迷いの森
セバスと別れ、今は迷いの森方面へゆっくりと進んでいる。
セバスは先行して調査中だ。
御者はリサとアリスが交代でしている。
今はリサが御者をしていて、ティニーが隣でやり方を教わってる所だ。
「ディノス様、何かディノス様の新しい呼び方は無いでしょうか?」
「呼び方?何でだ?」
「ジュリさんが来たので『ディノス様』と呼ぶ方も増えて来ましたし…、ボクだけの呼び名が欲しいんです!」
顔を真っ赤にして伝えてくる。
流石は我らのマスコット、無茶苦茶可愛い。
「うーん、呼び方か…。色々有るよな。」
そう言って幾つか挙げていく。
貴族社会なら主様、旦那様、若様、若旦那、などだろうか。
「そうねぇ。『アナタ』とか『ご主人様』とかがお薦めよぉ。」
ウトウトしながらジュリが候補を挙げてくる。
コイツが言うと妖しく聞こえるのは何故なんだろう…。
「ご、ご主人様…。」
喉を鳴らしながらアリスが呟く。
何故わざわざそれをチョイスするんだ…。この世界ではそこまで珍しくは無いが…。
「良い所に目を付けたわねぇ。その名称で呼ぶならこれも必須よぉ。」
ジュリが何か丸い物をアリスに手渡す。ってアレ!
「え?首輪?」
「はい、没収!」
何て物を渡してるんだ。
確かに奴隷は普通に居るが、絶対にちょっと特殊な奴隷の方を考えてるだろう。
アリスが意図に気づく前に回収できて良かった。
「アリス、それなら『主様』と呼んでくれ。」
アリスは執事志望だ。
執事なら主呼びでもおかしく無いだろう。
リサは何故かメイドを希望している。
「分かりました!主様!」
「ああ、宜しくな。ジュリ、これは返しておくぞ。」
何とか無事呼び名が決まり、首輪をジュリに返す。
「じゃぁ、私がぁ。」
「え?」
ジュリが受け取った首輪をそのまま自分の首に付ける。
同時に私とジュリが淡く光り出す。
「発動したのか!?」
「古代王国のレア物ですよぉ。」
ジュリのとんでもない呟きと共に契約は成立してしまった。
私の承認無しに発動したのは古代王国産だからか…?
「どういうつもりだ?」
流石に冗談じゃ済まないだろう。
説明を求める。
「ご主人様は邪神復活を阻止しようとしてますわよねぇ?お手伝いをしたいんですの〜。」
「何だと?」
ジュリにはまだ説明して無い。何故知ってるんだ?
「女の勘ですぅ。」
「……。」
「本当ですわ。私も邪神に恨みが有りますのぉ。」
ゆっくりとした口調だが、真剣な表情だ。
女の勘は別にしても信じても良い気もする。
「古の勇者と賢者は邪神によって倒されましたわ。私はその仇を打ちたいのです。」
急に目をパッチリと開き、キリッとした口調で言ってくる。
「……分かった。信じよう。」
少なくとも契約魔法による主従関係は本物だ。
今ジュリは私に絶対服従となっている。
「信じるから魔法を解除してくれ。」
ここまでの大博打をしてくるなら信じても良いだろう。
私が死ねと言えば死なないといけない程の契約だ。
「解除は出来ませんわぁ。古代王国の特注品ですから〜。」
ジュリがドヤ顔で言ってくる。
何故そこでドヤ顔が出来るのか不明だ。
「…じゃあ契約は解けないのか?」
「はい♪」
満面の笑顔で言ってくる。
何故か古の魔法使いを奴隷にしてしまった。
リサやティニーに説明する事を思うと頭が痛くなりそうだ。
「それで、何か分かったのか?」
あれから数日、やっとセバスと合流する事ができた。
ジュリの首輪を見たリサは自分もつけようとするし、ティニーは怒るしで大変だった。
無節操に仲間を増やして来たが、そろそろ私の手に負えなくなって来てる気がする。
「はい。どうやら迷いの森には魔物の巣が幾つか有るみたいです。大量発生した魔物が領外へと流れ込んでいます。」
「領外だと…?魔物の森に隣接する地域と言えば…。」
「男爵位以下の小さな貴族達が治めています。そしてそれをまとめるのが辺境伯家です。」
