入学式
ーーーディノス視点ーーー
何か悪寒が…。
王女達の態度は気になったが、何か真実を知るのが怖い気がする。
知らなきゃいけない筈なんだが、知ったら後に戻れないような…。
(何を馬鹿な…。)
おかしな考えを振り払い、道を歩く。
女子寮から出て、今は校舎前の広場に居る。
今日は入学式だが、遅れた為に直接講堂へ向かってくれと言われたのだ。
他の生徒達は今頃教室で説明を受けてる事だろう。
時間を確認し、そろそろ講堂へと向かう。
講堂に入ると一年生と上級生、共に揃っていた。
中央の花道を進み、最前列のS組へと向かう。
学園はS組とA〜E組に分かれており、個人の能力と爵位によって分けられる。
私は能力も爵位も共にトップクラスなのでS組だ。
以前に聞いた通り、爵位は公爵家子息として扱われている。
「おい…、アイツが例の……。」
「止めろ!公爵家の怖さを知らないのか!?」
「いや…、先ほど王女に土下座したと聞きましたよ…。」
「なら、少なくともアイツは大した事無いのか…?」
ヒソヒソと噂されている。
内緒話のつもりかも知れないが、全部筒抜けだ。
煩わしいが、相手にする事も無いと思い空いてる席に座る。
私が座ると前後左右から人が居なくなった。
(む…、実際にやられると多少ショックだな。)
仕方ないと分かっているし、子供のやる事だとは言え、傷付きはする。
今まで周囲に居た仲間は優しい人間だけだったので尚更だ。
「隣、宜しいですか?」
平静を装っていると小さく声をかけられた。
顔を向けると、そこにはさっき別れた大公令嬢が居た。
「勿論大丈夫ですが…、貴女こそ宜しいのですか?」
先ほどのような密室では無く、大衆の面前でこのような行動に出る事に驚く。
絶対に噂になってしまうだろう。
「貴女なんて…ヴェリミエールとお呼びして下さいと言いましたのに…。」
わざと呼ばなかったのだが、相手の方から暴露してしまった。
聞き耳を立てている周囲の生徒が驚いているのが分かる。
「アタシはカズナだ。クィレ騎士爵家の者だが、学園で過去の事は持ち出さないつもりだ。貴殿には特別に、カズナと呼ぶ事を許そう。」
「それは……、感謝致します。」
彼女も乙女ゲームの登場人物で、勇者の末裔の娘だ。
過去の盟約によってエルフ奴隷を解放しようとしてゲーム主人公と対立する。
そして我が公爵家によって何度も一族の人間が討たれている。
公爵家は有名な血筋の人間とは必ず因縁が有ると言って良いだろう。
決闘を申し込まれる事も覚悟していたが、ゲームの通り高潔な人間のようだ。
「私はシルフィ=ウームと申します。男爵家です。趣味は料理です!是非一度ケーキを食べ「ンン!」…失礼しました。シルフィとお呼び下さい。」
そして何故ここに居るのか一番謎なのがこの子だ。
シルフィ=ウーム。乙女ゲームの主人公で有り、聖女の資質を宿した少女。
隣に居る二人は悪役令嬢だぞ…?
