賢者の塔へ
飛ばした人用
019 ディノス、旅に出るかで迷う
020 マイハ、ディノスを思い屋敷を出る
021 ディノス一行、旅に出る
公都を後にしてからは街道を馬車で進み続ける。
街を出た時は皆感慨深そうにしていた。母上との日々を思い出してるのかも知れない。
これから私達が向かうのは一応迷宮都市となっている。
公爵領ではあるもののシェール家の影響は少なく、むしろ住民からは嫌われている街だ。
公爵領から出るのは許されなかったが、迷宮都市に行けるなら問題は無い。
途中に幾つか寄り道もして行くつもりだ。
道の途中で知らずに公爵領を離れても問題あるまい。
まず最初の寄り道は『賢者の塔』だ。
結構有名な場所で、魔物の出現する遺跡のような扱いを受けている。
公爵領とも近いしちょうど良いだろう。
目的は3強最後の一人、魔法使いの『ジュリ』だ。
賢者の塔の地下に封印されていて、今でも発見されていないはずだ。
封印したのは賢者で、彼女を守る為に封印したとされている。
その辺りの詳細は不明だ。
「セバス、明日からは賢者の塔へと向かってくれ。」
そろそろ近くなって来た所で御者をしているセバスに声をかける。
特に理由も聞かずにセバスは承諾してくれた。
旅をして数日過ぎるが、ここまで快適だとは思わなかった。
豪華な馬車に野営の時の見事な天幕と寝具、料理も美味しかった。
時間こそかかるものの、魔法を使った旅は前世より快適かも知れない。
公爵家の人間なので最上級の道具を使っているが、別に私が望んだ訳では無い。
貴族はそれぞれの家格にあった振る舞いが求められる。
いくら私が公爵家を嫌っていようと、貴族であるなら受け入れなければならない事だ。
「今日はこの辺りで休みましょう。」
そう言ってセバスが馬車をしまう。
ゴーレム馬と馬車は専用の魔法袋へと一瞬で消えていった。
「ここが良さそうですね。」
セバスが一瞬で組立済みの天幕を出す。
内装も既に完璧で、ベットからストーブまである。
更に二つほど天幕を広げて最初の天幕と繋げる。これでキッチンとお風呂もできた。
僅か10分ほどで完成となる。
料理も温めるだけという手際の良さだ。
規格外の魔法袋が有るからこそ出来る芸当だが、キャンプの楽しさは半減以下だろう。
「さ、ディノス様。お風呂に行きましょう。」
夕食を食べ終わると早速リサが声をかけてくる。
祖父が居ると言うのに全く迷いが無い。
セバスも顔色一つ変えないのでこの世界では普通かも知れないが…。
「ここの浴室は狭いから一人で入るよ。」
そもそも最近は一緒に入っていない。
何度も嘆願されてたまに背中を流して貰っているが、その時も水着か何かをつけさせている。
「大丈夫です!昨日アリスと入れました!」
ドヤ顔で言ってくる。だから昨日騒がしかったのか。
「私は入らんよ。」
サラッと答える。
ここで隙を見せるとお終いだ。
「大丈夫です。ディノス様、誰にでも初めては有ります!」
コイツは何を言ってるんだろうか…。
「アリス、今日も一緒に入ってあげなさい。」
「うぅぅ……。今日もまたメロンの悪夢が…。」
自分の胸を触りながらアリスが青い顔をしている。
地雷だっただろうか…。
「そう!つまりディノスはワタシと入りたいのね!!」
ティニーが腰に手を当てて指を差してくる。
自信満々に言ってるが、耳まで真っ赤だ。
「なんでそうなる…一人で入るよ。」
私が断るとそのまましゃがみ、人差し指で絨毯を弄っている。
(ちょっと可愛いから止めて欲しいんだが…)
ここで構ってしまうと総攻撃を受ける恐れがある。
黙ったままでいると何度かこちらを見つめ、ついに諦めて浴室へと向かって行った。
リサとアリスもこっちをチラチラと見ながら付いていった。
まさか3人で入るのだろうか…。
「仲が良いようで何よりですな。」
「セバスも止めてくれれば良いものを…。」
ミルクを入れてくれたセバスに恨み言を吐く。
風呂場からは昨日より大きい騒ぎ声が聞こえて来ている。
「まさか!ディノス様の年頃で子供が出来る方もいらっしゃいます。ディノス様もお好きなようになさって良いのですよ。」
とんでもない事を言ってくるのでミルクを吹き出しそうになってしまった。
確かに貴族社会では早婚、早産はどちらかと言えば良い事だ。
学園前に子供が出来るとなると珍しいが、在学中に子供が出来る生徒は多少居るらしい。
「何を言っている。リサは孫だろうに。」
「だからこそです。リサは魔力暴走を抑えられるようになったとは言え、ずっと続くとは限らないのです。」
確かにリサの年齢なら子供が居てもおかしく無いが…。
「止めよう。私にそんな気は無いしな。リサとは最後まで一緒に居るから大丈夫だ。」
祖父だからこそ勧めて来たのかも知れないな。
少しでも安心させようと言葉だけでも誠意を見せる。
(……ん?)
