迷宮 ボス戦 01
扉を開けると4匹のモンスターが待ち構えていた。
それぞれが圧倒的な雰囲気を放っている。
「ジュリ、どんな敵か分かるか?」
3匹のモンスターは予測が付かなかったので聞いてみる。
死霊系で有る事は間違い無さそうだが…。
「これはぁ…危険ですねぇ…。ドラゴンゾンビ、ノーライフキング、ノスフェラトゥロード、そしてダークエンペラーですぅ…」
一目でわかるのがドラゴンゾンビだ。
ゾンビというが腐肉を撒き散らす訳では無く、見た目は普通のドラゴンだ。
その横に居るのがノーライフキングか。
中肉中背で全身黒づくめだ。顔も真っ黒でどこが目かも分からない。
何かを握っているようだが、不可視の武器だろうか…。
その隣がノスフェラトゥロード…般若のような顔立ちで、角を二本生やしている。
白塗りでは無く真っ黒な顔だが…負の念は一番強い。
黒い大鉈のような武器を持っている。
3匹の奥に控えるのがダークエンペラー…アレだけ更に別格だな…。
この暗闇の中でもあそこだけ虚無に通じているようだ…。
漆黒の鎧に兜、剣と装備だけは一番まともだ。
『…入って来ないのかね?』
静かに様子を見ていた黒皇帝が声をかけてくる。
静かな声だと言うのに寒気がする程の重圧を感じる。
「リサはノスフェラトゥを、アリスとティニーでノーライフキング、ジュリがドラゴンだ。」
小声で全員に指示をする。
最初から全力だ。
神剣を構え、黒皇帝へと突進する。
『ほう…。それが原種を倒した剣か…。素晴らしい。』
原種とは40層の漆黒骸骨だろうか、話に付き合ってやる気も無いので無視をする。
他の魔物もそれぞれ動き始めたようだ。
それぞれ空間が歪み、消えたと思ったら隣の部屋から爆発音が響く。
(ボス部屋から出られるのか…。)
それぞれ個別に戦うようだ。
皆の事も気になるが、まずは目の前の敵を倒さなければ。
上下左右、フェイントを入れながら斬りかかるが完璧に受けられる。
基本性能で言うと力、速度、技、全てで負けていそうだ。
(だからどうした。)
技の差は覆せそうに無いが、他で補えば良い。
力は根性、速度は気合で超えてやろうじゃ無いか。
そう思いながら自身の速度を上げていく。
それでもまだ相手は余裕なようで、私の攻撃の隙をついて攻撃してくる。
何とかそれを避け、また攻撃を再開する。
私の攻撃時間の方が圧倒的に長いが、中々攻撃が通らない。
だがしかし、そろそろ敵の余裕も無くなってきているようだ。
『……ぬ。』
どこまでも速度を増す私に押され、段々と後ずさって行く。
勿論力も上昇している。最初は力負けしていたが、今では相手が押されている。
『何故だ…。』
自らの力が勝っていると確信していたのだろう。
僅かに焦りを感じる。
私の力は更に増し、相手の剣を弾き、その勢いのまま鎧を斬り裂いた。
残念ながら鎧だけしか斬れなかったようだが、更に攻撃を続ける。
魔法で剣を引き寄せようとしているが、『魔力操作』で邪魔をする。
直接敵の魔力を操作出来ないが、大気の魔力を乱して相手の魔法を乱す。
迷宮内でやるのは骨が折れるが、今の私なら不可能では無い。
そして遂に、中の闇へと痛撃を与える事ができた。
『ッグ……。見事だ……。』
今のは会心の一撃だった。
黒皇帝の存在感が希薄になるのを感じる。
『……名を、聞いても良いか?』
そのまま倒しても良かったが、最後に一言位言葉を交わしてやるかと思い、名を告げる。
「ディノス。ディノス=シェールだ。」
「さらばだ。」という言葉と共に剣を振るったが、途中で剣が止まってしまう。
目の前の敵から漆黒の闇が止めどなく溢れてくる。
「ック!」
慌てて後ろに下がる。
決着の時だったと言うのに、何が起きたんだ…。
(…そろそろ、か。)
身体強化もキツくなり、一旦解除する。