ゲームと同じく誰にでも優しいようだが、騎士令嬢が注意したようだ。
私にまで優しくすれば彼女に害が及ぶと考えているのだろう。
「丁寧な挨拶、感謝致します。先程も申しましたが、改めて。ディノス=シェールです。宜しくお願いします。」
騎士令嬢と男爵令嬢も王女の私室に居たが、大勢の前だったので再度挨拶をする。
「皆様は長いお付き合いなのですか?」
不躾だが、気になって仕方無いので質問してしまう。
このままだと乙女ゲームはどうなってしまうのだろうか…。
「そうですわね。昔からファンクラ…読書会で共に過ごしましたわ。今は戦乙女という隊で一緒に活動もしています。…そうです!良かったら一度見学にいらしてはいかがですか!?」
ヴェリミエールが丁寧に答えてくれる…が、最後には興奮したのか、私の手を握ってしまった。
「ヴェリミエール様…。」
「ぶー。ずr…駄目ですよー。」
カズナとシルフィがそれぞれ嗜めている。
本当に仲が良いようだ。
返答しようと思った所で、入学式が始まった。
「これより、王国学園の入学式を始める!!」
帽子を被った巨漢が壇上に立っている。
この人もゲームで見た事が有る。
「儂が!この学園の学園長だ!」
そう言うと壇上で急に帽子を取り、ポーズを決める。
「何か有れば儂を呼べ!何処へでも駆けつけてやろう!!」
その叫び声と共に服が破けて見事な筋肉が露出される。
会場の一年生達は驚いてるようだ。悲鳴を上げている女生徒も居る。
「ッヒ!何ですの!?アレは!」
「何という見事…いえ、醜悪な……。」
「私はあそこまで筋肉質なのはちょっと……。」
ヴェリミエール、カズナ、シルフィがそれぞれ呟く。
武門の家に生まれれば令嬢と言えども訓練で男の裸を目にする事も多いのだろう。
意外と冷静だ。
「続いて、生徒会長お願いします。」
まだ学園長が壇上でポージングをしているというのに、構わずに進行していく。
きっといつもの事なのだろう。
「消えよ!」
生徒会長の第二王女様が容赦無く攻撃魔法を放ち、学園長はどこかへ飛んでいった。
何故か壁の一部が事前に開いていたし、これもいつもの事なんだろう。
「生徒会長のファリア=アーリアだ。新入生の諸君、ようこそ学園へ。」
透き通るような声だ。
上に立つ者は声も鍛えるというが、魔法を使っている訳では無さそうだ。
「今朝騒動が有ったらしいが、王国貴族で有れば皆学園に通う資格が有る。また、父祖の業を受け継ぐのは貴族の宿命だが、学生の間だけでも皆が穏やかに過ごせるように願う。」
私の事をフォローしているように聞こえる。
そうだとしたら際どいように思えるが、大丈夫だろうか…?
気になって周囲を見てみると盛大に拍手が巻き起こった。
私の考えは杞憂だったようだ。
「そうですわ!でぃ…皆が笑って過ごせる学園にしましょう!」
「ああ!絶対に幸せにしてみせる!」
「あ!カズナさん!私も負けませんよ!?」
3人も拍手しているようだが…個人に向けて言ってるような…?
少し気になるが、見てる訳にもいかないので私も拍手する。
「では!行ってきますわ!」
「「「頑張って下さい。」」」
新入生代表として、挨拶をする為にヴェリミエールが壇上へと向かった。
事前に前の方に居るのかと思ったが、結構自由なようだ。
私も二人と一緒に言葉をかけたが、皆で声を合わせるのも気持ち良いものだ。
「今年から入学致します。ヴェリミエール=イーリアですわ。」
ヴェリミエールが巻き髪をかき上げる。
美しい髪が煌き、思わず魅了されてしまう。
ファリア様と言い、やはり高貴な方は違うなと思ってしまう。
私も十分に高貴な出なのだが、他の貴族と交流が少ない為にその自覚は薄い。
「私は既に生徒会に所属しています。皆様がより良い生活を送れるよう尽力致しますわ。」
流れるように言葉が続く。何も見てないように見えるが、全て覚えているのだろうか。
「その為にも、因縁の有る方ともお互い歩み寄り、親交を深めていくよう努力致しますわ。皆様も一緒に頑張りましょう!」
「「「おおお!!」」」
「だからあの憎き公爵家とも…!」
「何と高潔な御方だ!流石は『盾の公爵家』!」
ファリア様以上に過激な事を言ってるが、呆気なく受け入れられた。
お二人の人気は相当なようだ。
その後は特に目立った事も無く入学式は終わった。
この後は各自解散だが、多くの生徒が一度教室に戻るようだ。
3人からも誘われたが、今日の所は一人で寮に戻る事にした。
「それでは、また明日。」
「「「ご機嫌よう。」」」
挨拶を交わし、一人になってから今後の事を考える。
ここまで乙女ゲームとかけ離れてしまっているのだ。何らかの要因があるはず。
今まで考えて来なかったが、私以外の転生者が居るのかも知れない。
(王子達と一緒に居た女生徒、彼女がキーかも知れない…。)
明らかにあのポジションはシルフィのものだ。
しかも既に相当仲が良さそうだった。
(何か揉めてたようなので少し睨んだら怯えさせてしまったし、一度謝りに行くか…。)
まさか王子達が腰を抜かすとは思わなかった。
本当に悪い事をした。彼らにも詫びておこう。
リサ達に頼んであの少女の事を調べてみるか、と考えながら寮への道を急いだ。
誤字脱字報告ありがとうございます。
面白ければブックマーク、評価お願いします。




