ヒメ=センイ
私はヒメ=センイ。アーリア王国の子爵令嬢にして、前世の記憶を持つ選ばれた人間よ。
前世の記憶でこの世界が乙女ゲームの舞台だと知ってるし、転生時に特典も貰ったわ。
それが『豪運』。私の行動が全てうまくいく能力ね。
更に特別な存在の私は『簡易鑑定』と『簡易アイテムボックス』も貰えたわ。
もしかしたら私の美貌に神々もメロメロかも知れないわね。
幼い頃から前世の記憶、ゲームの知識を使って来たわ。
神童と呼ばれ、周囲からチヤホヤされたけど、全然足りなかったわ。
私が狙うのはゲームのハーレムルート。神に祝福された私にとっては簡単な事よ。
その為にはまずは王家との繋がりよ。
貧乏なセンイ家を瞬く間に復興し、その実績を持って社交界デビューしたわ。
私の魅力に皆が夢中になったけど、私は軽い女じゃ無いし全て無視ね。
これを機に良い男になりなさい。
4人のヒーロー達に会えた時はもう最高の気分だったわ。
ゲームで何度も見た顔、幼さも加わってよりキュートだったわね。
一人は奴隷だったからすぐに保護し、残りの3人とも交流を重ねて行ったわ。
3人もすぐ私の虜になり、順風満帆ね。
ゲーム主人公が存在している事を確認したから警戒していたけど、結局何も無かったしね。
念の為にアイテムを使って聖女になったし、もうハーレムルートは確定したも同然だわ。
邪神が来たとしても勝手に封印されるわね。
ただ、唯一気にしてるのが…。
「ディノス=シェール…。」
「ん?どうした?ヒメ。公爵家の次男がどうかしたのか?」
いけない。折角のお茶会だって言うのに、嫌な事考えてしまったわ。
「うん…。同い年にあの公爵家の人間が居るって聞いてちょっとね…。」
しかもゲームには登場しなかった男。
絶対に転生者だわ。
ただの転生者でも厄介だって言うのに、よりにもよってあの公爵家…。
「確かにな…。第一王子は心配するなって言ってたが、な……。」
「俺が守ってやる!…とは言い切れないが、絶対に逃してやる!」
「そうですね…。皆で力を合わせればヒメだけは守れると思いますが…。」
「ご主人様、いざとなったら僕を盾にして下さい。」
第三王子、伯爵令息、侯爵令息、それに私の所有奴隷が慰めてくれる。
クルーも3人から受け入れられており、非公式の場なら普通に会話出来る関係よ。
(皆じゃ無理だよ…。)
公爵家はとてつも無い力を持ってると言うし、私を逃す事もできるか分からない。
それに、そもそも…。
「私は皆も失いたくないの。…学園に通わせないようにするとか出来ないのかな?」
折角見つけたヒーローというだけじゃない。
もう私にとって4人は掛け替えの無い存在だわ。
私を守る為に皆が居なくなったら意味が無いの。
「それは光栄だ。……一応何か方法が無いか調べてみるよ。」
ギルが調べてくれるみたいだけど、あの表情を見る限りだと難しそうね…。
ゲームで公爵家は何度も主人公を手にかけたわ。
立ち位置で言えば私が犠牲者にされると思う。
次男さえ居なければルート通りに進めるだけで良いのに…!
「そうなると…そろそろ鍛錬も始めた方が良いかもなぁ。」
「うーん。ですが、ヒメの助言に従えば学園の成績は十分ですよ?」
エドガーとフランツが嫌な事を話し始める。
「訓練って……あの戦乙女達と?私、あの人達超苦手なのよね…。」
そもそも内政で十分領地は潤っている。
ゲームでもレベルを上げなくてもクリア出来たし、お金さえ有れば兵士を雇える。
回復系だけは保険に鍛えてるけど、それ以外は必要だと思わないのよね。
「訓練は学園に入ってから考えるか。公爵家の人間も避ければ大丈夫だろう。」
「分かった!話が通じるヤツだと良いな!」
「私は学年が違いますが、いつでも駆けつけますからね。」
「私もすぐに駆けつけます。いつでもお呼び下さい。
「ギル、エドガー、フランツ、それにクルーもありがとう。」
クルーの事はすぐにでも奴隷解放してあげたいけど、ゲームの攻略に関係してるからまだ我慢して貰ってるわ。
もう少ししたら解放出来るから、それまでの辛抱よ。
その後も公爵家の対策について話し合ったけど、結局良い案は思い浮かばなかったわ。
「今日は祝いの日だ。不問にしてやる。目の前から消えろ。」
入学の日、折角の門出を変な男に邪魔されたわ。
王子の歩みを遮って、私の事もイヤらしい目で見ていたわ。
強く言っておいたけど、ちゃんと伝わっているのかしら。
俯いているようけど、早く退いて……!
何か禍々しい気配を感じて私達が歩いてきた道を振り返る。
そこには灰色の髪をした化物が居た……。
「シェ、シェール…公…爵…家…。」
「ア、アレが…噂の…。」
「シェール…公爵家…か……。親父達が関わるなという訳だ…。」
ギルが、フランツが、エドガーが震えている。
私もだ。何よ、この凍えるようなプレッシャー…。
何とか相手を見て『簡易鑑定』を行う。
「ッヒ!…イヤ、イヤーーー!!」
その瞬間に強烈な死の恐怖が私を襲った。
『鑑定不可』と言う結果が並んでいたけど、そんなものどうでも良かった。
パニックになり皆を置いて逃げてしまった…。
多分、さっきのは攻性防壁と言われるものだと思うわ…。
鑑定を使うに辺り注意する魔法として記されていた。
でもあんなに凶悪な魔法……うぅぅ、駄目だ。着替えないと……。
学園に来てやっと乙女ゲームが開始したと言うのに、最悪の展開よね。
ゲーム主人公や悪役令嬢も戦乙女達のチームに入ってるようだし、これもあの化物の仕業かしら?
唯一ゲーム通りなのは…。
「あら?身分を理解していない、薄汚い泥棒猫だわ。まだ学園に居たんですか?」
ミード=ゴウツ。ギル達を攻略する時に出てくる伯爵令嬢だわ。
私がギル達と仲良くしてると聞きつけ、昔から嫌がらせをしてくる。
ゲームでも悪役令嬢の役柄で、主人公に嫌がらせをしてくるわ。
「……。」
一礼してからすぐに離れる。
アイツと関わっても良い事は無いわ。
アイツ自身話が通じないし、ゴウツ伯爵家も悪い噂を聞く。
「いつまでも調子に乗らない事ね!」
後ろで悪役令嬢が叫んでいる。
学園には厳重な結界が張って有ると聞くし、伯爵家と言えども何も出来ないでしょう。
所詮は負け犬の遠吠えね。
入学してから少し時間が経ちようやく慣れて来た頃、化物が動き出した。
毎日私を追いかけ回して来て、頭がおかしくなりそうよ。
ギル達が話に行ってくれたけど、ボロボロにされてしまった。
だから危険だって言ったのに!
その後も何度も化物に挑みに行ったわ。
まるでお伽話の勇者のようで素敵だわ。
…でも、最近は…、何故か楽しそうにしてる…。
私とのお茶会も減ってるし、化物と話すように薦められる。
一体どうなっているの!?
私の薔薇色の学園生活が、あの男のせいで台無しよ!!
誤字脱字報告ありがとうございます。
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