閑話 黄金郷
ーーー闇人娘視点ーーー
「………!!」
朝、久しぶりの悪夢で起こされる。
ディノス様の家臣となった事でめっきり見なくなったと言うのに、最悪な気分だ…。
隣を見ると天人娘がうなされていたので起こしてやる。
恐らくエメルトも悪夢を見ているんだろう。
「ック!……ああ……。済まない…。」
いつからだろう、この悪夢を見るようになったのは…。
昔はそれどころじゃ無かったので記憶に無いだけかも知れない。
魔都での生活は地獄そのものだった…。
孤児院ができるまでは腐肉を食らい、泥水をすすり生きて来たのだ。
大人どころか同じ子供でも信用出来ない中、我ら6人は出会った。
エメルトは我以上に誰も信用しておらず、雪女と夢魔娘はいつも腹を空かせていた。
まだ赤子だった銀狼娘と金狐娘を見つけた時、売ってしまおうかと本気で悩んだ程だ。
結局二人の泣き声に負けて育てる事になったがな…。
まだ子供だった我らが赤子を育てるなど正気の沙汰では無く、当たり前とも言うべきか、我らは見る見る内に困窮して行った。
もう闇の取引に頼るしか無いと思った時、孤児院の話を聞いたのだ。
勿論皆信じなかった。
そのまま売られるに決まってるとな。
当たり前だ。あの魔都で他人を信じる者など居ない。
だが我々には他の手が無かった。
闇の取引…人体実験や人身売買に頼るよりはマシだと思い孤児院へと向かった。
イヴやミリーナ、いつも泣いて謝っていたな…。
幼い子に出来る事が少ないのは当たり前だが、あの世界ではそれが通じない。
我らばかりが働いている事が許せなかったのだろう。
「どうした?昔の事でも思い出してるのか?」
エメルトが珈琲を差し出して来る。
お見通しだな…。
「ああ…。もし孤児院に入れなかったら、悪夢の通りの人生を進んでいたと思ってな。」
「……確かにな。」
我らが見る悪夢、それは黄金郷が只々孤独に戦い続ける夢だ。
我は左目と左腕を無くし、エメルトは内臓を複数失っていた。
他の皆も無傷な者は居なく、誰も信じられずに戦い続けているのだ。
チーム名の通り、どこかに有る黄金郷を目指して…。
「いつまでも考えて居ても仕方無いか…。我らは黄金郷を見つけたのだ。」
「ああ…。孤児院に入れた時は最高の場所だと思っていたが、まだ上が有ったとはな…。」
エメルトの言葉に孤児院を思い出す。
あそこは同じ境遇の者達が集まっていた。
雨を凌げる屋根、飢えないだけの食事、今までずっと夢に見ていた世界だ。
縄張り争いをしていた奴らも居たが、揉めるなんて考えられなかった。
あの幸福を知った後に追い出されたら絶対に耐えられないだろう。
孤児院は聖女マイハ様とその息子ディノス様の力で建てられたと聞き、毎日祈りを捧げた。
私達だけじゃ無い。孤児院の皆がだ。
あの地獄から救って頂いた方々に感謝するのは当然だった。
そんな日が続き、我らも段々と成長していった。
孤児院では最低限の教えを受け、それを年下に教えていく。
その勉強の中で最も人気だったのが剣の訓練だ。
孤児院出身者がつける職など限られており、冒険者が一番の人気だったのだ。
もしかしたらディノス様方のお役に立てるかも、と皆鬼気迫る勢いで訓練した。
神官達がヒールに追われ、一時期は禁止された程だ。
「私達は孤児院の中でもトップの実力だったな。」
そう、そんな中でも我らは周囲を退けて最も強かった。
誇らしかったが、この魔都で暮らして来た我らはそれでも足りないと分かっていた。
「ただガムシャラに突き進んだだけだがな。」
そしてあの日、今でも鮮明に覚えている。
我らの主君がやって来たのだ。
「二人とも、何してるのですか?」
「そうよ。しんみりしちゃって…、年でs……何でも有りません。」
イヴとミリーナがやって来た。
ミリーナが聞き捨てならない事を口走りそうになって居たが、気のせいとしておこう。
「昔の事を思い出してたんだよ。」
「そうだ。我とディノス様との出会いをな。」
エメルトと一緒に返答する。
