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母親

「母上、おはようございます。」


「ディ!おはよう!また少し大きくなったわね!」


母上の寝室に入り、挨拶をするとすぐに返事が返ってきた。

素早く私の前まで移動してそのまま抱きかかえられる。


「母上も元気なようで安心しました。」


呪いによって長い眠りを必要とするようになったが、それ以外に問題は見つからなかった。

最もその眠りが問題で、母上には『時の眠り』という時魔法による封印がかけられている。

眠っている間母上の時間は止まっており、世界から切り離されるのだ。


「もー。言うようになったわねー。」


にこやかに頬を合わせてくる。

時間の流れが変わっている事には気付いているだろうに、常に笑顔で接してくれる。

今の所私の味方は母上だけだ。絶対に守らなければならない。


「また何か難しい事考えてるのねー?」


私の頬をムニムニ摘んでくる。

考え事をしてるのが難しくなって来たので母上に向き合う。


「散歩に行きましょう!」


そんな私に満足したようで、母上が元気よく声を上げる。

勿論私も喜んでお供した。


「母上、気をつけてください。」


母上をエスコートしながら庭の薔薇園へと足を運ぶ。

ここは別邸専用の花園で、公爵家の人間は私たち母子以外は訪れない。


茶会用の席があるので休憩する。


「紅茶とミルクです。」


すぐにリサがお茶を用意してくれる。

まだ少女というのにその所作は見事なもので、思わず見入ってしまった。


「ムフフー。そうよねー。ディも年代の近い子が傍に居た方が良いわよねー。」


その姿を見た母上がニマニマと怪しい笑みを浮かべている。


「何を言ってるのですか…。」


またおかしな事をするつもりかとため息を吐く。

母上は私と接する時間が少ないせいで、眠ってる間も何か出来る事は無いかと突飛な行動を取る事が有る。

勿論有難い事なのだが、サプライズと言って説明も無いままなので苦労する事が多い。

以前は私の友達を沢山作るんだと孤児院を経営し始め、セバス達が苦労していた。


「リサちゃん、凄い良い子だから大事にしてあげてね。」


急に真剣な表情で母上が話しかけて来た。

リサが手伝いに来た時に何かあったのだろうか。


「ええ。勿論大事にしますよ。」


よく分からないが返事をしておいた。

私の言葉にリサが顔を赤くしているが、その動きが乱れる事は無かった。


その後もゆっくりとお茶会を楽しみ、日々の出来事を報告して行く。

一つ一つを詳細に聞かれ、話し終わる頃には日が傾いて来ていた。


「そろそろ戻りましょう。」


そう言って母上をエスコートして屋敷へ戻る。

後は夕食を食べたらこの楽しい時間も終わりとなる。


「今日は何の料理かしらね!」


二人きりのテーブルで食事を待つ。

母上はリサを一緒に食べるように誘ったが断られていた。


「うん。美味しいね。」


鳥の香草焼きを食べながら感想を述べる。

この世界の料理は一部では前世のものを凌駕しており、特に魔物系素材を使った料理は絶品だ。

設定だと料理技術は結構劣っているらしいが、普通に焼いただけの料理でも十分美味しい。


二人でお喋りしながら食事をし、寝る準備をする。

一緒に入浴までさせられたのは恥ずかしかったが、自分の年齢を考えると仕方ないだろう。


「リサちゃんも可愛かったわねー。」


リサも第二の犠牲者となった。

メイドに入浴の手伝いをさせるのは割と一般的だが、母上がやるのは初めてだ。

かなりリサを気に入ったらしい。


何も返せずにノーコメントでいると、頬を膨らませて母上が詰め寄ってくる。

紳士として女性を褒めろと言いたいのだろうか。


「リサに髪を洗って貰うのは気持ち良さそうでしたね。次は私もやってもらおうかな。」


私の髪はいつも母上が洗っている。

言われっ放しも良くないと思って少し言い返してみると、母上の顔が見る見る内に歪んでいった。


「ディはママじゃ嫌…?」


涙目でにじり寄ってくる。

本気で悲しんでいるようなので、慌てて訂正する。


「嫌じゃないです。勿論母上にお願いします。」


何とか取り繕うも、機嫌を治すのに幾つも約束をさせられてしまった。


「うんうん。じゃぁ私が寝ている間はリサちゃんお願いね。」


やっと機嫌が戻った母上はリサと約束をしている。

勝手に頼まれても困るのだが…。


「っは!マイハ様がご不在の間は全身全霊を持ってお仕えさせて頂きます!」


