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ティニーの帰還

母上を王都に連れて来て10日程が経った。

今は学園に通いながら避難所作りに没頭している。

ヒメの取り巻き…ギル達を鍛える回数は減りそうだが、今の成長具合を見るに問題無いだろう。


「次は王領の北の港街の近くですぞ!いやー、ここまでやり甲斐の有る仕事になるとは思いませんでしたぞ!やはりディノス様に付いて来て正解でした!」


避難所を作成するに当たり、場所の調整などはツァンと王国の内政官達が協議している。

最初は何も無い僻地に取り敢えず作るという形だったが、私の作った壁を見て考えが変わったらしい。


「この硬さ…この高さ…この幅…。…そして何よりこの長さ…。…これは王国史に残る一大事業になりますな!」


内政官も興奮している。


(まぁ無理も無いか…。まさかここまで非常識なものを作れるとはな…。)


高さ10M、幅10M、長さ1KMに及ぶ壁を一瞬で作ってしまったのだ。

我ながら驚いてしまった。

暴走スタンビートの後に迷宮都市ペイスの城壁を補修した時はここまで非常識な規模では無かったから尚更だ。


(数回魔法を使っても余裕有るし、時間が経つ毎にどんどん魔力が回復していくしな…。)


流石にずっと使い続ける事は無理だが、10KM程度なら一日で作れてしまう。

その馬鹿げた結果を見て、急遽防衛計画が打ち出されたという訳だ。


計画立案中に迷宮都市ペイスの城壁も拡張しておいた。

周辺の隠れ里の住民も余裕で入れる程の広さだ。


今現在は王都北側の重要地点に防壁兼避難所を作っている。

完全に用途は北の魔物達に対する防壁なのだが、いざという時は避難民も入れてくれるという話だ。

取り敢えず夏休みまでと言ってあるが、本当に伝わってるか不安だ。


「この際、王都の外壁を更に大きくするのはどうですかな!?元々人口も多い都市ですし、多少避難民が増えても問題有りませんぞ!?」


「いやいや…!ここは大公閣下の領都でしょう!あの都は穀物の集積地で有りながら芸術が盛んなのです!まさしく王国の宝ですぞ!!」


「いやいやいや!商都こそが!!」

「いやいやいやいや!港都こそが!!」


また始まってしまった。

当たり前の事だが、王派閥と言ってもそれぞれに利害関係が有る。

対シェール家という点では一致するが、それ以外では揉める事も多いようだ。


「ひとまずここを片付けるぞ。土壁ウォール!」


馬車で壁の端まで移動し、再度魔法を使う。

その様子を見た内政官達は…。


「やはり王都へ!!」

「いやいや、大公都へ!!」

「いやいやいや、商都へ!!」

「いやいやいやいや…!」


…また始まってしまったようだ。



「…ようやく終わった。魔法を使うのが疲れると言うよりは内政官達の相手をするのが疲れる…。」


最初は私の事を怖がっていたが、魔法を見せると態度が一転した。

その根性は称賛に値するがな…。


転移石を使い、寮に帰る。

他の人間は現地に居残りだ。

大人数を運べる転移石は高価なので、私一人用の石しか支給されていないのだ。


因みに転移テレポートも習得済みだ。

長い間ジュリから特殊魔法の教えを受けて来たが、ようやく一部の空間魔法が使えるようになった。


空間魔法などは魔力の使い方と言うよりも感覚的な事が重要になってくるので『魔力操作』が有っても覚えるのが難しかった。

今でも石を使用している理由は、壁作りに全魔力を使って欲しいと頼まれたからだ。


寮に転移し、前を見ると……一人の少女が飛び込んで来る所だった。


「ディ! ノ! スーーー!!!」


「うわ!ティニーか!!おかえり!」


「ただいまー!! うーん、ディノス分補給ー!」


転移した瞬間ティニーに飛びつかれた。

…と言うか転移した瞬間ティニーは既に飛んでいた気がする。

まさか私が転移する事が分かったのだろうか…。


(はは…。まさかな…。)


絶対無いと言い切れない所が怖い。


「母上にも会ったか?今王都に居るんだ。」


「ええ!相変わらず綺麗なままだったわ!今日は一緒に眠らせて貰うわね!」


「ああ。宜しくな。」


こっちに来てからはエルフの三つ子達か黄金郷エルドラドのちびっ子達…あとアリスが交代で寝ていると聞いている。

触れる事は出来ないが、それでも嬉しいと言っていた。


私も誘われたが…流石に断っておいた。

もう15才だし、いつまでも甘えている訳にもいかないだろう。


(ん…?ティニーの方から神聖な気配が…。)


「ティニー、何か持ってるのか?」


「さすがディノス!ワタシの事は何でもお見通しね!? じゃじゃーーん!! 聖国特製のハンドグローブよ!!!」


ティニーが真っ白いグローブを頭上に掲げる。


(おお!ついにティニー専用武器が来たか!…結局ティニーには大した武器を買ってやれなかったし、本当にありがたい。)


天使の羽から作られた非常に高価な品だったはず。

ただの布に見えて、あらゆる攻撃を通さず、また、あらゆる防御を貫通する珠玉の逸品だ。


「凄いな!…アレ?二重の属性?天使の羽じゃないのか?」


天使の力以外のモノを感じる。

アレは…以前の白宝珠?


