マイハ=シェール
ーーーマイハ視点ーーー
ディを中心にリサちゃん、アリスちゃん、ティニーちゃんがはしゃいでいる。
昔のディと二人きりだった頃を考えると、信じられない位幸せだ。
私が眠る間ディを一人にさせる事には深い悲しみを覚えていた。
乳児の頃でさえ最低限の人間しか居なく、殆ど一人っきりだと聞いた時は発狂するかと思った程。
何度嘆願しても人を増やしては貰えず、いつかディが消えてしまうんじゃ無いかと眠りの度に恐怖した。
ディ自身この環境に置かれた事もあって周囲を信用していない。
神の加護を持ち、恐らくは赤子の頃から深い叡智を宿していたと思うが、自分一人の力に頼る事が多い。
このままでは公爵家の闇に捕まると恐怖していた頃、リサちゃんが現れたわ。
リサちゃんはディに忠誠を誓うと言ってくれ、何より彼女自身がとても良い子だった。
彼女と協力してディを構えば、いつかは皆を頼ってくれると思って精一杯可愛がったわ。
ちょっとリサちゃんが違う方向に進んでいる気もするけど、愛が有れば問題無いわね!
その頃にはセバスを始めとした教育係を置く事も許され、少しだけ安心する事が出来た。
勿論私自身色々と手を回し、手紙を各所に送ったり孤児院を建てたりしたわ。
孤児院はディの為という利己的な理由だけど、それでも救われる命もあるはずよ。
今までずっと申請が通らなかった孤児院も、ディの為と言う理由なら簡単に許可された。
見殺しにするつもりかと思っていたが、その意図は分からないままね。
手紙の方も旧ニムド家の方達が反応を示してくれたわ。
実家の遠縁に当たる家で、お取り潰しとなった家を復興する事を目標としている武の家柄。
ディと同い年の娘さんが居ると聞き、出来るだけ良い条件を考えた。
せめてディが学園に入るまで一緒に居てくれるだけで良い。
公爵家は強者を求めているだけだから、小さな娘には見向きもしないはず。
学園に入れば公爵家からは離れるし、そこで話し合えば良いと思った。
初めて会ったアリスちゃんは愛らしい子で、ちょっとヤンチャだけどディともすぐ仲良くなってくれた。
リサちゃんとも仲良くしてくれてるし、幸せの輪が広がって行くのはとても嬉しいわ!
その後に来たティニーちゃんはなんと聖国の聖女様!
きっと神様が願いを聞き届けてくれたんだと大はしゃぎしてしまったわ!
ティニーちゃんは天真爛漫で裏表の無いとても元気な子!
この子がいるだけで凄い賑やかになってくれたわ。
呪いの事は皆に気付かれちゃったみたいだけど、ディがうまく説明してくれたみたい。
時魔法に気付いたなんて…、ディはもしかしたら…。
恐ろしい考えが頭を過ぎる。
ディの叡智は神々から与えられたものだと思っていたわ。
でも、時魔法は神々によって禁呪に指定されている…。
その魔法に関する事まで教えるかしら…。
この呪いは邪神からのもの。神々の加護があって軽減されていると教えられたわ。
なら私と一緒に居たディは?
今までずっと無事だと思っていたけど、産まれたばかりの赤子のディは無防備なはず。
ディにも時魔法の呪いがかけられているなら説明がついてしまう…。
もしディの精神に時魔法がかかっていたら?
精神だけが時を移動し、生まれる前の神の世界の情報を見たのなら…。
いいえ、そんな事は何も問題は無いわ。
何よりも問題なのは、私のようにディの呪いが強くならないかよ。
同時に公爵当主の考えにも気が付いた。
(ディを邪神の使徒だと思っている…?)