扉の方から何か凄い思念を感じる。
ピンク色の魔力が渦巻いているような…。
「ディノス様…しょれはもう…我慢しなくても良いと言う事でしゃうか?」
何故かバスタオル一枚でリサが立っていた。
「な、なんでそこに居るんだ?」
「やはりディノス様をお呼びしようかと思ったのですが…ですが…ふふふ…。」
(こんな時こそ日頃の成果を見せる時だ…!)
既に爆発寸前だと思い、すぐにリサに魔法をかける。
うまくかかったようでそのまま眠りについてくれた。
「ふぅ…。」
普段からリサの魔力を操作してるせいでリサには私の魔法がよく効く。
地面にぶつかる前にリサを受け止め、これからどうしようかと思い悩む。
セバスを見ると既に姿を消していた。
「リサ!いつまで……!」
眠るリサを抱き抱えている時にティニーがやって来た。
「な、な、何してるのよ!リサを眠らせてナニをするつもり!?」
早速勘違いしているようだ。
このままではアリスまでやって来てしまう…。
「静かに。」
ティニーの口を塞ぐが、よく考えて見るととんでもない事をしているのに気づく。
バスタオル一枚のリサを抱え、半裸のティニーの口を塞いでいるのだ。
焦っていたとは言え、もう少しやりようが有ったんじゃなかろうか。
「…………。」
ティニーが真っ赤な顔で何度も頷いている。
どう収拾をつけたら良いのか分からないが、一つずつやって行くしかない。
何とか説明し、リサも連れて行って貰った。
寝ているリサを運ぶのは大変だろうが頑張って貰いたい。
「おい…、セバス…。」
声をかけると返事が返ってくる。
「おや、気付かれてましたか…。」
ティニー達が出て行くのと同時に気配を消して入って来たのが分かった。
手助けしてくれても良いだろうにと思うが、自分で何とかする問題か…。
「はぁ……。気配を消して入ってくるな。」
軽く文句だけでも言っておく。
(やたら疲れた気もするが、こういうのも久しぶりだな。)
ただ騒いでるだけなのに楽しいと感じている。
以前は少し面倒だったくらいなのに…。
3人が出た後にゆっくりと風呂に浸かり、1日の疲れを流す。
入り口に結界を張る事も忘れてはいけない。
風呂から無事に出ると就寝だ。
天幕の数が限られるので皆一緒だ。
セバスは一人で眠りながら見張りをしているらしい。
何を言ってるか分からなかったが、どうやらセバスには可能らしい。
交代でやろうと提案したが、笑顔で断られてしまった。
3人が寝たのを確認してから就寝に着く。
明日はいよいよ賢者の塔だ。
平日は20時頃投稿します。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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第二章初めに『人物紹介』の話を挿し込む為に1話ずつずらします。




