幕間 覇王
ディノス9歳の頃の話です。
ーーー公爵家家臣視点ーーー
「教えてくれ!昨日のは一体何だったんだ!?」
あの後王国男爵は気を失ってしまい、部下に陣まで運ばせた。
あそこまで生き残ったのだし、その位は良しとしよう。
(しかし…王家の人間は何も伝えて無いのか…。)
仕方ない事とは言え、目の前の男が哀れに思えてしまう。
何も知らされずに公爵軍の中に放置されたのだ。
我らなら歓迎だが、それとて信頼有っての事だ。
「あれは星魔法。アイズ様の特殊魔法だ。」
「星…魔法……?」
「そうだ。公爵家が何故特別か分かるか?」
「それは…強いからじゃ無いのか……?」
「ただ強いだけでは無い。あの魔法が有るからこそ特別な存在なのだ。」
王家からスパイに選ばれた人間が、ただ盲目に信じるだけとはな…。
それだけアイズ様の魔法が強力だったと言えるが、王家への不信感も有るのだろうな。
どれだけ美辞麗句を並べて国を治めようが、王家が家臣達を騙している事には変わりない。
「それじゃ…、当主様も星魔法が使えるのか!?」
「いや…、当主様はまた別の魔法らしい。私は見た事が無いので知らんがな。」
「…そんな……。」
椅子に座り、そのまま項垂れてしまった。
まぁ、気持ちは分かるがな…。
「次男様はどうなのだ?次男様の事なら貴様らの方が詳しいんじゃ無いのか?」
王家側の人間に囲まれていると言っていたしな。
「い、いや…一度も聞いた事が無い……。」
嘘をついてる様子も無しか…。すっかり牙を抜かれてしまったようだな。
「まだ幼いからこれから覚えるのか……。もしくは覚えないままかも知れんな。」
歴代の公爵家の人間でも覚えなかった人間は居るらしい。
或いは、それこそが公爵家の血に覚醒するかどうかの境界なのかも知れんな……。
「そんな……。」
そのまま黙り込んでしまった。
当分使い物になりそうに無いな。
「暫くは公爵軍を、アイズ様の戦いを見ていろ。自ら納得すれば良いさ。」
恐らくは軍師殿もこれを狙って私に声をかけたのだろう。
脳筋ならそのまま使い潰してしまうからな。
憔悴し切った男爵を残し、兵達の元へと戻った。
あれからも多数の国、部族を滅ぼしながら東へ進んでいる。
戦いの末、我らに恭順した者達も居る。
もう少ししたらこの大陸の覇者とも名高い皇国へと辿りつく…!
景気付けに小国を攻めているが、この者達は我らを満たしてくれる相手では無いようだ。
「シェール公爵軍へ告ぐ!!我らは降伏する!何でも協力致します!どうかお慈悲を!!」
王冠を被った男と数人が城から出て土下座をしている。
少数で敵の前に現れた度胸は立派だが…。
「降伏は認めん。攻め滅ぼせ。」
アイズ様も興味を無くしたようで、軽く指示を出して座ってしまわれた。
その言葉に、ディーガンを筆頭に血の気の多い将は突進して行った。
私も弱い者に興味は無いので静観だ。
「ガイウス殿!王家から使者が来たそうだ!来れる者は集まれと指示が来た!」
王国男爵が声を張り上げて伝えてくる。
未だにショックから立ち直れた訳では無いが、段々と公爵軍を認めつつ有るようだ。
少なくとも、王家への忠誠は失われてしまった。
「分かった。行こう。」
アイズ様の元へと集うと、数人の指揮官と王国貴族達が居た。
全員星魔法の洗礼を受けたようで、男爵と同じような顔つきをしている。
「では、お通しします。」
アイズ様は椅子に座ったままだ。
その事に異を唱える者は誰も居ない。
「! 私は王家からの使者だぞ!?何故跪かない!?」
唯一使者だけが咎めているようだが、皆の視線は冷ややかだ。
「何故貴君らは黙っている!?王家への非礼だぞ!?」
王国貴族に声をかけるが、鋭い視線が返ってくるだけだった。
「用件を言え。」
「ック!…王家からの命令だ!今すぐに停戦せよ!」
アイズ様の迫力に耐えかねて本来の役目を果たす。
この小物さ…、誰も伝令役に名乗りを上げなかったのだろうな…。
「勝手に戦争を起こすなど何を考えているのだ!貴殿の態度もしっかり伝えておくからな!」
アイズ様を相手に息巻いている。
見事と言ってやりたいが、何も分かってない愚者が相手ではな…。
「断る。止めたいのなら盟約を果たせと伝えておけ。」
そう告げてアイズ様は退室されて行った。
私を含め、皆も興味を無くしたようだ。
「皇国は王妃様の故郷なのだぞ!大陸の覇者に勝てると思ってるのか!!?」
いつまでも騒ぐので、陣から追い出すように部下に指示しておいた。
覇者だと?公爵家と戦わずにしてその名を名乗る愚かさを教えてやろうでは無いか!!
