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スタンビートの後に

ーーーディノス視点ーーー



暴走スタンビートが終わり街の熱狂が冷めた頃、一人セバスを呼び話を聞いた。


「私をお忘れでは無いですか?」


いつの間にか隣に来ていたリサと一緒に話を聞いた。


「迷宮の底で公爵家に恨みの有る元人間と会った。……シェールの魔法とは何の事だ?」


そんな事も知らないのかと呆れられそうだが、知らないものは仕方ない。

喧嘩を売る相手をろくに知らずに息巻いていた過去の自分が恥ずかしい。


公爵シェール家の魔法ですか……。そうですな。学園に通う前に知った方が良さそうですな。」


いつの間に用意したのか、ミルクを私達の前に置く。

成長の為に未だにミルクを愛飲している。

学園に通うようになったら流石に控えるつもりだが…。


当主ヌルド様は『奈落魔法』と言う特殊魔法を使います。その威力は絶大で、山一つ消し飛ばした事も有ります。」


余りの内容にカップを持つのを止める。

持ち上げていたらこぼしていた所だ。


「山一つだと?」


「はい。公爵家に攻めてきた愚か者を討伐するのに当主自ら出陣し、平野で撃退後、山に逃げた敵を一掃したのです。」


「山ごとか?」


「はい。こちらの地になります。」


セバスが地図を広げる。

その範囲は公都を優に超えていた。


「誇張では…無いんだよな?」


「…残念ながら、事実です。」


(魔法と呼べるモノなのか…?ゲームでもこんな異常なものは無かったぞ。)


そもそもシェール家の魔法など聞いた事が無い。

『公爵家の魔法は超強力!』みたいな説明なら有った気がするが、それがこの事を言ってるならふざけるなと言ってやりたい。


「何故広まって無いんだ?」


少し予想はついているが、念の為に聞いておく。


「それは……、離反者を防ぐ為です。」


「…これだけの範囲となると、当たり前か…。」


大多数の貴族家は自分の家を守る為、領地を守る為に王家に従っている。

公爵シェール家と敵対したら全て失うと知ったら、表立って敵対する者は居なくなるだろう。


恐らくは契約魔法か何かで情報の拡散を防いでいると思われる。

敵側からも情報が広がらないのは不明だが…、話が広がれば公爵家の世になると恐れているのかもしれない。


「実際に6年ほど前に大戦が起こり、公爵家に出向していた多数の者が寝返りました。」


「他は戦死ですな。」と軽く言う。だが、その拳は血が出る程握り締められていた。


「6年前の戦とは?」


私は何も知らないなと自嘲しながら質問する。

セバスに全てを任せていたから仕方無い事とはいえ、今後は独自の情報網も必要だろう。


「突如、長男アイズ様が東へと侵攻を開始したのです。帝国、皇国を始め、沢山の国が犠牲になったそうです。」


「何だと!?」


(まさか、大帝国の建国か!?)


「幸いと言えば良いのか…。海を眺めた後は撤退したそうです。」


(訳が分からん…。)


長男アイズの行動が全く分からなかった。

こう言う時、私は公爵家の血が薄いんだとしみじみ思う。


「領地などの変更も有りません。財貨は公爵軍が奪っていったそうですが、それだけです。」


(それだけ、か……。)


どれだけ非道な事が行われたのかよく分かっているのだろう。

こんなにも感情を出しているセバスを見たのを初めてだ。


恐らく王家、王国も何も出来なかっただろう。

相手に賠償する財宝など無いだろうし、公爵家に兵を向ける事も出来ない。


「そうか……。」


私には何も言えなかった。

被害者達には何も出来ないし、何より…。


(シェールの魔法……私には使えないのかもな…。)


