学園での鍛錬
「その程度でヒメが守れると思っているのか!?」
「「ッグ!」」
「ヒール!!」
「闇の守りよ!」
黄髪と赤髪が私の魔力弾を防ぎ、青髪と黒髪が魔法を唱える。
黒髪はヒメ=センイの奴隷エルフで乙女ゲームの攻略対象者の一人だ。
私と3人が戦うと聞いて、ヒメが寄越したらしい。
ヒメとは未だに話せて無いが、この4人とは何度か戦っている。
私がヒメを害する気が無い事も気付かれており、戦闘後によく助言を求められている。
「また王子様方が…!」
「ックソ!学園は何してるんだ!?」
周囲は今も私を極悪非道の人間だと思っている。
学園は学園長に第二王女が話を通してくれたお陰でノータッチだ。
「これはどうだ!貴様らに防げるか!」
最近は少しだけ悪人ムーブが楽しくなってしまっている。
直接相手をしているこの4人が付き合ってくれているので、私も悪ノリしているのだろう。
「くそ!光の盾よ!ッグ!もう少し手加減しろ!!」
「ギル!そんな事ではヒメを守れんぞ!この俺が!ッガアア!俺にだけ強くないか!?」
黄髪と赤髪を吹き飛ばす。
赤髪はよくイラッとする発言をするので強めにだ。
「後ろがお留守!…では、無いですね…。」
「闇よ!僕の言う事を聞け!」
青髪の奇襲を躱し、黒髪の魔法を魔力で強制的にキャンセルした。
『魔力操作』を使っている訳では無く、ただの力技だ。
「くそー。今日こそは一発当てれると思ったのになー。」
「ギル、お前は大技に頼りすぎなんだよ。」
「エドガー、貴方こそ考え無しに突っ込みすぎですよ。」
「あの…シェール様…。何処が駄目だったでしょうか?」
戦闘が終わりすぐに騒ぎ始めるが、黒髪が私に質問すると一斉にこちらを向いた。
外野からは悲痛な声が響いているが、誰も気にしていないようだ。
「そもそも体力が足らなすぎる。青髪は奇襲の後に魔力切れしてただろう。」
他の3人も似たようなものだ。乙女ゲームのヒーローなだけ有ってセンスはかなり良い。
「そうか…。ックソ!シェールめ!例え私達が倒れても、魂だけは屈しないぞ!」
「走り込みだな…。絶対にヒメは守る!5番目に収まると言うなら考えても良いぞ!!」
「私とした事が…。ヒメは既に逃しました!今回も引き分けですね!」
「ぼ、僕もですか…?ご、ご主人様を守る為なら全てをかけます!」
黄、赤、青がノリノリで叫ぶ。
黒髪だけはまだ照れが有るようだ。
「っふ!また次の機会を待つとしよう!」
私も調子に乗って合わせる。
今世ではこんなふざけ合いもして来なかったし、思いの他楽しんでしまっている。
あの4人はすぐに合格ラインを超えそうだ。
ヒメ=センイは今も訓練してないらしいが、4人がその分も頑張れば良いだろう。
「ディノス様……、はぁはぁ。」
リサがビデオカメラを向けて来ている。
王家への報告の為に訓練?の内容を撮ってるらしいが、あの姿を見ると不安になってくる。
4人の元を離れて教室へと向かう。
ちなみにリサの事は誰も気付いていない。
「殿方同士でばかり遊んでズルイですわよ。」
「アタシ達にも是非一手ご教授願いたい。」
「訓練の後のお菓子もご用意しました!」
教室に入ると大公令嬢、騎士令嬢、男爵令嬢に話しかけられる。
まだ戦乙女の訓練には参加していなかったが、そろそろ行くべきだろう。
「それじゃあ今度の休みに参加させて貰うよ。」
休日の方が良いだろう。アリスとエルフ達も一緒に連れて行こう。
「絶対ですわよ!?」
「ようやくか…。すぐに皆に知らせなくては。」
「何か食べられない物って有りますか?」
3人も喜んでくれている。
カズナは魔法でメッセージを送っているし、シルフィはお菓子を作ってくれるようだ。
戦乙女のランクとしては一年生は殆どがC、2、3年生がBとの事だ。
この3人は一年生にしてBランクで、ファリアがAランクらしい。
ファリアは3年生だが、既にAランクとなると非常に優秀だ。
学園では一番だろう。
寮に戻って皆に予定を確認し、大丈夫だと言うので皆で行く事にした。
「執事学校では余り体を動かして無いので楽しみです!」
メイド服のアリスがミルクを入れてくれる。
今でも人目が無い所ではミルクを愛飲している。
成長が止まるまでは出来れば続けたい。
「華麗な。」「魔法を。」「披露します。」
エルフ達は幼年学校では何人か友達が出来たそうだ。
公爵家の家人と言う事で警戒されているらしいが、それでも友達になってくれた子達には感謝している。
能力が有れば平民でも通える学校なので色んな人が居るそうだ。
学校の話を皆で報告し合い、和やかに一日を終える。
何故かリサは私の学園生活を報告していた。
「ディノス!よく来てくれた!」
ファリアに出迎えられる。
既に大勢集まっているようで、各自で体を動かしている。
「そちらの4人が噂の…。」
「執事のアリスと、メイドのノスリ、ノスル、ノスレです。」
噂になっているのかと思いながら4人を紹介する。
「本日は宜しくお願いします!」
「「「宜しくお願いします。」」」