「それでは、いよいよ皇国との戦です。かの国は王城で迎え撃つつもりのようです。」
小国を滅ぼし、今は会議が開かれている。
軍師殿が情報を伝えてくれるが、いつの間に調べたのか、極秘情報がいくつも有る。
「恐らくは帝国の戦いを聞き、アイズ様の魔法を警戒されてるのでしょう。」
敵軍の構成、主力部隊、有力な将を教えてくれる。
千年皇国と謳われるだけ有って見事なものだ。
「精鋭の宮廷魔術師達による『軍団魔法』、千年の間貯め込んだ宝物による『四方結界』、『千年の守り』と呼ばれる、千年間強化し続けた超強化城壁、全てが規格外です。」
「更に『龍脈之要石』を保有し、大地を巡る力を制御できるとも言われております。」
神に選ばれし民、と自称しているようだが、それだけのモノが有れば納得だな。
ただ攻めても通じぬだろう。さて、どうするか…。
皆が悩んでいるとアイズ様が声を上げられた。
「オレがやろう。貴様らは後詰めをしろ。」
「「「御意!!」」」
またあの星が見られるのか…。
それとももしかしたら…。
「良いのか?流石にアイズ様でも厳しいんじゃ無いのか?」
皇国との戦を考えていると、王国男爵が声をかけて来た。
コイツもすっかり馴染んで来たな。
「見てるが良いさ。明日全て分かる。」
「……分かった。」
私がアイズ様を信じていると伝わったのだろう。それ以上追求してくる事は無かった。
「シェール家よ!!今すぐ撤退するなら見逃してやろう!!
白亜の壁が長く続いている。
今まで見た中で最も高く、美しい。恐らくは厚さも一番だろうな。
門の上、豪華な鎧を着ている者が喋っている。
豪華な冠を着けているし、王のようだな。
「もし攻めて来るなら今までの非道な行い、その身に返してくれようぞ!!!」
王の言葉に皇国軍は盛り上がっているようだ。
非道な行いか…侵攻、略奪は古くから続く我ら人間の業だ。それを否定するとはな。
「オレの進む道を塞ぐのならば、滅ぼすのみだ!!」
アイズ様が宣言し、同時に腕を掲げる。
『隕石』
審判の言葉が告げられると、空から裁きの使者がやって来る。
(あぁ…、何と美しい……。)
その聖句と目の前の光景に心が奪われる。
我らが目指す極地が此処に有る……!
隕石を止めようと、軍団魔法、四方結界、千年の守りが抗うが、一つずつ砕け散っていく。
遂に全てが破壊されると、龍脈の守りが姿を現した。
「おお…何と……。」
「これは…敵ながら見事な……。」
龍の姿をしたナニかが隕石を食い破ろうとしている。
その光景は言葉では尽くし難く、とうに枯れたと思った涙が流れる程だった。
「まさか……。」
「アイズ様の魔法が…敗れるとは……。」
遂に龍は隕石を噛み砕き、戦場には静寂が訪れる。
だがすぐに敵の歓声によって全てが埋め尽くされて行った。
「どうだ!!これぞ千年の守り!!至尊の皇国なり!!!」
相手の王が叫んでいる。
我らの軍は半分程が放心しているようだ。
「アイズ様、もう一度放てば龍脈を破れると思いますが、如何しますか?」
アイズ様の横で軍師殿が質問している。
アイズ様は……笑っている……?
「ハハハ!ハハハハハ!!見事だ!!!褒美を与えよう!!!!」
まるで待ち焦がれた相手を見つけたように嬉しそうにしている。
まさか、二つ目まで見れるとはな…。
『全てを星に』
その聖句と共に、戦場に再び沈黙が訪れた。
アイズ様の存在感に全員が恐怖しているのだ。
時が止まったような感覚と共に、只々アイズ様に魅入られていく。
大地が震え、大気が鳴動している。
まるで新たな星の誕生を呪うかのように…!!
私は膝を付きながらも、何とかその勇姿を目に焼き付ける。
(龍が…!)
アイズ様を危険とみなしたのだろう。一直線に向かって来る。
「鎖に繋がれた狗などに興味は無い。」
そう、一言呟かれて消し飛ばしてしまった。
大地の代行者、神の力とも恐れられる龍脈の化身をこうも簡単に……!
「褒美だ!食らえ!!」
そう言って剣を振るわれる。
その先は全てが真っ白に塗り潰され……白亜の壁を含む皇都の大部分が消し飛んでいた。
「「「おおおお!!!」」」
私のように、何とかその光景を見ていた者達が歓声を上げる。
王国男爵も見れたとは、運が良い男だ。
「蹂躙せよ!」
アイズ様の号令の元、獣達が動き出す。
勿論私もだ。
千年の誇り、楽しませてくれる事を願うぞ…!
結局、あの後皇国は逃げ出してしまい、ろくに戦う事は出来なかった。
何人かの将は倒したものの、満足できたとは言えない。
そして東へと突き進み海岸まで到着すると、公爵軍は撤退を始めた。
長い間海を眺めていられたアイズ様は、どこか寂しそうだった…。
明日は20時頃投稿します。
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