久しぶりの再会
あの後皆に改めて説明したが、何とも言えない感じになってしまった。
母上の事は皆知ってるようで解呪出来る事自体は喜ばれたのだが、女子寮に住むのが私じゃ無い事がショックだったらしい。
四人どころか周りに居た女生徒達もガッカリしていた。
(前にハーレムを作らないかと言っていたが、まさか戦乙女も参加するつもりなのか…?王女に大公令嬢に…他にも高位貴族が大勢居たぞ…?…流石に気のせいだよな?)
そもそも出会ってからそこまで時間が経ってる訳じゃ無い。
好意を向けられている事は気付いているが、少々熱に浮かされ過ぎている気がする。
私自身、今後の行動には注意していかないと。
(母上が来るし、当分そんな事考えられないけどな。)
もう解呪までそこまでなのだ。
解呪が済んでからややこしい事は考えよう。
「も〜。折角戻って来ましたのに、他の女性の事を考えてるなんてダメですよぉ。…それとも、そう言うのがお好みですかぁ?私の趣味では有りませんが、ご主人様の為なら頑張りますよ〜。」
「…いや、済まないな。よく戻って来てくれた。後でちょっとした褒美を与えるよ。……安心してくれ。そんな趣味は無いから。」
ジュリと黄金郷が世界樹探索から戻って来た。
世界樹まで辿り着けた訳では無いが、場所の特定と入り方を調べてくれたんだ。十分な成果だろう。
…趣味の事をわざわざ言ったのは黄金郷が絶望的な表情をしていたからだ。
「勿体無いお言葉です。ですが、任務を達成した訳では無いのに褒美を頂く訳には…。」
「エメルト…。いや、褒美と言っても大した事は無い。…と言うかモノでは無いんだ。強くなれるから是非受けて欲しい。」
今でも私自身の成長は止まる事無く続いている。
その理由が少しだけ分かったので皆にも伝えるつもりだ。
「リサやアリス、ノスリ、ノスル、ノスレにも受けて貰ってるから褒美というのはちょっと悪いんだがな。」
リサにはそこまでの効果は無かったが、他の四人は劇的に強くなった。
「そういう事でしたら、是非!」
「ああ。ジュリから始めるから、こっちに…。いや、ここでやろう。私に背中を向けて、背中をはだけてくれ。いつもの魔力調整と同じだ。」
魔力調整はリサ達だけで無くジュリや黄金郷の皆にもやっている。
何故か皆服を脱ぐようになってしまった。魔力調整は服を着ていても問題無いのだが…。
(これからやるのも似たようなものだが…より繊細な作業なんだよな…。何となくジュリには効果が薄い気がするが、黄金郷の皆は大きく強くなるはずだ。)
ジュリの背中に手を置き、いつものように魔力を注ぐ。
ジュリの場合は本職の魔法使いなので、魔力調整自体やる意味が殆ど無い。
気持ち良いからとお願いされているから続けているのだ。
(ここから…。魔力の流れを本来の動きに直して…。)
私のやる事は魔力を通してよりスムーズな体の動き、魔力の動かし方を伝えるだけだ。
何故こんな事が出来るのかは不明だが、実際にアリスは体の動きが格段に良くなり、魔力の使い方も上手くなった。
私自の動きが良くなっていったのも、自身の魔力を操作する内に、徐々に体の動きが矯正されていったからだ。
だから同じように皆にもやってみたら中々の効果だったという訳だ。
(…いつもは喘ぎ声を上げるのに、今日は静かだな。)
いつもとは若干違うので、そこまで気持ち良くないのかもしれない。
因みに、普段は消音の魔法を使って声は消している。
「終わったぞ。でもジュリはそこまで効果が無いかもな。普段から無駄が少ないからだと思う。」
「ありがとうございますぅ。まさかこんな体験が出来るとは思いませんでしたわぁ〜。」
ジュリに続いて黄金郷の皆をやったが、こちらは効果抜群だった。
「…凄いです!動きのキレが全然違います!」
「我もです!これなら新しい技も作れそうです!」
「…この力で、一層ディノス様のお役に立ってみせますわ…!」
「魔力の流れが…。手に取るように分かります…!こんなの初めて…!」
「ディ様!見て見てーー!」
「空中飛びーー!!」
皆喜んでくれている。
天人娘と闇人娘は体の感触をゆっくり確かめている。
雪女と夢魔娘は魔力の流れを確認しているようだ。
銀狼娘と金狐娘は部屋中飛び回っている。
「喜んでくれたようで何よりだ。それじゃあ早速母上を迎えに行こう。」
移動は転移石を使う。
向こうで待機しているツァンにも話はしてあるし、すぐ戻って来れるだろう。
『転移』
「…おお!ディノス様!お待ちしておりましたぞ!」
皆を連れて転移すると、すぐにツァンが出迎えてくれた。
以前と全く変わらない筋肉質な男だ。
「ツァン、長い間助かった。第一王子様には良く伝えておいたし、王都に異動したければ私からも頼んでおくぞ。」
カダン家は王家からシェール家に派遣されているが、ツァンは兄から遠ざけられている為、本家での活動が制限されている。
