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霧の館

夜明け前、迷いの森の中心へと辿り着く事が出来た。

不自然に拓けた地が広がっているから間違いないだろう。


「ここは…?」


セバスが呟く。

リサ達3人は不思議に思ってないみたいだが、ジュリが妖しい目をしている気がする。

何も言わずに暫く待つと、空間が歪んでくる。


「おお…!」


セバスだけが驚いている。

3人は私が関わる事について受け入れるのが早すぎると思う。


別の空間への道が開いたので皆を促して中に入る。

中は霧で覆われ、洋館が薄らと見える。


あそこが『霧の館』、全ての迷いの森から来る事ができる特殊な施設だ。

ちなみに出る時は同じ場所にしか戻れないので、ここを利用した転移は不可能だ。


「洋館みたいだな。中に入ってみよう。」


我ながら白々しいと思うが、皆何も言わずに付き合ってくれる。

セバスの視線が痛いのとジュリの微笑みが怖いが気にしたら負けだ。


中に入るとロビーが広がっており、明かりもついている。

人の気配はしないがホコリ一つ落ちていない。


リサを先頭に一つずつ部屋を調べていき、幾つかのアイテムを発見した。


(敵がいないと知ってると楽で良いな。)


一応警戒はしているものの、気分的には大分楽だ。


お目当ての剣を取り、ジュリに鑑定を頼む。

ジュリは古い魔法に長けており、鑑定などの特殊魔法や空間魔法に長けている。


私も魔法適性は全属性がSだが、特殊魔法や空間魔法は別だ。

そもそも現代では失われた技術で、適性についても省略されているのだ。


戦闘関連の魔法だけ教わっているものの、他の魔法と系統が違いすぎるので苦労している。


「んー、成長する武器ですねぇ。でもこれは…。」


「成長する武器ですか?かつて英雄が使ってたとされる…?」


セバスが早速反応する。

博識だけ有って何でも知ってるな。


ジュリが何か言っていたが、危険という訳では無さそうなのでリサに渡す。


「リサ、これはリサの武器にしてくれ。」


アリスには成長するまでの繋ぎとして魔法の剣を渡すつもりだ。

この館で見つかった武器で、今までの武器よりは上等なものだ。


「良いのですか!?」


「ああ。早速魔力を注いで見てくれ。」


私の言葉に頷き、刀を鞘から抜く。

漆黒の刀身に赤い波紋が浮かんだ美しい刀だ。


リサの手に私の手を重ね、一緒になって魔力を流す。

リサに任せようと思っていたが、ゲームでも思い入れのある武器だ。

思いっ切り力を込めてお披露目してやろう。


そのまま魔力を込めて行くと剣が黒く光って行く。

波紋も赤く光り、少し妖しい感じするのがまた良い。


中二心がくすぐられる!と思って際限なく力を注いで行くと、剣から嫌な音が聞こえた。


「え…?」


剣を見ると、つばの部分が割れ、つかの持ち手部分も壊れている。

柄の内側のなかご、金属部分は無事なようで少しだけ安心した。


壊してしまったのかと焦る。

リサも涙目になっている。


「あらぁ、どうやら封印がされていたみたいですねぇ。」


「封印?」


助け舟かと思ってジュリの言葉に飛びつく。


「えぇ。どうやら成長する武器の正体は、徐々に封印が解けて武器の能力が解放されただけの事みたいですねぇ。」


私達が魔力を注いで行ったらどんどん剣の力も増していったらしい。

今は全ての封印が解けたとの事だが…。


(もしそれが本当なら…、ゲームで最後まで解けなかった封印を解いたって事なのか?)


「なら刀が壊れたとかでは無いって事だな?」


念の為再度鑑定して貰った所、問題無いとの事だ。

この刀の本質は重力を操る能力に有り、刀と周囲の重力を変えれるらしい。


重力刀か…流石だ。最後まで中二心をくすぐってくる…!

