秘密の花園
ーーーリサ視点ーーー
ディノス様ある所に私あり。
どうやらメイド学校を抜け出して正解だったようですね。
第二王女の私室には錚々《そうそう》たる面々が並んでおります。
「第二王女!あんな紹介するなんて何を考えているの!?」
「姉様こそ!内政官に化けてディノスの元で働くなんて許される訳無いでしょう!?」
二人が口論を…姉様という事は、あちらが第一王女様ですね。
とんでも無い内容ですが、本当の事でしょうか?
「父上達の了承は頂いたわ!そもそも!ディノ様のお話を教えてあげたのは私よ!?」
第一王女様が話す内容はとても興味深いものだった。
「そ、それは感謝してるわ!でもそれとこれとは別よ!」
「そうですわ!第一王女様には感謝しておりますが、譲れないモノが有るのですわ!」
第二王女様、大公令嬢様がそれぞれ反論している。とても賑やかです。
「大公令嬢!貴女、どさくさに紛れてディノスに胸を押し付けていたでしょう!」
「第二王女!?今は一緒に第一王女様を責めるべきでは!?」
確かに、大公令嬢様は少々近づき過ぎてましたね。
ディノス様は嫌がっていないようでしたが…。
「…!!お待ち下さい!…誰だ!?」
おや、気付かれてしまいましたか…。
ディノス様の事を考えていたとは言え、中々優秀ですね。
「全く分かりませんが…、居るとしたらリサさんかしら?」
「え!?誰かいるの!」
「第一王女様、第二王女様。ご無礼を致しました。」
すぐに私と見抜くとは…、流石は智謀に長けていると噂される第一王女様ですね。
「貴様は!?裏切り者の!?」
最初に私に気づいた女学生が声を荒げる。
日に焼けた肌に独特の光彩を放つ赤い瞳、この者が有名な亜人貴族ですか。
王家に忠誠を誓う、カダン家と同じく従者の家系…。
「まだ成人前に真の主君を見つけたのです。裏切者呼ばわりは心外ですね。」
授爵も済ませる前の話です。道義的にも全く問題も無い事。
とは言え気持ちは分かるので、重圧は最低限にしておきましょう。
「ッグ!!」
すぐに膝をついてしまう…それでは主君を守れませんよ?
「止めよ!…全く、主従揃って同じ事を言わせおって…。」
第二王女様の声に頭を垂れる。
跪く事は出来ませんが、これ位ならディノス様も許して下さるでしょう。
ディノス様と一緒と言って頂けましたしね。
「それで、何の用件で来たのかしら…?ディノ様を見る為?」
第一王女様の質問を聞き、この方がそうだと確信する。
「『でいの物語』…この神書を求めて来ました。まさか第一王女様が作者でしたとは…!」
「…!な、何の事ですか?」
「ジュリ殿から全て聞いています。『水晶眼』…とても便利なモノですね…。」
つい笑みが溢れてしまう…。
王女付の亜人貴族が後ずさっている。ふふ、そんな事では主君を守れませんよ?
「全てバレているようですね…。そうです。私がマイハ様、ジュリ殿と協力して『でいの物語』を書きましたわ。…全てはディノ様の素晴らしさを広める為に!」
思った通り、素晴らしいお方のようだ。
こんな方が王家にいらっしゃるとは…。
「ディノ様の助けになるようにと令嬢達に勧め、遂には戦乙女の結成に至りましたわ。」
「何と素晴らしい!」
「私の『水晶眼』で遠見の魔眼を使い、今までずっと覗いておりましたのよ…いえ、見守って、ですわね。」
鼻から赤い雫が垂れてるように見えますが、細かい事ですね。
第一王女様…ここまでの御方でしたとはね……。
手が…震えている…。ジュリ殿と初めて話した時以来の衝撃を受けているようです。
「この方達は、皆?」
「ええ!同志ですわ!ディノ様ファンクラブこそ、『戦乙女』の真の姿です!」
私の質問に両手を広げて答える第一王女様。
「魔王の城で聖女を守り孤軍奮闘する小さな勇者様……あぁ!何て美しい!」
「聖女様がお眠りになり、ディノス…でいのす様が一人残された時は…涙が止まりませんでしたわ!!何故でいのす様だけがあのような目に!」
「中々素直になってくれない所がたまりませんわ!」
な…、何と言う素晴らしい集まりでしょうか!
|戦乙女《ディノス様ファンクラブ》…私も加入したくなってしまいました!
そしてそれを作り上げた第一王女様…、膝を屈してしまいそうです…!
「どうか…、どうか…!私共にも『神書』を譲って頂けないでしょうか!?」
「そうですわね…。しかし、タダと言う訳には…。」
第一王女様が魔王のような笑みを浮かべている…!
…私の方も秘密兵器を出す時が来てしまったようですね。
「……記憶魔法。」
「「「え!?」」」
「まだ僅かしか撮っていませんが、これからも提供致しましょう…。第一侍従の位置から撮られた至高の御姿を!」
私の言葉で皆様の動きが止まった…!
どうやら決着の時のようですね!
「念写魔法によって『カメラ』の魔道具のように印刷して差し上げます。」
ディノス様にカメラを向けるとすぐに気付かれてしまう…。
たまに写真を撮らせて頂けますが、自然な御姿を撮るには記憶魔法しか無いのです!
誰かの、いいえ皆が一斉に唾を飲み込む音が聞こえた…フィニッシュです。
「リサ=カダン。確かに貴女は裏切者などでは無かった。悪かったな。」
違う道を歩む友も見つかった…。全てはディノス様のお陰です。
「ジュリ殿も離れてしまい、新しい協力者を探してましたの!リサさんなら頼もしいわ!」
「リサで構いません。」
「あら…。それなら私もエミィで構いませんわ。この名前で内政官として赴きますの!」
本当に第一王女様が内政官とは…!
最初は信じられませんでしたが、今なら心から信じられます。
「分かりました。これからも宜しく。エミィ。」
「こちらこそ宜しく。リサ。」
私達が握手を交わしていると、同志達が次々と集まって来た。
「私も仲間よ。ファリ、と呼ぶ事を許しましょう。」
「私はリミですわ!」
第二王女、大公令嬢が手を重ねていく。
「拙者はイジェーンだ。そのまま呼んでくれ。」
王女付の亜人貴族…いいえ、子爵令嬢が。
「私はシルフィ!男爵家ですが、奇跡的にディノス様と同じクラスになれました!魔の森を鎮めてくれたお礼を言いたいんです!!」
「アタシはカズナ。勇者の血を引く家系だ。シェール家は憎んでいるが、幼い頃から一人頑張っていた勇者様は救われるべきだ!」
男爵令嬢と騎士爵令嬢が。
輪に入れなかった子は周囲で手を挙げている…何て美しい光景でしょう…。
第一王女が私を見て頷いている…私に号令を譲ってくれているんですね!
「全てはディノス様の為に!!」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
私達の雄叫びは女子寮中に響いてしまったみたいです。
ですが生徒の皆は全く怒られませんでした。
それは王族パワーだったのか、教師にもお仲間が居たのか…。
おっと、これ以上は言えませんね。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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