私はシェール家の家臣となってしまったから、もう指示を出す訳にもいかないし、シェール家では働きづらいだろう。
今なら王子を通じて栄転出来るかも知れない。
(セバスは半ば引退しているから私の近くに居ても問題無いが、ツァンは当主だからな…。)
「何を言いますか!ここまでお供したのです!これからも付いて行きますぞ!!」
「それは助かるが…。良いのか?」
「勿論ですとも!…と言っても戦力としては役に立ちそうにありませんからな!父上に代わって王家とのパイプ役になりましょうぞ!!」
「分かった。今後とも宜しくな。」
「こちらこそ!!」
…そう言ってくれるならお願いするか。
カダン家は王家からの信頼も厚いし、勿論私も信頼している。
連絡役を頼めるなら一番ありがたい存在だ。
現在の私は王国でもそれなりに重要な存在だし、ツァンにとっても悪くないかも知れないな。
「それでは、案内しますな!」
「ああ。」
ツァンに導かれて屋敷の中を進む。
こうして中を見るのは初めてだ。
今までは訪れるのを我慢していたが、思った以上に人が少ない。
情報流出を避ける為とは言え、こんな閑散とした空間からはすぐに出してあげないと。
行き止まりまで進むとツァンがゆっくり扉を開ける。
扉の先には…昔と全く変わらない母上が眠っていた。
「母上!!」
急いで駆け寄る。
私の弱さのせいで母上をこんな目に合わせてしまったのだ…!
昔の自分を殺したい程憎みたくなる…!
「…ディノス様……。」
(リサ…。そうだな。悔やんでいても変わらないんだ。)
いつも皆に気付かされる。
一人だったらきっとシェール家の闇に取り込まれていただろう。
「母上……。本当に昔と変わらないままですね……。」
手に触れても体温が感じられない。
それ所か全く動かす事が出来ない。
完全な眠りについた事で、本当に世界とは断絶してしまったみたいだ…。
(もう少しです…!絶対に救ってみせますからね…!)
改めて決意を固める。
絶対に誰にも邪魔はさせるもんか!
「……アリス、皆。こっちにおいで。皆の事も改めて紹介するよ。…皆大きくなってるから、分からないかもね。」
いつまでも独占している訳にもいかないしな。
アリスもずっと会いたがっていたし、ジュリとは初めてだ。
(寝顔を見られるのは嫌かも知れませんが、我慢して下さいね。)
少しだけ乱れていた髪を直した後、皆がやって来た。
久しぶりの再会に皆本当に嬉しそうにしている。
「あの方がマイハ様…。皆から聞いていた通り、優しそうな方ですね〜。」
皆の事を話し終え、今はアリスが母上の傍にいる。
私とジュリは少し離れた位置からそれを見守っている。
「そうだな。…結構マイペースな人だから、ジュリとは気が合うかもな。」
ただ…母上相手に変な事を言うのだけは止めて欲しい。
これ以上変態が感染したら困るし、何より母上相手だと厳しく注意出来る気がしないからだ。
もしそうなったら…暫く逃げ回るしか無いかもしれない。
(ふふ…。母上が起きた時の事も自然に考えられるな。)
それだけの事が凄く嬉しい。
「それは嬉しいですわぁ。私のお義母様となる方ですもの〜。是非仲良くしたいですぅ。」
「ああ。そうなったら楽しそうだな。」
「…………。」
「ん?どうかしたか?」
「んふふ〜。何でも無いですわぁ。楽しそうで最高ですぅ。」
こうしてジュリとゆっくり話すのも久しぶりだ。
今まで長旅だったし暫くはゆっくりして貰おう。
「それじゃぁ、そろそろ移動するぞ。」
帰りももちろん転移石だ。
寮の部屋へと直接飛ぶ許可も取ってある。
『転移』
移動後はベッドへと移し、ファリアに報告だ。
ツァンは女子寮に入ると問題になるので、悪いが一人別で転移して貰った。
「マイハ様がいらっしゃったか…。まさか我らが戦乙女の寮にな…。ディノス、安心しろ。我々も全力でお義母様を守る!」
「ファリア…。ありがとう。でも皆は無理はしないで……「するぞ!」」
ファリアに言葉を遮られてしまった。
周囲に居るヴェリミエール達も頷いている。
「悪いが私も個人的にマイハ様の事は尊敬している。何より未来の…………なのだ!必ず守ってみせる!」
(王女様が『様』付けで呼ぶくらいだし、本当に尊敬しているんだろうな…。未来のお義母様って聞こえたが…まさかだよな。)
最初に全力で守ると言ったのは、『(ディノスの)お母様を守る』と言っていたのかと思ったが、もしかしたら違うのかも知れない…。
「…感謝致します。ジュリや黄金郷のメンバーも置いておきますので、宜しくお願いします。」
とは言えそこに突っ込む事も出来ない。
ある程度落ち着くまでは静観しか無いだろう。
「うむ!」
満面の笑みを浮かべる第二王女に頭を悩ませるのだった。
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