この年になっても覚えて無いのだ。

何か特別なイベントが必要か、私に素質が無いかのどちらかだろう。


長男アイズ様の魔法については私は分かりません。」


セバスは長男アイズと戦場を共にした事が無いらしい。

戦争の事も調べているが、中々情報が集まらないとの事だ。


「ディノス様が入学されたら本格的に調べてみるつもりです。」


「そうか。いつも助かる。」


「それと……、ディノス様は公爵家の魔法を覚えない方が良いかと…思われます。」


言い辛そうにセバスが続ける。


当主ヌルド様の魔法…アレからは禍々しさしか感じられませんでした…。地獄の蓋が開いたかと思った程です……。」


セバスの顔が青い。あのセバスが思い出すだけで顔色を変えるとはな。


魔法の事はどうするか考えなくてはな。

と言っても、正直打つ手が思い付かないが…。


(本当に亜神クラスの人物に頼る必要が出てきたかもな…。)


世界樹の管理人、ハイエルフとの接触も視野に入れるべきだろう。

セバスとの話で祝勝気分はすっかり消えてしまい、静かに休む事にした。


「ディノス様。大丈夫です。ディノス様は最高の存在ですから!」


私室でホットミルクを飲んでいると一緒について来たリサが頭を撫で始めた。

いつもはうまくあしらうのだが…疲れたせいか、今日はこのままで良いと思ってしまう。


リサに頭を撫でて貰うのが無性に嬉しく感じてしまう……。

私の方が精神年齢は大人のはずなのだが…。


暫く撫でて貰っていると、段々リサの鼻息が荒くなって来たので終了とした。


「リサ、ありがとうな。明日にはいつもの私に戻るよ。」


最後にリサの頭を撫で返し、リサを部屋に帰した。


(いつまでも悩んでいられないな!)


やれる事はまだ有るのだ。

足掻くだけ足掻いてから悩み抜こう。



その後は暴走スタンビートの後片付けを進めた。

多くの公爵軍と代官ディーガンは戻らず、代わりに一通の手紙が届けられた。


手紙は私を公爵家家臣として子爵に任命し、迷宮都市ペイスの運営を任せるという内容だった。

暴走スタンビートを鎮めた功績らしい。


使者が読み上げる訳でも無いし、授爵の儀式なども無いらしい。

学園前に唐突の授爵を迎える事になってしまった。


「これで陪臣の子爵家となるのか。王家と切り離すのが狙いなのか?」


セバスに質問する。

私達は全員貴族社会に疎いのでセバスに頼るしか無い。


「そうだと思います。学園で他家と勝手に婚姻を結ぶのを警戒するという狙いも有ると思われます。授爵自体は正室フィアス様の考えでしょうな。」


王国は恋愛結婚を推奨している。

学園で恋に落ちてそのまま結婚する貴族も多いらしい。


公爵家直属の家臣となれば、位階の関係で相手が限られてくる。

身分差の有る結婚はやはり珍しいからな。

家を既に持ってるという利点は有るが、公爵家子息と比べると大分落ちるだろう。

とはいえ別に嫁を探すつもりなど最初から無かったので問題無い。


私は家を構えたが、学園では公爵家子息として扱われるらしい。

色々と昔にイザコザが有り、そう決まってるとの事だ。


「問題は迷宮都市ペイスの運営だな。公爵軍で戻って来たのは一部の内政官のみか?」


「はい。最低限の運営は出来ますが、徐々にほころびが出るでしょうな。」


とはいえやって貰うしか無いだろう…。


「孤児院出身者で頭の良かった者を集めてくれ。後は街の人間か。」


今から教育を始めても使えるようになるまでは時間がかかるだろう。

だが他に方法が無い。


「王国の人間で誰か頼れそうな人間はいるか?」


公爵領に来たがる人間など居ないが、ここペイスならまだマシかも知れない。

公爵家の影響が少ないし、暴走スタンビートが起きたばかりなので今は安全だからだ。

下級官僚は今から育てるのでも良いが、上級官僚はとても無理だろう。


「確認してみます。すぐには無理ですので、学園へ入学したら王家の関係者からディノス様へと連絡が行くようにします。」


藁にもすがる思いで聞いてみると、何とも言えない答えが返ってきた。

これで無理なら今の人員で無理矢理回すしか無いのかも知れない…。


ゲーム知識を生かそうにも、私自身が都市を離れるのでやれる事は少ない。

折角の内政ターンが…と思いつつ、諦めるしか無いのだった。

明日は20時頃投稿します。


誤字脱字報告ありがとうございます。


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