幕間 覇軍
ディノス9歳の頃の話です。
ーーー公爵家家臣視点ーーー
「当主様と次男様がお会いになられたらしいな。」
「次男様は7歳だったか?ようやくお認めになられたのか?」
二人の男が話している。
だがその内容は大分古いものだった。
「いつの話をしている…もう2年は前の話だぞ。」
無視しても良かったが、一応訂正しておく。
2年前の情報を今更持ち出すとは…疎いにも程があろう。
「ああ…そうだったのか。」
「次男様の情報は全く分からんからな。」
少しバツが悪そうに二人が答える。
長男様と違い全く姿を見せないからな。仕方の無い事か。
「最近では王家の人間が神輿にしようとしているみたいですね。」
全身黒づくめの男が話す。
黒衣の軍師と呼ばれる男の告げる内容は中々刺激的なものだったが…。
「下らん。」
「当主様方に逆らうなら死を賜るのみだ。」
殆どの人間は気にしていなかった。
敵になるなら滅ぼすのみ、実に私たちらしい考えだ。
その後、軍師殿を中心に話していると、思ってもいない御方が現れた。
「「「アイズ様!!」」」
皆が一斉に跪く。
こちらにいらっしゃるとは珍しい…。
「出陣の準備をしろ。」
アイズ様の声に顔を上げる。
(まさか……ついに!?)
「まさか!王都にですか!?」
軍師殿も聞いて無かったようで驚いている。
遂に公爵家の世が始まるのかと期待してしまう。
「王都になど興味は無い。向かうは東だ。」
それだけ言うと出て行ってしまわれた。
軍師殿が追いかけて行ったから詳細は後で分かるだろう。
それよりも…!
「「「おおおおお!!!」」」
「「「久方ぶりの戦だ!!!」」」
「「「アイズ様!万歳!!」」」
喜びの余り皆と一緒に雄叫びを上げる。
長い間待ち望んだ戦が遂に!!
急いで領地に戻り兵を集めなければ。
皆同じ気持ちだろう、すぐに部屋を後にする。
(東とは…どこに…?…まぁ良い。)
公爵領は王国の東に位置する。
ここから東に向かうとなると、帝国や皇国を攻めるのだろうか。
少し気になったがすぐに分かる事だろう!
すぐに軍勢を整えて公都へと戻る。
軍師殿から追加で情報が有り、騎馬兵のみで良いとの事だったのですぐ準備が出来た。
公都正門前に集まり、アイズ様の下知を待つ。
「向かうは東だ!ただ東へと!全ての敵を喰い尽くせ!!」
アイズ様の命令に絶叫が轟く。
戸惑っている者もいるようだが、恐らくは王家のスパイだろう。
そのまま国境を越え、帝国へと攻め入る。
こちらの動きに敵はまだ対応できず、幾つかの街を滅ぼして行く。
「おおおお!!金!銀!!財宝だーー!!!」
街を前にして一人の巨漢が叫んでいる。
「ディーガンか。あの男、正室様の所に行ったんじゃ無かったのか?」
あの男は金と権力が好きで正室派へと移った人間だ。
実力は高いのに惜しい事を、と思ったが、欲望に忠実な事も力の源泉となり得るか…。
「アイズ様!是非私に一番槍を!!」
「許す。」
「うおおおお!!我が配下達よ!続けーー!!」
そのままアイズ様に先鋒を願い出て突っ込んで行った。
あの果てなき欲望、見事に力へと昇華させているようだ。
この街も片付き、ディーガンは宝物を公爵領へと護送しに行った。
またその内戻って来るだろう。
「アイズ様、ようやく帝国が動いたようです。」
その夜、軍の会議が開かれ、軍師殿が報告を上げた。
ようやく戦いになりそうだ。
「そうか。序盤は任せよう。大いに戦え。」
「「「御意!!」」」
帝国軍との戦いを我らに任せて貰えるとは!
喜び勇んで自らの天幕に戻ろうとした所、軍師殿に声をかけられた。
「ガイウス殿。少し宜しいか?」
「おお、軍師殿。色々と調整して頂き助かっておりますぞ。」
公爵軍は長年軍師と兵站に悩まされて来たからな。
いくら魔法の袋が有ろうと、中身が無ければ意味が無い。
軍師殿が来てからの戦争は非常に楽だ。
「いえいえ、こちらこそ皆様方の働きには助けて頂いております。」
「して?その者が何か?」
大戦を前に気が逸る。
軍師殿の横に居る男は見た事無いが、新参者か?
「この者は王家の家臣です。働くから置かせてくれと頼まれましてな…。」
「なるほど。なら私が預かろう。」
「助かります。」
話が終わると軍師殿はすぐに消えた。
私が早く話を終わらせたいと分かっていたのだろう。
「貴様の働く場所に連れてってやる。」
王家の家臣…男爵に適当に命令しておく。
部下に男爵を任せてすぐに出発した。
翌朝、見渡す限り広がる荒野にて帝国軍と対峙した。
流石は一国の軍隊、公爵軍の10倍以上はいるな。
「横陣、構え!」
アイズ様の命令に軍隊が動く。
任せるとは言って下さったが、まさか最初の号令をかけて下さるとは…!
