迷宮都市
ーーーディノス視点ーーー
寄り道しながらも旅を続け、やっと迷宮都市『ペイス』へと到着した。
紋章を掲げた馬車が大通りを進んで行く。
城門で到着を告げた途端、触れが周り大通りから皆去って行った。
店は閉められ、遠くの方で露天商が慌てて商品を片付けているのが見える。
「凄いわねぇ。」
ジュリが呑気に感想を述べているが、本当に凄いと思う。
嫌われてるとは聞いていたがここまでとは。
この街は重要地でありながら何度も壊滅している。
近隣に魔物の発生し易い地域が複数有り、更に迷宮も定期的に暴走を起こすからだ。
本来は領主として街を守る必要が有るのだが、公爵軍がやって来るのは壊滅した後だ。
魔物の残党を処理して全てが壊された街の再建を宣言する。
後は商魂逞しい商人達を先頭に人が集まってくる。
彼らが求めるのは近くの鉱山で取れる鉱石で有り、迷宮で取れる宝物や素材だ。
溢れた魔物は王都方面へと向かう事が多いらしい。
「守って貰えなければ当たり前か…。」
住民は避難する為被害は少ないと聞いているが、被害者が0と言う訳でも無いしな。
何となく街を見ながら政務所に向かう。
一応ここに来た名目の一つとして内政を学ぶ為と言ってある。
まずは街を治める代官に挨拶が必要だろう。
敷地に入り馬車を降りるとよく肥えた大男が待ち構えていた。
「これはこれは…。ようこそ迷宮都市へ。私は代官を務めるディーガンです。」
ペコペコと頭を下げながら挨拶してくる。
慇懃そうにしながらもこちらを品定めしているようだ。
この男は正室の派閥の人間だ。
この男から何かを学ぶのは不可能なので早めに終わらせよう。
「内政を学ぶ、と言う話を聞きましたが…。」
ニヤニヤしながら聞いてくる。
公爵家の人間に出来る訳が無いと思っているのだろう。
「ああ。資料に使うからここの経営情報を寄越せ。」
「経営情報…ですか?」
「内政に明るい人間もいるからな。データだけで良い。」
「何を言ってるのですか!?都市の情報を流すなど出来ませんぞ!?」
まともな事を言ってるように聞こえるが、短時間で滝のような汗をかいている。
「私も暇な訳じゃ無い。資料が駄目なら相応のモノを持って来い。」
「相応のモノ…ですか?」
「ああ。私は別邸で過ごす。忘れるなよ。」
それだけ言って馬車に戻る。
応接室に通されたが、すぐに終わったな。
別邸に戻るとセバスに声をかける。
「あれで良いのか?」
「はい。大変素晴らしゅう御座いました。」
代官の事は既にセバスが調べており、対応も任せていた。
正室派閥なので変に対応して母上へ目が向くのを避けたかったのだ。
賄賂を要求すれば大丈夫だろうと言う事で指示に従ったが、やはり演技は難しいな。
代官は金に汚い人間なので、こちらも同じ人間だと思わせれば後は勝手に納得するという事らしい。
「リサ?」
「…悪いディノス様も大変素晴らしかったです。」
鼻血を流しているから何かと思ったら…。
アリスに目配せしてティッシュで拭いて貰う。
相手をするとまたカオスになってしまうので今回はスルーさせて貰おう。
「セバス、この街の事を教えてくれないか?」
私はこの街の事を詳しく知らない。
ゲームでも殆ど出てこなかったし、図書館にも資料は僅かしか無かったからだ。
「わかりました。ご存知の通り、この街は度重なる壊滅を経験しております。公爵家への住民感情は最悪ですな。」
「なんで戦い好きな公爵家が戦わないの!?」
ティニーが反応する。
確かに違和感が有るな。
「それは…幾つか推測されている所ですと、王家への嫌がらせ、スタンビートまで兵士を待機させておくのが面倒、と言われていたりします。」
昔から放置されているようだ。
「後は、他家に魔物を流す事で英雄を育てていると言われていた頃が有りましたな。」
自分達と戦える相手を作ろうと言う話らしい。
不確定過ぎるので余りその説は信じられていないと言う事だ。
「問題は次のスタンビートの予定時期が近いと言う事です。その為住民達は神経を尖らせているようです。」
