
母上の言葉に短く返答する。
ずっと『魔力操作』が転生特典だと思っていたが、こうなって来ると別の可能性が見えてくる。
以前セバスに聞いた時、もしかしてと思ったが…。
(私の『魔力操作』はシェールの魔法なのかも知れない。)
そう考えると、ギフトとして強力過ぎるのにも頷ける。
シェールの魔法は途方も無い威力だし、未覚醒の状態でも通常のギフトより強いだろう。
「流石はディノス様です。その魔法のお陰で私は命を救われました。問題なのは、誰が使うか、でしょう。」
暗い雰囲気をリサが変えてくれる。
皆も同じ考えらしく、一様に褒め称えてくれた。
気分を変えて物語の話をしてみる。皆の事を言うと、それぞれ思う所が有るみたいだった。
リサは…。
「…やはり、ディノス様の居ない世界では長く生きられなかったのですね!ディノス様の居ない世界など地獄も同然です!仕方無いでしょう!」
アリスは…。
「男装の麗人…。でもメイド姿の方が良いだなんて…!主様の前では出来るだけメイド服を着ますね!」
ティニーは…。
「白都を守れなかったのね…!なんて不甲斐無い…!!……でも、ディノスが居ないんじゃ仕方無いか…。」
ジュリは…。
「女性に解放されて、奴隷になって無いんですか〜。やっぱりご主人様は一人だけですよね♪」
黄金郷もたまに見る夢と合致するらしく、考え込んでいる。
エルフ達は物語に登場しない事に落ち込んでしまった…。
母上も…。
「ディを守れなかったのですね…。その世界の私の分までしっかりディを愛しますね…!」
何やら決意を固めている…。
そろそろ親離れを考えていたのだが…まだ難しいのかも知れない。
「この世界とは大分変わってしまっているがな。…そんな訳で『女神の雫』についても知ってたんだ。」
ヒメが転生者だと言う事には言及しなかったが、殆どの人が気付いているようだ。
言いふらすような事はしないし、問題無いだろう。
「それじゃ、移動しようか。」
ここで四手に別れる。
ティニーと母上は世界樹に残り、黄金郷は迷宮都市へ、エルフ達は王都へ。
そして残りの四人は皇都へ向かう。
黄金郷はペイスの守りを固める為だ。
エルフも同行させるか迷ったが、転移石を預けて学園に通わせる事にした。
多めに渡してあるのでクラスメイトが一緒でも大丈夫だろう。
リュミドラに挨拶をしてから退去する。
特に大した話も無く、「またね〜。」と気軽な感じで挨拶は終わった。
「……ここが、皇都か。」
皇都へは世界樹のエルフに連れて来て貰った。
転移を使ったので一瞬で着いた。
「城壁が…途中から木の柵になってますね。」
「…ああ。」
兄の魔法で半壊したと聞いていたが、まだ大勢の人が住んでいる。
皇国の首都は移転したらしいが、全員が移り住むなんて不可能だったのだろう。
ちょうど目の前に城壁と木柵の境界が有る。
木柵の内側の方は掘っ立て小屋のようなみすぼらしい家だが、それでも人は住んでいるようだ。
「ディノス様!?こちらにいらして居たのですか!?」
街の様子を見ながら歩いていると、突然声をかけられた。
「セバスか!」
久しぶりに顔を見る。
こんな所で会うなんて凄い偶然だ。
「……暫く見ない内に、また成長されたようで…。」
「ああ。中々止まらないようでな。」
セバスが言ってるのは身長じゃ無くて強さの事だ。
最近は会ってなかったから驚いているようだな。
「…頼もしい事です。本日はどうしてここに?」
「それだが…。一旦落ち着いて話せる場所に案内してくれ。重大な話が有る。」
母上の事を話しておかないとな。
「畏まりました。」
セバスに案内された場所は皇城の一角だった。
半分以上崩れ落ち、更に保全の為に自壊もさせたので城の一部しか残っていないらしい。
それでも皇都の執務を行うには十分な広さみたいだ。
「なんと……。ついにマイハ様がお目覚めに……!」
「ああ。今はティニーと一緒に世界樹に居る。王都へは王女達が報告しているだろう。」
母上の事を話すと、セバスがハンカチで目元を拭いだす。
「…失敬。私も歳ですかな…。近頃涙腺が緩くなってしまいまして…。」
「…それなら、セバスがゆっくり休めるように急がないとな。」
セバスにはずっと世話になっているし、早くゆっくりさせてやりたい。
その為にも頑張らないとな。
「ありがとうございます。…私の方も調査は完了しております。皇国の軍部と接触出来まして、何とか情報を頂きました。」
「それは助かる。…どんな魔法だったのだ?」
父は『奈落魔法』と言う魔法だった。山一つ消し去る禍々しい魔法らしい。
「アイズ様は…『星魔法』を使います。天から星を落とす魔法と、圧倒的な力を得る魔法です。……確か、聖句…いえ、呪句は『隕石』と『全てを星に』です。」
星魔法にメテオか……。
もう一つの方も…文言からして星の力を得る魔法か…?
「それであの城壁を崩したのか…。」
「はい……。第一魔法の『隕石』は何とか防いだらしいのですが、第二魔法までは防げなかったみたいです。」
「片方を防げたのか!?」
セバスの言葉に驚く。
因みにシェール家の魔法は第一、第二、第三と分けられていて、それら特定した魔法しか使用する事が出来ないらしい。
基本的に一つ目しか覚える事が出来ず、三つ目まで覚えたのは初代だけとの事だ。
本当かは不明だが、皇国の資料で見つかったようだ。
「はい。この地に安置されている『龍脈之要石』という神具を使い、大地の化身を召喚したと聞いています。」
「『龍脈之要石』…。」
これがリュミドラの言っていたアイテムな気がする。
ゲームには出て来なかったが、大地を巡る龍脈の力を使用出来るアイテムだろうか…。
「それを借り受ける事は出来ないか?」
続けて発言する。
若干気が急いてるみたいだ。
「それは…難しいかと思います。皇国の秘宝ですし…何より、今は使用出来ないと聞いています。……ですが、もしかしたら…。」
「もしかしたら、何だ?」
「最近王国で噂になっている『神の使い』の力を借りれれば、何とかなるかも知れませぬ…」
「『神の使い』?」
どこかで聞いたような…。
「ご存知ありませんか?王国の各地に純白で荘厳な壁を作り出している御方です。一説には民の住む場所を提供しているとか…。」
「……ふむ。…私だな。」
「……そうでしたか。可能性としては有り得ると思っていましたが…。」
何となく微妙な空気が流れる。
良い事をしたはずなのに、呆れられてる気がするのは何故なのだろうか…。
「ともかく、その力が有れば要石を借りれるのか?壁を作るって事だよな?」
「はい。見ての通り、古都は半壊しております。嘘か真か、近い内に異界の門が開くとの情報も入って来てますし、このままではこの都は全滅するでしょう。」
リュミドラからの話も伝わっているようだ。
古都はこの都の事だ。既に皇国の首都は別の場所に移っているので、今は古都と呼ばれているみたいだ。
「分かった。もし伝手が有るなら頼んでも良いか?」
「問題有りません。…ですが、使用は出来ませんし、持ち運びも出来ないと聞いております。それでも宜しいのですね?」
「ああ。今のままでは見る事も出来ないだろうしな。まずは要石に触れてから考える。」
わざわざリュミドラが伝えて来たんだ。
何か理由が有るはずだ。
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