小さな家臣団
「ご主人様〜。朝ですよ〜。おはようございますぅ。」
隣から聞こえてはいけない声がする。
おかしい。昨日は一人で寝たはずなのに。
慌てて目を覚ますと、思った通りジュリが隣で眠っていた。
昨日と同じくミモムシのような格好をしたままだが、気に入ったんだろうか。
「忘れるなんて酷いですよ〜。放置プレイは愛が無いと駄目なんですよぉ。」
頬を膨らませながら私の上にのしかかって来る。
そういえば昨日毛布に包んだままだったか…。
「おはよう。自力で簡単に取れるだろう?」
別にきつく縛った訳でも無い。
放置プレイの所はスルーした。
「何を言ってるんですかぁ!?ご主人様からのお仕置きを勝手に止めるなんて奴隷失格ですよぉ!」
間延びした声ながらも真剣に言ってくる。
どうやらジュリなりの拘りが有るようだ。
「その通りです!メイドにはメイドの、奴隷には奴隷の矜持と言うモノが有るのです!……おはようございます。」
突然リサが現れた。
今どこから現れたのか全く分からなかったんだが…。
「流石リサさんですぅ!ですからご主人様にはしっかりお仕置きをして貰いませんとぉ!」
「全くです!メイドである私にもお願い致します!」
(朝から全開だな…。)
頭が痛くなってくる。
リサなんて理由すら言ってない。
「ふざけて無いで朝食にしよう。ジュリはもう少し寝ていなさい。」
ジュリを放置してリサと共に寝室を出ようとする。
今度は忘れないようにしないとな…。
「あぁ!ご主人様の香りに包まれてますぅ!ここに楽園が有ったのですねぇ!」
ジュリの声を聞かないようにする。
リサ、物欲しそうに後ろを振り返るんじゃありません。
「主様!おはようございます!」
「おはよう!騒がしかったけど何か有ったの?」
アリスとティニーに挨拶を返す。
ティニーの質問には言葉を濁しておいた。
「それで、今日は何をするんだい?」
朝食を食べ、ジュリを開放した後に今日の予定を聞く。
「ディノス様にお目通りを願う者達をお連れしました。」
リサの言葉の後に扉が開く。
リビングに次々と少女達が入ってきた。
「皆無事に到着したのか。」
見知った顔だったので再会を喜ぶ。
孤児院の子供達だ。
孤児院には年に1、2回足を運んでおり、交流していたのだ。
迷宮都市に来ると言うので会えるのを楽しみにしていた。
「これからはディノス様の家臣として仕えさせて頂きます!宜しくお願いします!」
年長の子が挨拶をする。
緊張しているのか、少し震えているようだ。
「ああ、無理はしないようにね。」
快く受け入れる。
当初は家臣にする気は無かったが、あれから色々とあって考えが変わった。
一番の理由としては孤児院の存続の為だ。
私が公都から離れ孤児院と全く関係無くなった場合、孤児院はどうなるのかと問題になった。
その疑問に誰も答える事は出来ず、私と繋がりを持っておく為に孤児院出身者を家臣として迎える事に決まった。
家臣と言っても緩いもので、メイドとして何人かを雇い、他は冒険者として活動してもらう。
普通は公爵家家臣の子弟から選抜するのだが、誰も信用出来ないから仕方無い。
孤児院出身者の方が信頼できる分有難いとも言える
冒険者達には色々と支援を行い、素材なんかを優先的に売って貰う形だ。
どちらかと言えばパトロンに近いかも知れない。
「は!以前に賜ったこの至宝に誓い、魂まで御身に捧げる所存です!」
恭しく宝石を掲げている。
後ろの子達も一緒だ。
リサは愚か、アリスやティニーまで満足そうに頷いている。
「あ、ああ。その魔…宝石もまだ持っていてくれたんだね。ありがとう。」
この子達は最初に孤児院で会った6人組だ。
あの時は気付かなかったが、何度か会う内にゲーム登場人物だと気付いた。
黄金郷と言うチームを組む冒険者で、『真愛』シリーズ通して登場する。
正式な仲間にはならないものの、防衛戦などで味方として援軍に来てくれる。
ゲームでは公爵家のせいで悲惨な人生を歩んでいる。
登場時から皆義手や義足を嵌めており、片目が潰れている子も居た。