「全軍!突撃しろ!!」
横一列に並び終わると、アイズ様が命令を下す。
公爵家伝統の横陣だ。
「は!?なんで横陣!?あの大軍にこの小勢で突撃!?無理に決まってるだろ!!」
王国男爵が何か叫んでいるが、無視して前線に出す。
「強者は策など要らぬ。全てを蹴散らすのみだ!」
軍師殿が来た事で多少変わった事も有るが、公爵軍の本質は何も変わらん!!
自ら先頭を駆け、同じように軍隊から飛び出してる仲間を見る。
「フハハハハ!負けんぞ!!」
叫びながら敵陣に突っ込む。
槍衾を構えていたが、斬撃一つで吹き飛ぶ軟弱さとはな!
周囲を巻き込んで大技を繰り出し、続く騎馬隊を中に入れる。
「喰い荒らせ!公爵軍の力を見せてやれ!」
ある程度前線を片付けた所で部隊の先頭へと舞い戻る。
幾ら数が多かろうが一度に相手にする敵は限られる。
順に倒していけばいずれは終わる。
「ガイウス隊の力を見せようぞ!このまま突き抜けるぞ!!」
「ヒィィィ!!何でこんな事に!?」
男爵も弱音を吐いてはいるがしっかり付いてくるか、基本は出来てるようだな。
そのまま敵陣を切り裂き、敵の後方に出る。
味方の兵も8割方は残っているようだ。
(帝国は強兵と聞いていたが、期待外れだな。)
少し残念だと思っていると、敵陣の中から大声が響く。
「我こそは帝国四騎士が一人、イースだ!貴様を打ち倒す!」
遠くから存在感の有る人間が追って来てると思ったら、ようやく追いついたようだな。
「私は公爵軍のガイウスだ!相手をしてやろう!」
馬上で斧槍を構え、相手へと向かう。
相手は槍を使うようだ。
「ッハァ!!」
すれ違いざまにお互い攻撃を放つ。
四騎士というだけ有って中々鋭い突きだ。
「…やるな!」
四騎士が声をあげる。
肩の鎧を切り裂いたが、肉までは届かなかったか。
「お主もな!」
私も横腹の鎧が貫かれている。
腕は互角か…。
その後も戦いを続けているが、決着がつかない。
お互いに馬はダメになり、今は地面での戦いになっている。
鎧も殆ど用をなしてない状態だ。
「ガイウス!見事な腕前だ!!もうこの戦の趨勢は決まった!降伏しろ!!」
四騎士の言葉に探知魔法を広げると、確かに公爵軍は劣勢のようだ。
最初の勢いは消え、今は各地に点在して戦っている。
「このままでは各個撃破されるだけだ!だから無謀だと言ったんだ!!」
王国男爵も叫きながら防戦一方のようだ。
しかし…降伏とはな…。
「愚かな。負けるのは貴様ら帝国軍だ。私は降伏など許さんがな。」
「…そうか。」
私の言葉に四騎士は一瞬目を瞑り、今まで以上の気迫を持って構えた。
(これこそ戦よ……!)
その姿に満足し、同じく斧槍を構えた所で、審判の声が響いた。
『隕石』
遠く離れたアイズ様の御声がハッキリと聞こえる。
拡声の魔法など使って無いというのに、心臓が鷲掴みにされた気分だ。
「ええええ!!おいおいおい!!空から何かが……!!」
「時間は無いようだな…。参る!!」
「ックソ!どうなっている!!」
男爵、私、四騎士とそれぞれが行動する。
四騎士は空に気を取られたのか、先ほどまでの強さは感じられなかった。
「ッグ……クソ…!」
「実力で打ち勝ちたかったが、仕方無い事か…。」
そのまま四騎士は倒れていった。
「おい!!どうすんだよ!!」
騎馬隊と一緒に男爵が側に寄ってくる。
男爵だけは何も分かって無いようだ。
「転移。」
近くに味方が残っていない事を確認し、転移アイテムを使う。
「え!?ここは!助かったのか!?」
男爵が喜んでいるが、私達は眼前の光景に魅入っていた。
「………え。本当に…星が落ちてるのか……。」
男爵の呟きをかき消すように、目の前の帝国軍に隕石が降り注いだ。
軍団魔法で防御しているようだが、何の役にも立っていない。
一部の人間は転移で逃れたかも知れんが、これで帝国軍はお終いだな…。
「はははは……。何だよ……、コレ…。公爵家は本当に……神話の住人なのか…。」
壊れたように呟く男爵に、答える者は誰一人居なかった。