「よく分かったわね!?この前貰った宝珠を砕いてグローブと一緒に置いておいたの!そしたら宝珠の力がグローブに吸収されたわ!元の何倍も強くなったのよ!!」


(え…?あの宝珠、白都で失われた宝って言ってなかったか?砕いたって…大丈夫なのか?)


大司教…ティニーの祖父に許可を貰っているなら問題無いだろうが、いつものように直感で動いている気がする…。


「お爺様からディノスへの手紙も預かっているわ! はいこれ!」


魔法鞄から無造作に手紙を取り出す。

その手紙を読んでみると…。


五年にも渡って孫娘を預かってくれた事への感謝から始まり。

ひとまず白都の危機は去った事。

ティニーが大きく成長している事を大変嬉しく思っていると書いてあった。


続いて…口調が汚くなってしまった事、礼儀作法に難が有る事、勉強も得意教科と苦手な教科の差が激しすぎる事、などなどなど、沢山の注意点が書かれていた。


出来るだけ白都で教育するが、本気で逃げられたら捕まえる事は不可能なので、私の方で責任持って教育してくれと締めくくってあった。


(婿殿って…。ここまで来て嫁に貰わないなんてありえないけどな…。)


相手の方からも一応は認められているようで安心する。


「それじゃ、マイハ様の所に行って来るわね!…ついでに新入り共にも教育してやらないとね!」


私の顔を見てから微笑み、嵐のように去って行った。


(新入りって…寮に居る戦乙女ワルキューレの事じゃ無いよな…。)


ずっとティニーに振り回されていた気がする。



「やっと皆が揃ったな。」


「はい。…そして久しぶりに二人っきりで御座いますね。」


リサと二人、ゆっくりと時間を過ごす。

こんな時でも私の後ろに控え、メイドとしての職務を全うしているようだ。


「リサも一緒に紅茶を飲まないか?食事は一緒だが、こういう時はいつも控えているだろう?」


食事も迷宮都市ペイスに移って迷宮へ行くようになってからようやく一緒に食べるようになった。

迷宮で食べる順番にこだわって危険に遭う訳にはいかないと説得したのだ。


「…そうですね。ではお言葉に甘えます。」


断られるかと思っていたが、すんなり承諾してくれた。

どういう心境の変化かは分からないが、たまには良いだろう。


「…最近、夢を見ます。」


「夢?」


「はい…。その夢では当主ヌルド様や長男アイズ様とディノス様が戦い…様々な結末を迎えます。」


(確か黄金郷エルドラドも夢を見ると言っていたが…それとはまた別のようだな。)


「様々な結末か…。絶対負けるって話じゃ無くて良かったよ。」


未だにシェールの魔法についての対策は出来ていない。

ハイエルフから良い話が聞けると良いんだがな。


「ご冗談を…。ディノス様が負けるなどありえません。……ですが。」


(リサがここまで思い悩むなんて珍しい。…夢か。私も何か見た気がするが…。)


当主ヌルド様達と戦わない道を進む事は出来ないでしょうか?…何というか……。…私達は重大な事を見落としている気がするんです。」


「重大な事?」


ヌルド達と戦わない道…?今更そんな道が有るとは思えないが…。

それ以上に重要な事が有るのか?


「すみません…。私にもあやふやなんです。ディノス様が迎える結末も、殆どは深い闇に覆われていて…。」


「そうか……。」


リサの表情から見るに、良くない結末なんだろう。


「はい…。」


「リサがそこまで言うんだ。戦闘を避けるのは難しいと思うが、必ず忘れないでおくよ。」


王国の上層部にも対決すると伝えてしまった。

残念ながら戦わないという道は選べないだろう。


「はい…。」


「……リサと初めて会ってからもう10年近くになるな。」


「はい。…ふふ。あの頃のディノス様はとても可愛かったですね。」


やっと笑ってくれたか…。重大な事は気になるが、これ以上話しても進展は無いだろう。


「リサもな。あの頃の純真なリサが懐かしいよ。」


今のリサも勿論好きだが、最近は変態化がどんどん進んでいる気がする。

昔はもっと…。…いや、昔から風呂に乱入して来たりベッドに忍び込んできていたな…。

素質は有ったと言う事なのか…。


「ふふ…。ディノス様もですよ。一人で背伸びして頑張っている姿は、今思い出しても悶絶モノです…!」


「そ、そうか…。」


どうやらヤブ蛇だったか…。



その後も二人で長い間会話した。

リサとここまでゆっくり過ごす事も久しぶりだ。


「リサ。」


「はい。」


「この戦いが終わるか、学園を卒業する頃には結婚しよう。」


「は……い。………はい!」


「まだ少し待たせる事になってしまうが、これからも宜しく頼むな。」


「ディノス様!」


飛びついてくるリサを優しく抱きしめる。

その日はそのまま、離れる事無く一夜を過ごした。

誤字脱字報告ありがとうございます。


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