力と速度が上がったのは根性と気合では無く魔法の力だ。
『魔力操作』で無理矢理に力を上げていたのだ。
単純な身体強化よりも遥かに強化された力に体が悲鳴を上げている。
戦っている最中はブチブチと筋繊維が切れる音が鳴り響いていた程だ。
『真逆…!シェールの人間と再び見える事が出来るとはな…!』
その言葉に、地雷を踏んだかと自らの軽率さを呪う。
すぐに身体強化も発動した。
『今までの苦痛の日々、貴様にも味合わせてくれようぞ!』
黒皇帝の叫びと共に、漆黒の闇が収束していく。
元の姿に戻ったように見えるが、鎧の隙間から見える闇が脈動している。
(恐らくは制限時間有りの強化か…。)
魔物に魂が有るのかは分からないが、全てを犠牲にして力を得たのだろう。
よく見ると足から伸びる闇の影が崩れて行っている。
『死ね!!』
咆哮と共に黒皇帝が剣を振るう。
何とか神剣で受け止めるが、完全に衝撃波を止める事は出来なかった。
右肩から左脇腹まで薄く切られる。
周囲を見ると、部屋ごと斬り裂いたようだ。
「ふざ…けるな!」
こちらも負けじと斬りかかる。
防御に徹すればと思っていたが、この調子だと押し切られるだろう。
数回斬り付けるが、多少のダメージは意に介していないようだ。
相手の攻撃が危険すぎて全力での攻撃が難しくなっている。
神剣で防いでいるが、斬撃の余波まで受け切れずに至る所が斬り裂かれる。
何とか致命傷は防いでいるものの、防具はボロボロだ。
『貴様らの!畜生な!行いに!どれだけの民が!犠牲になったか!分かるか!?』
アンデットだと言うのに、一撃一撃に魂が込められているようだ。
その窪んだ眼窩から何かが流れていると錯覚しそうになる。
「…私の!知った事か!」
敵の攻撃を受け止め、鍔迫り合いの形に持って行く。
『我が国の怨み!憎しみ!全てを味合わせてくれる!!』
「黙れ!」
最早足元から消えてきていると言うのに、微塵も揺るがんとはな…。
「貴様らの無念、私が受け継いでやろう!我が名はディノス!聖女の息子なり!!」
最初からシェール性など名乗らねば良かったかと思ってしまう。
とは言え、あのまま終わっていたらコイツもやり切れなかっただろう。
『ふざけるな!!我が恨み!…何故貴様が!!』
叫びながらも薄々分かっているんだろう。
今の剣戟、私が全て受け止めていたと言う事に。
逃げれば勝手に自滅しただろうが、最後まで付き合ってやったんだ。
多少気は晴れて欲しいもんだが…。
「恨みなど晴らさんぞ。貴様らの思いを受け取っただけだ。シェールには私が幕を引こう。」
いい加減、ここまで酷い家は潰れるべきだと思っている。
後は私の覚悟の問題だ。
『真逆!……ありえん……だが…だが……!』
少しは私の気持ちも通じたのかも知れない。本当の敵かどうか疑念が生じているようだ。
恨みの相手だと思ったら味方と言われて…私なら混乱する。
「失敗したら冥府の底で相手をしてやるさ。……だからそろそろ休め。」
浄化の光を浴びせてやる。
魔力の消費量が危険だが、最後の花道だし仕方無いか…。
『……解った。…最早ここまでか……。』
半分以上体が消えてやっと諦めたか…。
未だに恨みは消えていないようだが、自分はここまでだと言うのも理解していたんだろう。
『最後まで魔法を使わんとはな……。信じるのも…一興か……。』
その呟きと共に光に溶けていった。
最後の最後に、希望を抱けたのかも知れない…。
(…しかし……。)
魔法は使っていたんだが…どういう意味だ…?。
土日は一章の修正をします。
中身を修正するのでは無く何話か挿し込む予定です。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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