世界樹について
王家との会談は散々な結果に終わってしまった。
いや、成果としては問題無いのだが、最後の話し合いが本当に大変だった。
何故かワイン片手に愚痴のような事を聞かされるし、何故か二人の小さい頃の写真も貰った。
絡み酒になった頃にようやくセバスに助けられたが、本当に疲れた。
(あの二人とは本当に何でもないんだけどな…。)
好意を向けられている事は最近ようやく分かったが、少女の憧れ?のようなものだろう。
一時の気の迷いみたいなものだ。
「ディノス様。伝言です。ジュリ殿から世界樹について話が有ると。」
椅子に座ってエルフ達の不思議な踊りを見ているとリサが話しかけてきた。
(世界樹について話?…見つかったって訳じゃ無さそうだが…。)
一体何の話だろうか。
「分かった。…しかし、よくここまで伝言が届いたな。いくらジュリが古代の魔法使いだとしても、距離が離れ過ぎている気がするが…。」
伝言は離れた場所に言葉を届ける魔法だ。
余りにも距離が離れている場合は失敗に終わると思っていたが…。
「それは…さる方より遠距離用の受信機を贈られたのです。ジュリ殿も持っていますので、こちらから伝言を送る事も可能です。映像も送れる特別製ですので、多少の距離なら問題有りません。」
(映像を送れる受信機?…そんなもの有るのか。希少品だと思うが、誰が贈ってくれたんだ?)
「リサ――」
「申し訳有りません。ディノス様。誰から贈られたのかだけは答える事が出来ないのです。…この愚かなメイドをお叱り下さい…!」
リサに質問しようとしたら先に答えられてしまった。
リサが答えられないなんてかなり驚愕だ。
「…贈った相手への不義理にはならないんだな?」
「はい。相手の方も承知済みです。決してディノス様に恥をかかせる事は有りません。…ですのでお叱り下さい…!」
そこまで言うなら仕方無いか…。
理由も無しに沈黙を貫く子じゃ無いからな。
「……分かった。それでは罰として、一週間私の学園の中に入る事を禁ずる。…だから背中をはだけるのは止めなさい。」
「そんな!?ディノス様!?私に死ねと言うのですか!?今なら何でも出来るんですよ!?共に新しい道を拓きましょう!」
リサががっくりと項垂れて…いや、膝から崩れ落ちてしまった…。
変な事ばかりしてるからそうなるんだぞ。
「それよりジュリの伝言を聞くとしよう。受信機はここに有るのか?」
「…………はい。こちらです。」
上目使いでじっと見つめてくる。少し涙目だし、本当にショックを受けているようだ。
(やはりかわいそうだったか…?…いや、元々学園に侵入する事は問題だったし、良い機会と考えよう。)
これ以上変態が増えては困るのだ。
「…ご主人様ですかぁ?私はジュリですよ〜。ご主人様のジュリですよ〜。」
ジュリの声が受信機を通して伝わってくる。
映像は遠距離過ぎて無理みたいだ。
「ジュリか。ディノスだ。世界樹について話が有ると聞いたが?」
こちらも伝言を送るが、意外と魔力を消耗するな。
これなら、今まで伝言を控えていたのも頷ける。
旅の間に無闇に消耗しても良い事は無いからな。
「わぁ〜!久しぶりのご主人様のお声ですぅ。今までは任務中だからと控えておりましたが、毎夜枕を濡らしていたんですよぉ〜。」
「ああ。長期に渡って済まないな。こちらに戻って来たら出来るだけ労うよ。」
「それならですねぇ〜。……え?エメルトさん、邪魔しないで下さい〜。……はぁ、では、本題に入りますね…。」
「…ああ。」
天人娘、よくやってくれた。雑談は本題を話してからにしよう。
「えーとですねぇ。場所自体はすぐ分かったんですけど、結界が張ってあるんですよぉ。近くに住んでるエルフの人達に聞いた所、資格有る者しか入れないみたいですぅ。」
「資格有る者…?」
ゲームでは普通に入れた気がする。…だとすると…。
「きっと『勇者』や『聖女』の資格が必要なんだと思いますぅ。なので私達では入れないんですよ〜。」
「なるほどな…。」
やはりそう言う事か。
ゲームでは主人公は聖女の資格を持っていたし、派生作品でも皆特別な存在だった。
(だとすると…。シルフィやカズナに頼むしか無いな。)
特にシルフィは乙女ゲームの主人公だ。ゲームでも入れたし問題無いだろう。
「分かった。じゃあ一旦こちらへ戻って来てくれ。聖女達には当てが有るが、生憎学園生なんだ。夏休みに出発する事にしよう。」
気が逸る。
彼女達に事情を話せばすぐにでも駆けつけてくれるだろうが、そんな事したら一学期の試験を受けられないだろう。
流石にそこまでの事は出来ない。
「はぁい。こちらに拠点を作ってから帰りますぅ。再会したらたっぷり可愛がって下さいねぇ〜。」
あちらに拠点を作れば、次行く時は転移石を使える。
夏休みになったらすぐ動けるようにしないとな。
「リサ。カズナとシルフィにすぐ会えるか聞いて来てくれ。…学園に入るなと言うのも取り消す。」
「はい!」
結局取り消してしまった。
二人はヴェリミエールの手伝いで生徒会に居る事も多いし、命令を取り消さないとどうしようも無かったのだ。
(私はその間にティニーに手紙を書くか。)
夏休みまでには帰ってくるだろうが、重要な知らせは伝えておかないとな。
アリス達が帰って来たらすぐ教えて…後は…。
(母上も王都に来て貰うか……。)
世界樹まで行ければ後はすぐだったはずだ。
母上も世界樹に連れて行けばすぐに解呪出来る。
(私の部屋は男子寮だからマズい。ファリアに頼んで戦乙女の寮を空けて貰って…。ジュリや黄金郷…それとリサかアリスに交代で付いていて貰おう。)
今まで長い間無事だったから王都に呼ぶ事に若干の不安は有る。
それでも自分の手の届く範囲なら絶対に守ってみせる…!