リサの方も軍人みたいな受け答えをしている。


やっと就寝の時間となり、母上と寝室に入る。

いつも一緒に寝たそうにするが、眠りの影響が私にも及ぶかも知れないと控えている。

別々のベットで横になっていると母上が声をかけて来た。


「ディ…。」


「何ですか?」


「旅立ちたくなったら私を置いて行きなさい。リサちゃんは連れて行くのよ。」


いつもの寝物語かと思っていたら、真面目な口調で話し出した。


「可愛い私のディ、どうか、すこやかに…。」


どうやら眠ってしまったようだ。

寝息一つ立てず、身動みじろぎ一つしない。

母上の周囲の空間も止まってしまったかのように思える。


(誰も来なかったら心配にもなるか…。)


母上が起きたというのに公爵家の人間は一人も訪れて来なかった。

私の兄弟は兄が一人、弟が一人だがどちらも正室の子だ。

正室は私達母子を嫌っており、我々がこの別邸から外に出るのを嫌がっている。

父も母上に興味は無く、私が生まれてから母の元を訪れた事は無い。

広い邸宅だと言うのに中の人間関係は冷え切っている。


公爵家当主であるヌルド=シェールは非情な人物で、歴代の当主と同じく力を信奉している。

ゲームの設定では邪神を崇拝し、次男わたしの出産の際に邪神の生贄にしたとされていた。

邪神復活の儀式だったが、失敗して母子共々死亡したらしい。

あくまでゲームの設定だからと深く考えないようにしていたが、本当のことかも知れない。


そもそも母上を側室にしたのも母が聖女へと覚醒するのを防ぐ為とされていた。

本来聖女になるはずが邪神の生贄にされるのだ。到底許される事では無い。


(とは言え、できる事は鍛える事だけだ。)


ヌルドは王国で最強格の存在だ。

歴代の当主としてみればそれでも平凡らしいのだが、王国貴族で敵う相手は居ない。

邪神復活を阻止する為にも相応の力は必要だ。


「ディノス様。どうされましたか?」


母上の寝顔を見てから部屋を出ると、すぐにリサが声をかけて来た。

扉横で待機して居たのだろう。椅子が置いてある。


「一度自分の部屋へ戻る。」


折角母上が起きた日だ。今日は同じ部屋で寝るつもりだが、まだ私にはやる事がある。


「ちょうど良い。リサの魔力調整もするから一緒に来い。」


命令すると少し迷いながらも着いてきた。


私室に戻るとリサの上着を脱がし、丹田に手を置く。

前回は服の上からだったが素肌に直接触れた方がやり易いからだ。


「苦しかったら言え。」


絶対に我慢するだろうなと思いながらも声をかける。

私にも余裕が無いからそれ以上気を回す事はできない。


リサの魔力を意識しながら操作する。

過剰な魔力は吸収し、淀みのある箇所は綺麗に流れるように調整する。


「ん…。…ふぅ…。」


流石に苦しいのだろう、時折リサが声も洩らす。

静かな空間でリサの声だけが響く。何となく気まずくなって別の事を考える。


今使ってる「魔力操作」は転生特典のようなもので、意識がハッキリするようになった頃から使えていた。

この世界ではギフトと呼ばれているが、私は転生特典だと思っている。

何故かと言うと破格の能力だからだ。


ギフトの「魔力操作」はあくまでも自分の魔力を操作する能力だが、私は他者の魔力や大気の魔力を操作できる。

他者に使う場合はレジストされる可能性が有るが、この段階まで行くと本来なら別の魔法だ。

ギフトの枠を超えてるから勝手に転生特典と認定している。


そもそも他者の魔力を操作するなんてゲームの設定的には有り得ない能力なのだ。

ドレイン系の魔法は少し近いが、あれはあくまで奪うだけの魔法だ。

恐らくは系統外の未知の魔法となるだろう。


「終わりだ。」


結局会話も無く調整を終了する。

リサが深く礼を述べてから服を着始めるが、こちらを向いたままだった。


「向こうで着替えろ。」


恥じらいは無いのかと思うが、少女ならあり得るかとも思う。

リサは私より年上だが、恐らくは10歳くらいだろう。


「これからは自主鍛錬をする。もう出て行って良いぞ。」


リサに声をかけるが、立ったままじっとこちらを見つめている。

出て行く気はないかと思い、そのまま日課をこなして寝室に戻る。

まだ幼い体なので魔法の訓練が主な内容で、汗は殆どかいていない。

疲れた体をベッドに預けると、すぐに眠りに包まれて行った。

18時、21時頃にも投稿します。


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