乙女ゲーム開始?
ーーーディノス視点ーーー
「それで…、でい、ディノスよ。何故あんな事をしたのだ?」
現在、女子寮で王女様に詰め寄られている。
周囲には大勢の制服を着た女性が並び、さながら異端審問のようだ。
仕方無いだろう。
セバスをはじめとする家臣から報告は受けているだろうが、実際に会うのは初めてとなる。
Sランクに至った事は聞いているだろうし、どれだけ人数が居ても不安だろう。
王女の声は強張っており、眉間にも皺が寄っている。
「な、何を見ている!」
「申し訳有りません。」
すぐに謝罪する。知らずに見つめてしまっていたようだ。
「「おお。」」
「話は本当だったのか…。」
「流石は聖女様の血だ…。」
私の謝罪に集まった女性達が動揺する。
公爵家の人間なら有り得ないからな。
「王女様…眉間に…。」
「ん!…なぁ!っああ…。…すまんな。」
王女付だろうか、日に焼けた生徒の指摘で皺は戻ったが、ぎこちない笑顔を浮かべている。
「…はぁ、もう良い。どうせ弟が何かしていたんだろう?」
私が何も言わない事に呆れ、椅子に深く腰掛ける。
王子と言うと、さっきのアレか。
「何も言わなくて良い。アレは普段から無能だが、女が絡むとそれはもう酷いからな。」
愚痴のような事を言う。
臣下にそんな事を話して良いのだろうか…。
「それで、セバスからい、色々聞いている…。本当に王家の味方になってくれるのか?」
立ち並ぶ大勢の令嬢達が真剣な眼差しを向けて来る。
大公家に伯爵家に子爵家…学園を卒業している者から未入学の者まで、勢揃いだ。
彼女達は戦乙女と言う騎士隊を創設し、在学中から訓練を始めているらしい。
ゲームでも登場したが、あちらでは卒業後に設立したはずだ。
「絶対に王家の味方という訳では有りません。」
私の言葉に騒めきが広がる。
低位の貴族の中には剣を抜こうとしている者までいる。
「ですが、今までの恩義には報いるつもりです。」
あくまで私の目的は邪神復活の阻止で有り、母上の解呪だ。
全て王家の言いなりというわけには行かない。
「そうか…。良い。分かっていた事だ。」
王女が尚も殺気立つ家臣達を止める。
主君の為に怒る、良い家臣達だ…。
「もし…提案なのだが。貴殿の母上の解呪が済んだ後、静かに暮らすというのはどうだ?」
言い辛そうに、言葉を繋いでくる。
「貴殿が大勢の人間と子を作り、正義の勇者を増やすのだ!貴殿の血…勇者の、聖女の血が広がれば、公爵家と言えども降参するしか無いだろう!」
真っ赤な顔で伝えてくる。
年頃の女性の言う事じゃ無いが、理屈は分かる。
公爵家の血が正義の方向に傾けば、後は数の差で勝てると言いたいのだろう。
(王家の人間は邪神の事を知らないんだよな…。)
それならばその提案も仕方無いかとも思う。
だが邪神復活の可能性が有るのに、そんな悠長な事を言ってはいられない。
「申し訳有りません。次代に禍根を残す事は出来れば避けたいのです。」
そろそろ邪神の事も伝えなくてはマズいかと思ってきた。
変な勘違いで突っ走られるのも困る。
「「「ッチ。」」」
「え?」
(今の…舌打ち?…何故?)
「王女様、そろそろ…。」
「あ、あーあーあー、そうだったな。そろそろアレだった。そうだった。」
王女様が焦ったように取り繕う。
まるでティニーが何かを誤魔化しているようだ…。
「迷宮都市ペイスの内政官の派遣が有ったかと。」
「ああ!そうそう!ソレだ!勿論覚えていた!」
何か焦っているようだが、全然見当がつかない。
初対面の女性の考えを見抜ける程の技量が有れば今まで苦労して無いだろう。
(女子寮に長く留まるのはマズいのか?)