(これは…放っておくと不味いよな…。)
更に詳しく聞くと、既に被害は広がっており、隣接する貴族家は借金までしているらしい。
公爵家に文句を言っているものの、対応中とだけしか返って来ないとの事だ。
「辺境伯家が出てくるのを待ってるのか?」
辺境伯家は北を守護する王国の要だ。
そんな真似をすれば王国全体に喧嘩を売るにも等しいのだが…。
「いえ…。その前に同じ派閥の伯爵クラスの家が対応に当たると思います。そちらを狙っているのかも知れません。」
(なるほど…。これは長男派閥の策略かも知れないな。クーデターの下準備か…。)
北の守りを弱体化させたいのだろう。
「その巣を潰したとして、兄は出てくると思うか?」
私は出てこないと思っている。
この策謀に直接関わって無いだろう。家臣が自らの裁量で行っているだけの可能性が高い。
他家では解決するのが難しいが私なら問題にならないはずだ。
「動く事は無いと思います。」
セバスの言葉を聞いて気持ちは固まった。
本当は無視したい気持ちも強いが、母上が目を覚ました時に悲しむからな。
「分かった。なら秘密裏に迷いの森に入るぞ。」
その言葉を待っていたのだろう、皆笑顔で返事してくれる。
夜を待ってから迷いの森へ入り、探索を始める。
封鎖されてるとはいえ広大な森を全て監視出来る訳も無く、セバスの案内で簡単に入れた。
「ジュリ、隠密の魔法を。」
「はぁい。」
間延びした声で返事が返ってくる。
これで見つからないはずだ。
「セバス、Sランク以上のモンスターの目撃情報は無かったんだな?」
「はい。精々がAランクでした。」
「分かった。ならセバスとジュリを中心に二つのチームに別れる。朝までに片付けるぞ。」
「「はい!」」
時間的には厳しいが時間をかける訳にもいかない。
集団のボスだけでも潰せれば森の外へ出る事は防げるだろう。
私とティニーとジュリ、リサとアリスとセバスでチーム分けをし、すぐに移動する。
時間が無い事もあって文句が出る事も無かった。
「ティニー、殆ど任せる事になるが頼むぞ。」
「全部ワタシが倒してあげるわ!…だから後で抱っこしなさいよ…。」
後半は小声で呟くように言ってきた。
「ああ。約束するよ。」
何故こんな約束をするかと言うと、今ジュリを抱っこしてるからだ。
ジュリは高速移動自体はできるのだが、森の中などの障害物が多い所では難しいらしい。
「あのぉ…。この格好はミモムシみたいで可愛くないですよぉ。」
ジュリは毛布に包んでいる。あんな薄着でいられたら集中が乱されるからだ。
「その格好も可愛いぞ。」
適当に返事をしておく。
突然奴隷契約を結んでくる相手にはこの位の対応で良いだろう。
「…本当ですかぁ?」
「移動するぞ。舌を噛むなよ。」
高速で移動して魔物の巣を潰して回る。
オーガやウルフ、オーク、トロールが巣を作っていたが、ティニーの攻撃とジュリの魔法で瞬殺して行く。
私は二人が倒した敵の処理をしていた。
浄化の炎で敵を燃やし、誰の手によるものか分からなくしている。
「そろそろ時間だ。戻るぞ。」
敵を倒すのより見つける方が難しかった。
まだ巣は残っているかも知れないが、この辺りが引き際だろう。
リサ達と合流する。
リサ達の方でも四つほど巣を潰したとの事で、合計8個も大きな巣が有った計算になる。
(自然発生にしては多すぎるな。)
人工的に巣を作る方法が有るのかは不明だが、可能性は高いと思った。
長く考えてる訳にも行かないので次の行動に移る。
「じゃぁすぐに迷いの森の中心に行くぞ。」
元々の目的、リサの剣を取りに向かおう。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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第二章初めに『人物紹介』の話を挿し込む為に1話ずつずらします。