「これから忙しくなりそうだな…。」
「ディノス様…。なんて神々しい…。」
思わず独り言を呟いていたらリサが帰って来ていた。
またはぁはぁ言ってるが…この姿を母上が見たら絶対驚く気がする…。
「リサ。二人には会えそうか?」
「はい。ファリア様の私室に移動するそうですので、暫くしたら来て欲しいとの事です。」
「分かった。」
また女子寮に行くのかと思うが、今更だろう。
母上を連れて来たら毎日通う事になりそうだしな。
「主様!!急いで戻って来ました!!マイハ様を呼ぶって…本当ですか!?」
アリスも帰ってきた。
伝言で簡単に伝えておいたが、これから詳しく話してあげよう。
「……と、言う事で、夏休みに出発する予定だ。それまではこちらで母上を保護する。王都ならシェール家の人間も少ないし十分守れるはずだ。」
「…ついにですね。私も全力を尽くします…!」
「ボクもです!!恐れ多いですが、マイハ様の事はもう一人お母様だと思っているんです!命に代えても守ってみせます!!!」
リサとアリスもやる気十分のようだ。
「命には代えるなよ。そんな事をしても母上は喜ばないぞ。」
アリスは母上によく懐いていたので、かなり昂っているように見える。
まだ夏休みまで時間が有るし、どこかで息抜きさせないとな。
「ファリアの所に行く。二人ともついて来てくれ。」
「「はい!」」
「……それで、カズナとシルフィの二人に話があると言っていたが…。私には無いのかね?先日父上との挨拶も済ませたのだろう?」
「私の父上も絶賛しておりましたわ。これでもう障害は有りませんわね!」
ファリアの部屋でいつものように二人とテーブルを囲む。
…いや、今日はカズナとシルフィも一緒だから少しだけ違うか。
「ファリア、ヴェリミエール。会談は…概ね順調だったよ。二人にも重要な話が有るから少し待っていて欲しい。」
いつもより少し力を込めて言う。
…アリスの事を言えないな。私も気が逸っているようだ。
「「…はい。」」
ファリア達も私の真剣な表情を見て、静かにしてくれるようだ。
自分勝手で申し訳無いが、まずはシルフィ達に話をしたい。
「カズナ、シルフィ。まずは二人に重要な話が有る。」
「「はい!」」
(…? 何か凄い緊張しているぞ…?ファリア達含めて四人とも顔が赤いし…。…いや、そんな事を考えてる暇は無い。)
「夏休みは空いているか?数日…いや、10日ほど付き合って欲しいんだ。危険は殆ど無いし、二人の事は絶対守ってみせる。」
「了解だ。どこまででも共に行こう!」
「10日と言わず、いつまででも付き合えますよ!」
二人とも了承してくれた…!
これで世界樹には入れるはずだ!
「それで、私には?!」
「重要な話ってなんですの!?」
「ファリアとヴェリミエールにはここの女子寮の事で話が有るんだ。暫くの間、部屋を一室借りれないか?広めの部屋で、質の良いベッドが有ると嬉しい。」
母上は眠ったままだし、ベッドは上質なものが良いだろう。
「それは…いや、分かった。すぐに用意させよう。ついにディノスもその気になったのだな!」
「まさかこんなに早く…!ですが私も大公家の娘!必ずや成し遂げてみせますわ…!」
ファリア達からの了解も取れた…!
これで問題は無くなった!後は無事夏休みまで過ごすだけだ!
「主様……。皆様、勘違いされていらっしゃるかと…。」
アリスにジト目で見つめられ、少しだけ気持ちを落ち着ける。
今は執事服姿だが、こちらも慣れてみると可愛いものだ。
(ふむ…。結構危険な内容を話しているな…。)
未婚の女性を何日も連れ歩くのに、何の説明もしないなんて常識外れな行動だった。
正当な理由…ダンジョン探索などが無ければ婚約者と見られるような行為だ。
ファリア達の方はもっと酷い。
母上の事を言わずに女子寮の一室を借りるなんて、ただの変態だ……。
(OKしてくれた事には感謝するが、これからちゃんと説明しないとな…。)
四人が恥じらっている姿を見ながら、自分の迂闊さを呪うのだった。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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