バッドエンドルート突入?
「ッヒ!」
(またか…。もう流石に諦めるべきか?)
何度かヒメ=センイに接触しようと試みているが、いつも逃げられてしまう。
しかも本気で怖がっているようなので可哀想になってきた。
別の方法を考えようかと悩んでいると、リサが声をかけてきた。
「悩まれるディノス様……。大変美しゅう御座います。」
「……リサか。メイド学校には行ってるのか?」
学園は厳重な警備で守られているはずだが、リサにとっては問題無いらしい。
多重結界を気付かれずにすり抜けるなんて、私にも不可能だと思うが…。
「メイド学校は免許皆伝を頂いております。万事問題有りません。」
(まだ学校始まって一週間くらいじゃ無いのか…?)
たまにリサの方が私よりチートじゃ無いかと思ってしまう。
頼もしい事だが、チートの使い所が間違ってる気がする。
「第二王女様方がお呼びです。時間が有るなら女子寮へ来て欲しいとの事です。」
いつも女子寮に呼ばれるが、あそこは本来男子禁制のはず。
そろそろ怒られるんじゃ無いだろうか。
「何も問題有りません。第三寮を改築し、戦乙女関係者で独占しているようです。」
ついに心まで読んで来たか…。
リサならいつかやると思っていたが、この子は何処に向かっているのだろうか…。
「分かった。」
リサとのやり取りで気も晴れた。
そのままリサに案内されてファリア様の元へと向かう。
「ディノス!よく来てくれた!」
「はい。お呼びと聞き、駆けつけました。」
ファリア様を始め、大勢の女生徒が並んでいる。
クラスメイトの3人も居るので会釈しておいた。
3人も嬉しそうに手を振ってくれる。
「ンン!…学園生活は順調かね?」
ファリア様に咎められてしまった。
流石にこの場では気安すぎたようだ。
「はい。皆様に良くして頂き、本当に助かっております。」
クラスメイトだけで無く、戦乙女の方達からも色々と気にかけて貰っている。
彼女達は国を守る為に立ち上がった騎士達だ。
乙女ゲームでは活躍しないが、卒業後には各地を転戦して王国の混乱を防ぐ活動をする。
派生作品では黄金郷と同じく援軍としてよく出てくる。
「それで…最近ヒメ=センイにご執心と聞いたが、本当かね?」
ファリア様は微笑んでいるが、口元がヒクついている。
女生徒から嫌われていると言う話だったが、本当のようだな。
「ヒメ殿は内政手腕に長けていると聞きましたので、何かお話が聞ければと…マズかったでしょうか?」
私が話すに連れて顔が険しくなっている。
周りの女生徒も同じだ。
「ディノス様はあの女生徒をハーレムに入れるおつもりですか?」
突然リサが会話に割り込んで来た。
不敬だと咎めようとするが、ファリア様は真顔で頷いている。
大丈夫そうなのでリサの質問に答えた。
「そんな事は考えた事無いよ。相手は一妻多夫を築いているんだ。有りえないよ。」
誰も望まない展開だろう。
「そうか…。それは良かった。……いや、あの者は弟達を虜にしている割に戦闘を疎かにし過ぎているからな。我々とは合わんのだ。」
内政官から聞いた通りの内容だ。
武を重視する戦乙女とは向いてる方向が違うから仕方無いだろう。
「内政に優れ、領地を富ませた事は素晴らしいと思ってる。だが、貴族であるからには最低限の武力は必要だ。」
ヒメ=センイは殆ど剣を握って無いらしい。
魔法の鍛錬は光魔法や聖魔法を少しやっているが、こちらも大した事は無いとの事だ。
王子達もヒメに夢中で訓練を疎かにしている為、彼らの評価はかなり低いらしい。
(あれ?それって…?)
「このままの調子で成長するなら、王派の貴族達は彼らを見捨てると思う。恐らくはヒメ=センイの家との取引を縮小する事になるだろう。」
ファリア様の話す内容は衝撃的だった。
それはゲームのバッドエンドの一つと同じ流れだったからだ。
(確か、アレは誰とも仲良くなれず、能力値が一定以下だと進むエンドだったはず。)
既にハーレムルートへ進んでると思っていたが、まさかの展開だ。
「それは…どうすれば回避出来るのでしょうか?」
ヒメ=センイがこの事を知ってるかは分からないが、話を聞く事は出来そうに無い。
ならば私が手を貸すしか無いだろう。
彼女達がどうなろうと関係無いが、邪神が強化される可能性も有るのだ。
「ん……?ディノスが気にするのか?君からしたら最も嫌いなタイプじゃ無いのか?」
ファリア様が驚いている。
私は常に強さを求めて来たから、ヒメ=センイ達に協力するとは思えなかったのだろう。
「私とは進む道が違う方々ですね。ですが、それを差し置いてもヒメ=センイの内政手腕は手放すべきでは無いと思いました。」
今後進むべきルートによっては王国が荒廃するし、内政官は多い方が良いだろう。
そもそも他に理由が思い付かなかった。少し微妙な回答かも知れない。
「そうか……。絶対に、ヒメ=センイを狙って無いんだな?」
「は、はい。」
拘る所はそこなのかと思ったが、本心から頷く。
余りの迫力に一歩下がってしまった…。
「それなら良い。回避する方法は簡単だ。あの者らが強くなれば良い。」
Sランクの強さなど求めていなく、王族としてふさわしい実力があれば良いらしい。
それだけで良いのかと思うが、今まではそれすら出来て無かったと言う事か…。
「それは…私が鍛えても宜しいのでしょうか?」
「…はぁ。構わんよ。本来はディノスにやって貰う事では無いのだがな…。」
今までの教育係は失敗したと言う事だし、荒療治が必要だな。
「その代わり、たまにで良いから戦乙女の訓練にも参加してくれ。褒美として私達との会話では敬語を使わなくて良い事とする。」
「分かりまし……分かった。」
ジト目で見られたので言い直す。
王族相手に良いのかと思うが、非公式の場なら良いのか…?