「そうなのか?」
全く知らなかったので驚く。
この街には孤児院出身者が多く来ていると言う話だから気になってしまう。
「はい。数年の内に起こると言われております。」
迷宮の暴走は迷宮の規模と迷宮内の魔物の討伐数、後は経験則である程度予測できるらしい。
「近隣の情報は?」
「魔物の発生地域としては魔の森、鉱山が有ります。その他としては獣人や亜人の隠れ里が多く点在している事ですな。」
魔の森は冒険者が主に出入りをしており、鉱山は商人や職人ギルドが管理しているとの事だ。
鉱山の方に入るには手続きが必要らしい。
獣人や亜人の里についてだが、隠れ里は貴族に無断に住みついている事を意味する。
公爵領では獣人や亜人は差別の対象になってるので殆どの里が隠れ里だ。
他の貴族領、というか王国では他人種への差別は禁止されてる。
公爵領では禁止されていないので強欲な貴族が買いに来る事もあると聞く。
王国の亜人奴隷の半分以上が公爵領で売買されるとも言われている程だ。
「武器防具の方はどうなんだ?」
リサの重力刀は鞘に戻したら鞘が壊れてしまい、今は聖布で巻いてある状態だ。
リサはこのままでも問題無いと言ってるので、当分そのままで使う事になっている。
ティニーの武器を新調すれば当分問題無い感じだ。
防具については既にそこそこの防具をつけている。
と言っても鎧と言えるのは各部位につけた部分鎧だけだ。
元々着てる服自体の素材が一級品で、鎧部分も希少な素材を使っている。
これを超えるとなると素材から手に入れる必要があるので、当分はそのままだ。
リサとアリスはメイド服、ティニーは修道服のような服を着ている。
アリスは執事予定なのだが、皆からの希望でメイド服を着て貰っている。
リサはメイドに誇りを持っているので、このままメイド道を極めると報告された。
何十着も種類の違うメイド服を作り、皆で試着しているらしい。
ティニーは装飾の無い服で、上は長袖、下もロングスカートなのだが…、体に密着した服でスカートには深いスリットを入れている。
戦っているとつい見てしまうので注意が必要だ。
ジュリは最初に見た通り、一枚の薄布を体に巻いているだけだ。
気が散る時は毛布でグルグル巻きにしている。
ジュリは変態過ぎるので遠慮はいらないとこの短い時間で学べた。
奴隷契約で縛ってみたら苦痛に耐えてまで下ネタを言ってくるので少し怖かった位だ。
色々と考えてしまったが、鍛治については最低限の設備しか無いみたいだ。
迷宮からのドロップ品は数が少ないし、ここでは武器の新調は難しそうだ。
「明日からは早速迷宮に潜ろうか。」
結局内政については何も学べなそうだと残念に思う。
ゲームでは内政ゲームだったし、何よりも自分の好きに出来る金を作りたかった。
迷宮に潜って体で稼ぐしか無いかと気を落としていると、リサから待ったがかかった。
「その事ですが…。ディノス様、明日一日お時間を頂けないでしょうか?」
「時間?勿論構わないが…。」
珍しい提案だなと首を傾げる。
「主様に紹介したい人が居るんです!」
「ああ!…アレね!」
アリスとティニーもリサに続く。
ティニーはアレとか言ってるが、絶対分かって無いだろう。
目をキョロキョロしてるし…。あ、目が合ったら口笛を吹き始めた。
「何か楽しそうですねぇ。」
今までソファで寝ていたジュリも目を覚ましたようだ。
覚醒する前に毛布で包んでアイマスクをしておいた。
「あぁ!まさかこんなデンジャラスな行為を!?」
何を考えているか知らないが、鼻息を荒くするのは止めて欲しいものだ。
その後は部屋割りをしてから、就寝となった。
何か忘れている気もするが、思い出せないなら大した事は無いだろう。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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