旅立ち
ーーーディノス視点ーーー
「何故黙っていた!」
怒りのままに机を殴りつける。
自らが悪いと分かりながら、どうしても自分を抑える事が出来ない。
「……申し訳ありません…。」
言い訳もせずにセバスが謝罪をする。
真っ二つになった机を見ながら、八つ当たりをしているだけだと自分に言い聞かせる。
(ックソ!これじゃ悪役そのものじゃ無いか!)
何とか自制しようとするが、黒い怒りがいつまでも溢れてくる。
自らの制御を離れた気すらしてくる。
「ディノス様…。」
リサが私の頭を抱いてくる。
アリスとティニーも支えてくれている。
ようやく黒い怒りが収まって行くのを感じる。
「……すまない…。怒りに任せて行動してしまった。」
未だに怒りの感情は渦巻いているが、これは自らに対しての怒りだ。
自らの弱さ、セバスに当たり散らした弱さに対して怒っている。
「…いえ、ディノス様の怒りは当然の事です。」
深呼吸をしながらセバスの言葉を受け止める。
「こちらがマイハ様より預かった手紙となります。」
「……ああ。」
ゆっくりと受け取り、慎重に手紙を開いていく。
そこには別邸から去った理由、完全な眠りに就いた事とその理由が書かれていた。
(やはり、全て私の為か…。)
母上が別邸から去った理由は正室と私の衝突を避ける為だ。
私が入学するに辺り、正室は母上を人質に寄越せと要求していた。
勿論私は無視していたが、相手の行動はどんどんエスカレートして行き、いずれ私と争いになる可能性が高かった。
それによって長男が出てくるのを避けたかったんだろう。
セバスを交渉役として、私と離れる折衷案を出して納得させたとの事だ。
ただ、本当の理由は私がいつまでも旅立てずに居たからだ。
母上が心配だからと理由をつけ、いつまでも甘えていた私をきっと叱っているはずだ。
眠りについてだが、恐れていた通り、時の眠りが遂に完成してしまった。
私が解呪を続けていた剣を完全に浄化し、その呪いを引き受ける事で完全な眠りへと至るだろうと書かれている。
どうやら、私の方法では完全な解呪は難しかったらしい。
それをした理由は、私の呪いを防ぐ為だ。
顕在化してないだけで私にも呪いはかかっており、今後呪いが強まる可能性が高いらしい。
それを防ぐ為に剣を使って欲しいとの事だ。
あの剣は邪神由来の力によって変質しており、格としては神剣に近くなっている。
母上が呪いを引き受ける事で邪剣としての性質は無くなり、聖剣として私の呪いを少しずつ吸収してくれるだろうとの事だ。
「これがそうか…。」
セバスから剣を受け取ると母上の力を感じられる。
「母上の安全は確保出来ているんだな?」
「万全です。息子と何人もの護衛を派遣しています。正室様が何か仕掛けて来ようとも絶対に防いで見せます。」
セバスが断言する。
正室以外は動かないだろうし大丈夫そうだ。
3人も自分宛の手紙を読み終わったようで涙を流している。
「マイハ様!お目覚めになるまでは必ずディノス様をお守り致します!!」
「マイハ様〜〜!絶対お助けしましゅ〜〜!!」
「ディノス!世界樹にはいつ行くの!?」
リサは祈りを捧げているが、前世の感覚で故人に祈ってるように見えるから止めて欲しい。
アリスはもう涙でグシャグシャで、まともに喋れていない。
ティニーはすぐにでも世界樹に行きたそうにしている。
(そうだな。母上を皆で起こしに行くか!)
そうと決まればすぐに行動しないとな。
「セバス、まだ私に愛想を尽かして無いなら付いて来い!例え相手が邪神だろうと何とかしてやる!!」
(そうだ。誰が相手だろうが勝つしか無いんだ。)
「ッハ!勿論お供致します!!」
セバスが目を見開いている。
邪神を何とかすると豪語した事に驚いているんだろう。
「まずは学園までにSランクを目指すぞ!」
我ながら無茶苦茶な目標だと思うが、少しでも早く強くならなければ。
学園は卒業時にAランクで超優秀だ。
入学時にSランクは公爵家も含めて誰も成し遂げていない。
「御心のままに!」
「ボクも目指します!」
「調子が戻ったみたいね!!」
3人もノリノリで返事する。
「ふふ……。流石は公爵家の麒麟児です。」
セバスも不敵に笑っている。
麒麟児って初めて聞いたが…。
すぐに旅立ちの支度を整えて家を出る。
今まで散々悩んでいたのが嘘のようにアッサリとしたものだった。
ここにもう陽だまりは無いと分かっている。
これからは私が皆を守らなければいけないのだ。
空の向こうには暗雲が立ち込めているが、少しも気にならなかった。
ーーー
その日、公爵家の次男、ディノス=シェールの旅立ちが密かに伝えられた。
恨み、憎しみ、期待、それぞれの注目を受け、新たな物語が幕を開けるのだった。
平日は20時頃投稿します。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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第二章初めに『人物紹介』の話を挿し込む為に1話ずつずらします。