何て素晴らしい制作者だと感服してしまう。


「リサ!最高の刀だ!大事に使え!」


「はい!!心して使います!!」


感動のままリサに再度刀を渡す。

今度は問題なく使えたようだ。


街に行ったら壊れた部分を直してやらないとな。

装飾を全て失った刀というのも美しいが、持ちづらいし鞘に入れた時不格好だからな。


アリスにも見つかった魔法剣を渡して、無事に迷いの森での目的を果たした。

一人だけ武器が無かったのでティニーが少し拗ねてしまったが、何とか機嫌を取った。


(モンク用の武器は幾つも有るが、ティニーは聖国の専用武器が一番強かったからな。)


いつまで経っても届かないようなら繋ぎの武器を用意した方が良さそうだ。


ちなみにシュリは既に武器を持っている。

『賢者の杖』という専用武器で、魔法使いだが使えるらしい。





ーーー公爵シェール家、家臣視点ーーー



「迷いの森から魔物が出てこなくなっただと!?」


目の前で小物が騒いでいる。

任せろと自信満々に言っていた割にこのざまか…。


(軍師殿を気取るからそうなる…。)


円卓の奥に座る黒衣の人物を見る。

漆黒のローブを身にまとい、その顔も黒い面で隠れている。


数年前に長男アイズ様の元を訪れ、瞬く間に軍師の座に収まった。

その服装と相まって『黒衣の軍師』と呼ばれている謎の男だ。


「ふむ…。次男ディノス殿の位置は?」


「森にほど近い位置を移動中との事ですが…、まさか次男ディノス殿が?」


軍師殿の言葉に別の家臣が答える。

そういえば軍師殿は何かと次男ディノス殿を気にしているな。

…いや、気にしていたのは側室マイハ様だったか…?


「いえ…今の戦力では…難しいはずですね。」


「あの王国のいぬめがやったのですか!?」


軍師殿が否定したと言うのに、小物が尚も激昂する。

そろそろ鬱陶うっとうしいな…。


「失敗したなら早く消エロ。」


一人の男が小物を切り捨てる。

自らが切られた事に気付く事もなく黒い炎に包まれていった。


いぬとはな…。愚かにも程が有る…。」


誰かがささやくように言う。


「公爵の血を受け継いでいるなら王家の鎖などいずれ喰いちぎるでしょう。それが出来ないならエサとなるだけです。」


他家の者は聖女の血に期待しているようだが、今まで公爵家が積み重ねてきたしかばねを忘れたかと笑ってしまう。

勇者、賢者、聖女、英雄、皆等しく散って行った。


その強さに惹かれて我らは集まったのだ。

長男アイズ様に忠誠を誓ってはいるが、次男ディノス殿とて軽んじて良いお方では無い。


(しかし、エサとはな…。)


次男ディノス殿が反旗をひるがえすなら受けて立つまでだが、どうなるやら…。


「あの方の策自体は悪く有りませんでした。規模は小さくなりますが、私が後を引き継いで置きましょう。」


軍師殿のその言葉を最後に会合は終わった。

元々我らは戦士の集まり、策謀を巡らす事は珍しいくらいだ。


この会合もただ集まって剣を交えるだけだったが、軍師殿が会議のような形に変えた。

素直に従う我らでは無いが、自らの強さを見せる事で納得させて見せたのだ。


策を出すのは殆ど軍師殿だが、息抜き程度の敵も用意してくれるので有難い限りだ。


(規模が小さくなるなら争いは起きんかも知れんな…。)


伯爵家と戦えるかと思っていたので、それが潰えた事で苛立っているのが分かる。

いつの間にかあの小物に期待していたのかと笑ってしまう。


(早く次の戦いが始まって欲しいものだ…。)


常に新しい戦場を求めている。

王国が戦場を用意出来ないなら我らで作る他無いのだ。


自らが飢えた畜生だと理解しながらも止まる事は出来ない。

それ以外の道など知らぬのだから…。

誤字脱字報告ありがとうございます。

面白ければブックマーク、評価お願いします。


第二章初めに『人物紹介』の話を挿し込む為、前話まで1話ずつずらしました。


タイトル変えました。

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