その後に王子達に対して手荒く扱う事を許可して貰い、女子寮を後にした。
ファリア経由で王家に報告するが、重傷を負わせなければ大丈夫だろうと言っていた。
(さてと…。)
やる事は決まったので早速行動を始める。
まずは今まで通り、ヒメ=センイを追い回そう。
「…おい。シェール…。少し付き合ってくれ。」
あれからヒメ=センイの周囲をうろついていると、ついに王子から声をかけられた。
指先が微かに震えているが、表情は真剣そのものだ。
私に声をかけるのに色々と覚悟して来たようだ。
「分かりました。」
私が答えると3人はそのまま歩き出した。
私もその後についていく。
「おい…、ついに王子様が動いたぞ…!」
「これは…、憎き公爵家ももうお終いか!?」
「やっと学園に平和が!大公令嬢様達が解放される時が来たのだ!」
外野がワイワイと騒いでいる。
大公令嬢を解放と言ってるのは、最近あの3人とよく一緒に居るからだろう。
周囲を無視してついて行くと空き教室へ入って行った。
(何故わざわざ人気の無い所へ?)
疑問に思いながらも付いて行く。
教室に入ると侯爵令息が扉を閉める。
「…最近、ヒメをつけ回しているそうだな。」
「ヒメが怖がっています。どうか止めて頂けないでしょうか?」
「もしやお前、ヒメを狙っているのか?」
王子、侯爵令息、伯爵令息が連続で話してくる。
どうやらヒメ=センイに関する事らしい。
どうするのか見ていると、そのまま言葉を続けてきた。
「頼む。止めてくれ。君に通じるか分からないが、頭なら幾らでも下げる。」
「私もです。望むなら靴でも舐めましょう。」
「目立たない所なら幾らでも殴って良いぞ!だから頼む!」
そのまま土下座をして来た。
余りの事に驚愕してしまう。
女性を守る為に素晴らしい行動と言えるが……。
(王族と高位貴族が土下座をするとはな。)
他に誰もいないとは言え、有りえない行動だ。
ファリア様が王子を相手にしていなかったのがようやく分かった。
コイツらは貴族位よりもヒメ=センイが大事なのだろう。
そもそも私の善性に期待して行動している辺りが甘すぎる。
私が非道な人間なら大切な人を守れないからだ。
だが、その甘さや行動原理は、何故か前世の事を私に思い出させた。
これもヒメ=センイの影響だとすると、彼女も凄い人間かも知れない。
王族達を自分色に染め上げてしまっているのだ。
「頭を上げろ。ヒメ=センイを守りたいと言うのなら、実力を示してみろ。」
少し重圧をかける。
以前は膝をついたが、今度は何とか踏み止まっているようだ。
(大事な人の為となればまた違うか。)
その結果に好感を覚え、軽い魔力弾を放つ。
「「「ッグワァ!!!」」」
3人まとめて廊下へと吹き飛ばした。
手加減はしたが、扉が吹き飛び廊下の窓ガラスは割れる程の威力だ。
「どうした?貴様らの力はそんなものか?」
王子…いや、黄髪。青髪、赤髪がそれぞれ顔を上げる。
悔しそうに顔を歪めているが、立ち上がる事は出来なかった。
「ふん!貴様らの心を折るまではヒメ=センイに手を出すのは待ってやろう!精々足掻け!」
まるで公爵家の化物どものようだと頭を抱えたくなる。
遠くでハァハァしているリサを見つけなければ逃げていたかも知れない。
(リサも何とかしないとな…。)
このままでは変態への道を進んでしまう。
手遅れな気もするが、絶対に諦めてはいけない。
「ふ、ふざけるな…。私達は絶対に諦めない……!」
「…所詮、噂は噂でしたか。貴方の事は絶対に認めませんよ。」
「…情けねぇ。皆を守らなきゃ行けないのに、何も出来ないとは…!」
最後に私を睨み、そのまま気を失った彼らに回復魔法をかける。
観客が居るのでバレない用に注意が必要だ。
「うわあああああ!王子様が!公爵家のヤツ、ついにやりやがった!!」
「きゃーーー!!先生!先生を!」
「嘘だろ…。折角の学園が……。」
生徒達の悲鳴を背に、一人…リサと共に寮への道を進む。
悪人ムーブはやってて嫌な気分になった。
過去の事を見ているようで、私自身が本当の悪人になった気がしてくるのだ。
「ディノス様、ディノス様は大丈夫です。私共がいつまでもお支えします。」
リサの声を聞き、何とか心を落ち着ける。
私には他の手段など思い浮かばなかったし、このまま続けるしか無い。
早く終わって欲しいと思いながら寮へと帰った。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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