自分たち以外を信用しておらず、戦況が不利になると撤退する扱いにくいチームだった。
それでもシリーズ通しての出演と言う事で根強い人気が有り、私も大好きだ。
ゲームとは全く違う人生を歩んでいるが、絶対に幸せになって欲しい子達だ。
メンバーは亜人2人、魔人2人、獣人2人の計6人だ。
2歳年上の亜人が天人族のエメルトと闇人族のナタリー、同い年の魔人が雪女族のイヴと夢魔族のミリーナ、2歳下の獣人が銀狼族のキリと金狐族のアイネだ。
この館を拠点にして魔の森で活動するらしい。
孤児院でも手合わせした事有るが、既にある程度の実力を持っている。
チーム名は私が黄金郷と名付けておいた。
非常に勝手だが、最大の支援をするので許して欲しい。
そして次が…。
「この者達が私のメイド隊となります!」
リサの声にビクッと怯えている。
初めて見るが、3つ子の幼女エルフと言う属性盛り沢山の子達だった。
「いくら何でも幼すぎないか?」
「正確な年齢は分かりませんが10歳になって無いと思われます。研究施設から逃げ出した子達なので、こちらに連れて来る事にしました。」
(アレがこの子達か…。)
ボロ雑巾のように汚れた服とボサボサの髪の子だったのを覚えている。
前の主人が死んで野良奴隷の状態だったので私が主人になったんだ。
黙ったままで土下座をしてくる。
他人が怖くて常に怯えている状態と言う話だ。
「分かった。私達が居る間はリサ達が面倒を見てくれ。」
名前はノスリ、ノスル、ノスレだ。
元は数字で呼ばれていたらしいが、私が改名しておいた。
私達が迷宮に潜る間はセバスに任せる事になってしまうが仕方無いだろう。
私の名前から一部取った事でリサ達が物欲しそうな目をしていたが、諦めて貰う他無い。
「御心のままに。」
静かに返事をしてリサが下がっていく。
アリスも後輩が出来たので嬉しそうだ。
「あらぁ、私の先輩奴隷と言う事ですかぁ?」
変態がやって来た。
「変な事は教えるなよ。」
命令しておく。
こんな幼女におかしな事はしないと思うが、コイツの行動だけは読めんからな…。
「あぁ!その蔑みの視線!これぞ至福ですぅ!」
いつの間にかジュリを見る目が変わってしまったようだ。
リサはハァハァ言い出してるし、アリスとティニーは真っ赤だ。
「折角新しい家臣を迎えたんだ。もう少し大人しくしていろ…。」
エルフの子達は怯えてるし、冒険娘達は…目を輝かせてやがる……。
「食事にしよう!今日は豪勢に頼むぞ!」
これ以上おかしな事になる前に慌てて場を仕切る。
食事は皆で一緒に食べた。
リサとアリスはメイドとして断ろうとしていたが、エルフの幼女達を待たせるのも可愛そうなので無理矢理命令した形だ。
「うまうまー!」
「おいしー!」
銀狼娘と金狐娘が大喜びで飛び上がる。
今日は無礼講と言ってあるが、年長の二人はハラハラしているようだ。
「ああ…。ディノス様と同じ食事…光栄ですわ…。」
「私たちの王子様…夢を見ているみたいです…。」
雪女と夢魔娘も楽しんでいるようだ。
孤児院の子が貴族と同席するのは本来有り得ないし、感無量になるのも分かる気がする。
「マイハ様…ディノス様は必ずお守りします…。」
「リサ様方には劣るが、我らとて孤児院を代表する身、存分に仕えよう。」
天人娘と闇人娘は落ち着いて食事をしている。
二人には母上が遠くに行った事だけを伝えているが、独自の推測で正室達に軟禁されていると思っているようだ。
殆ど正解に近い。凄い洞察力だと思う。
亜人族は祖を妖精に持つとされ、天人族は光、闇人族は闇の魔法に長けている。
エルフやドワーフも亜人族だ。
(三つ子ちゃんは…。)
スプーンを頑張って持って食べているようだ。
最初は犬食いだと聞いていたが頑張っているようだ。
食事を食べた後はリビングで会話をしながら親睦を深めた。
明日から探検と言う事で短い時間だけだったが、充実した時間となった。
誤字脱字報告ありがとうございます。
面白ければブックマーク、評価お願いします。




