世界樹へ
「明日から夏休みだな。…結局王国中の主要都市を拡張させられてしまったよ。」
「父は大変喜んでいましたが…。余り無理はしないで下さいね。」
「ああ。分かってるよ。」
防壁作りはようやく一段落着いた。
結局王都や大公の領都、その他重要な都市を拡張する事になってしまった。
私の正体を知らせる訳にはいかないので白いローブを着ていたが、いつの間にか『神の使い』と呼ばれるようになってしまった。
都市部の住人達は目の前に巨大な壁が出現した事に驚愕し、街が広がった事に歓喜した。
(ティニーから渡された聖国のローブを着てたからかな…。聖別された特別な布を使っていると言っていたし。)
勿論所属を示す紋章などは入っていない。
だが見る人が見れば分かる品だったのかも知れない。
「ディノス!ちょっとリサと近すぎるわよ!私達にも構いなさい!」
「ボクも!…良いですか?」
ティニーとアリスがすぐ隣にやってくる。
リサは気を利かして横にずれてくれたようだ。
「妬けちゃいますわぁ。一体ナニが有ったのかしら〜。」
ジュリも背中にくっついて来る。
柔らかい感触が当たっているが、考えないようにする。
「さあな。それより準備は済んでいるのか?」
ジュリの質問をはぐらかし、こちらから質問する。
わざわざ説明する事でも無いので黙っているが、皆も気付いていそうだ。
「全部出来てますよ!黄金郷の皆も大丈夫って言ってました。」
「アリスありがとう。いつも助かってるよ。」
「ファリア達も準備万端って言ってたわね!強さの方もまぁまぁ位にはなって来たわよ!」
「ティニー……程々にな…。」
「な、なんでワタシにはお礼を言わないのよ!」
アリスにはいつも身の回りの世話をして貰って感謝している。
今日はいつもより頭を撫でてあげよう。
ティニーは…帰って来てから何度も戦乙女と訓練している。
それ自体は嬉しい事なのだが…。
「いや…いつもありがとうな。…でもティニーと訓練した次の日はファリア達がボロボロになってるからな…。…最初に見た時は本当に驚いたぞ。」
皆杖をついて髪も乱れていた。
最初は何か襲撃があったと思ったくらいだ。
(ティニーの襲撃という意味では正しいんだけどな…。)
「そ、それは…。でも!ファリ達も望んでいるわ!それにディノスの傍に居たいなら強くならなくちゃ!!」
ティニーの言葉に皆頷いている。
本人達の希望なら何も言えないか…。
皆にしたように戦女神の何人かにも強化を施した。
未婚の貴族令嬢の素肌を見るなんて、貴族社会的には際どいどころか完全にアウトな話だ。
どうしてもと頼まれ、最終的には折れてしまった。
世界樹について行く交換条件と言われては断る事は出来なかったのだ。
(一応目隠ししてやったが…それ位で許される訳無いしな…。)
外堀を埋められている気がする。
ここまで来たら覚悟を決めるべきなのかも知れないが…。
(序列の問題がな…。王女達を娶るとなると、リサ達より上にしないと問題になるからな…。)
ティニーは聖国の大司教の孫なので大丈夫だが、リサやアリスは難しい。
Sランクともなれば丁重に扱われる存在なのだが、流石に王女より上にするのは厳しいだろう。
折角長く支えてくれた彼女達を粗末に扱う事は出来ない。
この問題が解決するまでは、戦乙女の事は見て見ぬふりをするしか無いと思っている。
「私の事も忘れないで下さいねぇ〜。」
ジュリが耳元で囁いて来たので思考を中断する。
放っておいたらどんどんエスカレートするからな。
「悪いな。ちゃんとお相手するよ。」
その後はいつものように皆で過ごした。
翌日、母上の部屋で皆と落ち合う。
世界樹に向かうのは私達5人…私、リサ、アリス、ティニー、ジュリと、黄金郷の6人、エルフの三つ子と戦乙女だ。
戦乙女は第一王女、大公令嬢、男爵令嬢、騎士爵令嬢、最後に王女付きの侍女である子爵令嬢の5人だ。
総勢19人プラス母上の大所帯だ。
「世界樹か…。まさか私達も行く事になるとはな…。ディノスと居るといつも驚かされる事ばかりだ。」
ファリアが凛々しい顔で言うが、足が震えている。
昨日ティニーと訓練したのが効いているようだ。
こっそり自然回復強化の魔法をかけておく。
「それじゃ、ジュリ。頼む。」
「はぁい。移動しますねぇ〜。」
ジュリの言葉と共に景色が移り変わる。
転移先は森の一角…拓かれた場所だ。
屋根はあるものの壁は無く、周囲の風景がよく見える。
すぐ近くにエルフらしきヒトが住む里が有るようだ。
(そして…これが世界樹か…。実際に見ると大きいな。)
エルフの里の反対側に巨木が見える。
それなりに離れているはずが、世界樹が大きすぎてすぐ近くに感じられる。
直径数十M…いや、もっと有りそうだ。
高さも雲を遥かに超えている。
「こちらですぅ。」
ジュリの案内に従って移動すると、大きな石碑が見えてきた。
何か掘ってあるようだが…。
「これより先は世界樹。
資格無き者の立ち入りを禁ずる。
資格を有する者は勇者、聖女、賢者……即ち世界に認められた存在である。
彼らとその仲間のみ立ち入りを許可する。
……か。」
石碑の文を読むと皆が一斉に振り返ってきた。
「神の言葉をお読みになられるのですか!?」
「流石はディノス様だ…!なんと言う叡智…!」
天人娘と闇人娘が驚きの表情で見てくる。
(…これ、神代の言葉だったのか。)
私にとっては普段使ってる言葉と変わらないので分からなかった。
同じ言葉のはずだが、古代以前の言葉は普通読む事が出来ないらしい。
神の言葉と呼ばれ、一部の長命種のみが翻訳可能な言語だ。
「ああ。何となくな。」
ゲーム知識が有るから読む事が出来たのだろうか…?それとも前世の記憶…?
詳しくは不明だが、読めたのなら問題無いか。
そろそろ記憶の事も言った方が良いのかも知れない。
隠している訳では無いが、今となってはわざわざ言う必要も無いと思って忘れていた。
(母上の解呪が済めば、後は乙女ゲームの攻略くらいでしか使わないからな。)
前回のバッドエンド回避のような手助けをするだけだ。
父達との戦いにおいては、もう殆ど役に立たない。
「流石ご主人様ですわぁ。それでは、カズナ様、シルフィ様、こちらへどうぞ〜。」
勇者の末裔で有るカズナ、聖女の資格を有するシルフィが呼ばれる。
ようやく世界樹へと行けそうだ。
因みにシルフィの聖女の資格についてはティニーも認めていた。
ティニー自身も資格は有りそうだが、本人は否定していた。
「お二人は石板に手を置いて下さい〜。」
ジュリの言葉に二人が顔を見合わせる。
どうやら少し緊張しているようだ。
「では…行くぞ!」
「…行きます!」
二人が石板に手を当てると、少しずつ石板が光っていく。
同時に周囲の草花や木々も花を咲かせていく。
一瞬で桃源郷のような幻想的な空間となった。
「やぁやぁ。今代はどんな子達かな〜?」
そして、花の咲き乱れる空間に一人の女性が姿を表した。
尖った耳に銀髪、銀目の見目麗しい女性。
世界樹の管理人、ハイエルフが。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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