たまには昔話に花を咲かせるのも良いだろう。
「私達、だろう?」
エメルトが髪を逆立てている。
つまらない冗談を言ってしまったな…。
「そうだな。我々だ。」
我の言葉に満足したようで、笑顔になった。
エメルトはキレると手に負えなくなるから気をつけねばな。
「妾達の王子様ですね…。連れて来てくれた二人には感謝しませんとね。」
「まだ二人とも寝てるわよ。」
ミリーナの言葉に笑いが溢れる。
あの子達は純真に育ってくれたようで何よりだ。
初めて会った時は驚きの連続で、二人のチビ達にはハラハラとさせられた。
褒美として宝石を頂き、我らは有頂天だった。
ディノス様との逢瀬は数える程だったが、孤児院にいらした時は必ずお会いして下さった。
我とエメルトが孤児院から出る年齢となっても引き留めて頂き、我ら6人を家臣にするとまで仰って頂いた。
この時ばかりは我も感情が爆発してしまった。
いつの間にか服を脱ごうとしており、エメルトに止められなければ危なかった所だ。
「あぁ…ディノス様…。」
隣ではエメルトが妄想にふけっている。
どうやら我と同じようにディノス様の勇姿を思い出してるのだろうな。
「今日は夢見が悪かったけど、ディノス様を思い出してたら元気が出て来たわ。」
「妾もですわ。お二人とも、ありがとうございますね。」
イヴとミリーナも悪夢を見ていたようだ。
二人にも話した事が有るし、同じ夢だろうな。
「夢魔族だと言うのに…、自らの夢さえ管理出来ないなんて……!」
ミリーナが頭を抱えている。
種族としての誇りが有るのだろう。
「夢魔族としてはあの夢をどう見ているんだ?」
気になったので聞いてみた。
以前聞いた時は分からないと言っていたが…。
「分からないわ…。と言うか、最近だとアレが夢かどうかも疑ってるのよね…。」
「どう言う事?」
ミリーナの言葉にエメルトが反応する。
確かに気になる言葉だ。
「ごめん。私も全然分からないの。説明出来ないわ。」
感覚的な話なのだろう。そう言われてはこれ以上は聞けないな…。
「もしかしたら、『想いの魔法』なのかも知れませんね…。黄金郷を求め続ける彼女達が、手に入れた私達に向けて、絶対手放すなと伝えてるんじゃ有りません?」
イヴがとんでも無い事を言い出す。
別の世界の我らの事を夢見ていると言うのだろうか。
荒唐無稽な話だが……。
「もしそうだとすれば夢の有る話だな。」
「そうだな…。決して手放さないと誓おう。」
「もし手放してしまったら、夢の私達に恨まれてしまいますね。」
我、エメルト、ミリーナと、決意を新たにしていると、とんでも無い事に気付いた。
「4人が悪夢を見ていると言う事はチビ共は!?」
「しまった!!何故もっと早くに気付かなない!」
「妾とした事が!」
「すぐに行きましょう!」
4人でキリとアイネの部屋へと行くが、そこはもぬけの空だった。
しまったと思い、ディノス様の私室へと向かう。
「リサ様…。あの…馬鹿二人は…?」
「中で寝ています……。」
リサ様に声をかけると凍えるような声で返されてしまう。
許可を取って急いで中に入ると、二人はディノス様と一緒に寝ていた。
エルフの三つ子も一緒で、あの広いベッドが狭く感じられる。
「至福ーー。」
「極楽ーー。」
「ミイラ取りが。」「ミイラに。」「なってしまいました。」
チビっ子達がそれぞれ答えるが、満面の笑みを浮かべている。
ディノス様は……良かった。少し困ってはいるが、嬉しそうでも有る。
我々はチビ二人を回収する。
リサ様といつの間にか居たアリス様がエルフを回収して行った。
その後、半ベソをかいて掃除をする5人の姿が屋敷で目撃されたが、自業自得だろう。
明日は20時頃投稿します。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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