「もしここではマズいのでしたら出直しますが…?」
「ど、どどど何処に連れ込「王女様。」」
「ンン!すまない。かのディノス=シェールと会うとなって些か緊張しているようだ。」
「はい…。」
何と返せば良いか分からず生返事をしてしまう。
「内政官だが、当ては有る。非常に優秀な人間が派遣されるだろう。」
「おお!感謝……致します。」
余りの嬉しさに王女を見ると、苦い顔をしていた。
訳が分からずに中途半端な礼となってしまう。
「だが、内政官には余り近寄らぬようにな。あn…あの者は少し変わっておるのだ。」
「…畏まりました。」
「「「おお……。」」」
私が頭を下げると歓声が上がる。何だか動物園の珍獣みたいな気分だ。
その後も少し話したが、王女様を始めとする皆の対応に困惑した。
嫌われていると言うよりこれは……?
「ディノス様、そろそろ…。」
王女付の生徒が声をかけてくる。
王女直属と言うだけ有って優秀そうな子だ。どことなくリサを思い出す。
「それでは、私が表まで送りましょう!」
そう言って見事な巻き髪の女性が前に出てきた。
その女性はとてもよく見た顔だった。
(盾の公爵家…乙女ゲームの悪役令嬢か…。)
正確には大公家だ。王家とは定期的に婚姻関係を結んでいるらしい。
何となく懐かしいと思って見つめていると、少し変な空気になってしまった。
「ンン!いつまで見つめ合っているつもりかね?…いや、ハーレムを作ってくれるなら何も問題無いがね!?」
「レディの顔を見つめるなど、無作法でした。申し訳有りません。貴族女性と会うのも稀な為、緊張していたようです。」
つい懐かしい顔を見てしまい、フリーズしてしまったようだ。
何とか焦らないで対応する。
「い!いやいや!何を言う!その辺りの事はよく知っているから大丈夫だ!!大丈夫だ!我々は小さな事など気にしないとも!!」
(私の生い立ちも全て知っているのだろうな。…当たり前か。)
「さぁ、ディノス様!行きましょう!」
考えていると公爵令嬢に手を握られる。
「私の事はヴェリミエールと呼んで下さい。噂通りの方で安心しましたわ。」
そのまま引っ張られるように部屋を出る。
「あーー!ちょっt!」
扉が閉まる瞬間、部屋から何か聞こえて来たが…。
(どう言う事だ?何故か好感度が高い気がする…。)
しかも居てはいけない人間まで数人居た気がする。
戦乙女が結成されている事と言い、既に色々変わっているようだ。
(それに、王子達と一緒にいた女性…。)
やけに王子達と親しそうだった。
あんな顔初めて見たんだが…。
「ディノス様は学園では何をするんですの?生徒会なんてお勧めですわよ。」
大公令嬢が声をかけてくれるが、凄い笑顔だ。
大公家は公爵家を嫌っているはずだが…。
「特に何処かに所属するつもりは有りませんよ。」
生徒会なんて絶対に不可能だろう。
今は王女達が仕切っているようだし、監視の為だろうか。
「是非一度遊びに来て下さいね。私ももう所属してますのよ。」
「え、ええ。機会があれば是非。」
入学前に生徒会に所属している事には驚いたが、大公家ともなれば当然か。
色々と質問攻めに会いながらも女子寮の入り口まで到着し、大公令嬢とは別れた。
乙女ゲーム関係者に加えて戦乙女の面々と立て続けに出会い、少し混乱している。
ゲームとは既に違っている事も含め、色々と調べないといけない。
乙女ゲームは一人の主人公と4人の攻略対象者、3人の悪役令嬢からなっている。
セバスも攻略対象者だが、あくまでサブターゲットになる。
戦乙女は在学こそしてるが殆どゲームに関わる事が無く、先程の大公令嬢が戦乙女に所属するのも卒業後の話だ。
大公令嬢は主人公がハーレムルートに進む時に出てくる悪役令嬢で、暴走しがちだが言う事は正論だった。
追加シナリオでは友達ルートも出来る程だ。
もう一人の悪役令嬢も悪役という程悪人では無い。
勇者の血を引く末裔で、攻略対象者の一人で有るエルフルートを進めていると出てくる。
最後の一人が典型的な悪役令嬢だ。
本気で嫌がらせをしてくるし、何なら主人公を亡き者にしようとしている。
公爵家の正室の生家の娘だ。納得と言えるだろう。
攻略対象者は王子、侯爵令息、伯爵令息、エルフの奴隷だ。
エルフの奴隷は主人公の所有物となっている。
そして…。
なんと驚く事に、先程の王女の私室に、悪役令嬢二人と、ゲーム主人公が、居たのだ。
もう訳が分からない。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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