その可能性は強いと思った。
何も教育を受けさせなかったのも、ただ自然のままで使徒がどう動くか見たかったのだろう。
(…馬鹿馬鹿しいわね。)
端ないと思いながらもため息が出てしまう。
ディが邪神の使徒な訳無いじゃない。
善神の使徒なら納得出来るわね。
無駄な事を考えてしまったとディの呪いについて考える。
私とは症状が違うし今まで何も無かった、大丈夫だとは思うけど…。
(そういえば…)
褒美に貰ったと言う剣、持ち主に応じて性質が変わると聞いたけれど…。
見せて貰った時は余りの禍々しさに引いてしまったけど、何故か今になって気になってしまう。
呼び鈴を鳴らしてセバスに剣を持って来させる。
「こちらになります。…ディノス様をお呼びしないで良いのですか?」
「ええ。少し気になっただけなの。わざわざ授業を中断させる訳にはいかないわ。」
セバスが心配しながらも箱を開く。
先日ディが魔力を注いだようで禍々しさは殆ど感じられなかったわ。
(これが気になっていた正体だったのね…。)
剣の核から染み出す禍々しさ、そこから微かに邪神の力を感じた。
それを核にして怨念が際限なく吸い寄せられているのだろう。
ただ、本当に小さな欠片だ。
もしかしたら邪神本体から出された力では無いかもしれないわね。
(でもこれなら…。)
ディの呪いの対策にも出来るかも知れない。
最近あの子が悩んでる事も一緒に解決出来そうね。
絶対にディは怒るだろうだけど、今まで母親らしい事が出来なかったんだ。
ここでまとめて頑張ろう!
次起きた時に実行しようと考え、セバスに最近の事を聞く。
やはり正室も動いているみたいで、ディの入学を邪魔しようと、私を亡き者にしようと画策しているらしい。
こちらもまとめて相手しましょう!
気持ちを入れ替えてディ達と穏やかに過ごす。
まだ悩んでるみたいなので少しでも後押ししてみましょう。
「いつか私が言った言葉、覚えてる?」
私の言葉を聞いた瞬間に落ち着かない様子になる。
やっぱり覚えてるみたいだ。
「な、何の事?」
分かりやすくキョロキョロするディが可愛くて仕方無い!
抱きしめたいのを何とか我慢する。
(待っててね。もうすぐの辛抱よ。)
寂しくなって結局ディを抱き締めてしまった。
いつまでも情けない母親でごめんね。
談笑しているとすぐに時間が経ってしまう。
真っ暗な闇が凍っていくのを感じる。
そろそろ時間のようだ…。
次に目が覚めると、すぐに行動を起こす。
ディに悟らせないようにしてセバスを呼び、計画を話す。
セバスはディに期待しているけど、私に仕えてる訳じゃない。
でも、王国の、ディの為になると分かれば絶対に協力してくれる筈だ。
「それは…。可能です。我々にとっても有難いと言えるでしょう…。しかし、ディノス様は……。」
セバスが苦悩している。
冷徹な元暗殺者と聞いていたけど、この人もディに会って変わったのね。
散々悩んだ後、渋々とセバスが引き受けてくれた。
「絶対にディノス様に恨まれますな…。」
肩を落としているけど、ディなら絶対に分かってくれる!
少し時間は必要かも知れないけど、セバスの事も大事に思っているもの!
少し落ち込んだ後にすぐセバスが動き出した。
後は待つだけね。
途中ディが顔を見に来てくれたので、寝たふりをするのが大変だった。
レディの寝顔を見つめるのはダメよね!
夕方になってからセバスがやって来た。
全ての準備は終わったとの事だ。
皆は久しぶりに街に出ているらしい。
(前に孤児院に行ったのは楽しかったわね…。)
私からすればほんのちょっと前の事だけど、もう5年近く経つ。
私の感覚だとリサちゃんももう同じくらいの年齢だ。
改めて時間の流れが違うんだと感じ、ディを守らなければとの思いが強くなる。
セバスの用意してくれた剣に向かって手を伸ばす。
闇が私を侵食してくるが、むしろ受け止めていく。
『神よ、最期の願いです。』
柔らかい光が私を包んでいくのを感じる。
その向こう側では凍った闇が広がっているが、この場所だけは守られている。
『…其方に感謝を』
その言葉を聞いた瞬間、ディを守れたと安堵する事が出来た。
「ディ…。」
(可愛い私のディ、旅立ちの時よ。私を置いて行きなさい。)
深い闇が迫ってくるが、私の微笑みを崩す事は出来ないままだった。
20時頃にも投稿します。
誤字脱字報告ありがとうございます。
面白ければブックマーク、評価お願いします。
第二章初めに『人物紹介』の話を挿し込む為に1話ずつずらします。