4人の挨拶に加えて私とリサもそれぞれ挨拶をし、早速訓練をする事になった。
「アリス。是非手合わせ願いたい。」
ファリアがアリスに声をかけている。
突然の事にアリスは戸惑っているようだ。
「アリス、やってごらん。」
こちらを見てくるアリスに許可を出す。
ランクとしては同じAランクだし、気になっていたんだろう。
戦乙女の隊員達も注目している。
「アリスさんもAランクと聞きましたが…、どちらが勝つんでしょうか?」
「ヴェリミエール様。ファリア様の敗北など想像尽きませんね。」
「でも…、ずっとディノス様と共に居たと聞きます。わかりませんよ…。」
クラスメイト達がやって来た。
ヴェリミエールの質問には言葉を濁し、戦いを見守る。
「行くぞ!」
「はい!」
二人が竹刀を構える。模擬戦なので普段の剣は封印だ。
あの黒皇帝の魔法剣は強すぎるからちょうど良いだろう。
あれほどの剣となると王家でも持っていない気がする。
ファリアが最初に動く。
王家は光魔法を得意としていると聞くが、彼女は聖光の複合魔法を使っているようだ。
「ハァ!!」
見事な打ち込みを披露し、そこから流れるように連撃を続ける。
「いつも以上の速さですわ。」
ヴェリミエールが驚いている。
速さを出しつつも一つ一つの攻撃が丁寧で、尚且つ鋭い。
見事な攻撃と言って良いだろう。
「アレでも崩せないとは…。」
カズナが食い入るように見ている。
彼女の言う通り、アリスは全ての攻撃を受け切っていた。
「行きます!」
アリスが宣言と共に雷を身に纏う。
いきなり速くなったスピードにファリアは全くついていけていない。
「全然…見えないです…。」
シルフィが呟く。
ファリアも正確に捉える事が出来て無いし、Bランクともなれば尚更だろう。
アリスが動きを止めた時にはファリアの額に竹刀が置かれていた。
「参った。まさかここまで差が有るとはな…。」
ファリアが敗北を宣言し、空を仰ぎ見ている。
彼女にとっては久しぶりの敗北だろう。
彼女、と言うか戦乙女は実戦経験が少ないと言っていたし、仕方無いと思う。
迷宮にも殆ど潜ってないと言うし、訓練主体でAランクまで到達する事自体が凄い。
二人の試合が終わると歓声が響く。
すぐに私達が囲まれ、手合わせを申し込まれる。
「ディノス様!ずっとお待ちしていたんです!最初の手合わせは是非、私と!」
「二番目は是非アタシと!勇者の末裔の力、受け止めて頂きたい!」
「私も私も!優しくお願いします!」
クラスメイトの3人から声をかけられる。
リサも王女付の子に頼まれているようだ。
「分かった。全員お相手しよう。」
「「お疲れ様です。」」
…結局、全員を相手にしていたら日が暮れてしまった。
一人一人指導をしながらだったので仕方無いが、戦乙女の皆もよく頑張ったものだ。
相手が高ランクだと精神的な消耗が大きいだろうに。
リサからタオル、アリスから水を受け取る。
二人も訓練していたのですぐに汗を拭くように命じておいた。
「本日は。」「営業。」「終了です。」
エルフ達は魔力切れで倒れている。
近寄ってこっそり魔力供給をしておいた。
「今日はとても良い勉強になった。是非またお願いしたい。」
ファリアから声をかけられる。
足が震える程訓練をしたと言うのに全く顔には出していない。
「ええ。こちらこそ良い経験になりました。またやりましょう。…これはお礼です。」
戦乙女の皆に自然回復強化の魔法をかける。
これで早い内に回復するだろう。
「…ディノスは凄いな。近衛隊にいるSランクとは多少やり合えたんだがな……。」
「ファリア様もすぐにSランクになれますよ。卒業までに目指しますか?」
「ふふ…。いや、そうだな。折角良い出会いが有ったんだ。頑張ろう。」
私が冗談を言ってる訳では無い事に気付いたんだろう。
真面目な顔で返事をしてくるが、徐々に顔が綻んでいった。
「いや…、すまない。さも当然のように言ってくるのが嬉しくてな…。ふふ…。」
実際にゲームではSランクだったから素質は有る。
何より彼女の剣を見れば今までどれだけ頑張って来たか分かる。
多分何かの切っ掛けが有ればすぐだと思う。
「ファリ様?そろそろ汗を流しませんと風邪をひきますわよ。」
「リミ!?あの場面は見守る所だろう!?」
ヴェリミエールがファリアの腕を引っ張っていく。
確かにタオルで拭いたとは言え、いつまでも引き留めるのはマズかったな。
「ファリア様…戦乙女の掟、忘れたとは言わせませんぞ。」
「そうですよ!この後はケーキの時間ですよ!」
「カズナ!シルフィ!お前達こそいつもズルイぞ!」
(ん?)
ファンクラブ?何の事だろうか。
「皆様方、殿方の前ではしたないかと。」
王女付の…子爵令嬢が注意した後、結局解散する事になった。
女子寮でケーキを食べようと誘われたが、もう暗いので流石に断っておいた。
シルフィからのケーキは自室で頂いたが、何度も話すだけあってとても美味しかった。
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