ティニー=ファルム
訓練場から怒声が上がる。
「まだまだぁ!!」
その言葉通り、流れるような連撃が繰り出される。
間合いが極端に短い事も有って中々やり辛い。
一つ一つを丁寧に捌き、呼吸の瞬間を狙って投げ飛ばす。
「えええ!?」
突然の投げ技に驚いたようで、空中で奇声を上げながら飛んで行った。
「お見事です。」
リサがタオルを渡してくる。
隣ではアリスもジュースを持って並んでいる。
「ありがとう。」
そう言ってタオルを受け取る。
簡単に拭いていたら「こちらがまだ濡れております。」と言ってハンカチを当ててくる。
結局そのまま最後まで拭かれてしまった。
何とか服の下は死守出来てホッとしている。
「流石ディノス!強いわね!」
投げられた先で綺麗に着地し、すぐにティニーが駆けてくる。
ティニーはいつも元気一杯で、ゲームと同じく脳筋娘のようだ。
拳を使って戦うモンクであり、ヒーラーとして自らを回復する。
『真愛』の派生作品に出てくる彼女だが、単体での生存能力が非常に高いので愛用していたキャラだ。
(彼女が仲間になったと言う事は、最後の一人も味方に出来る…!)
3強最後の一人は封印されており、救い出すには聖女の力が必要なのだ。
ティニーは厳密には聖女では無いのだが、ゲーム中では問題無く救う事が出来た。
最後の一人はその恩義を返す為に味方になってくれるのだ。
「聞いてる?」
鼻がくっつく位まで顔を寄せ、目を覗き込んでくる。
ティニーは鋭いので話をちゃんと聞かないとすぐに気づかれてしまう。
「ああ。ティニーも見事だったよ。流石は聖女だな。」
軽くあしらっていたように感じたかも知れないが、結構ギリギリだった。
ティニーは私より年上と言う事も有って、ちょうど良いくらいの訓練相手だ。
「止めてよ。ワタシはマイハ様と違って本物じゃ無いわ。」
少し悲しそうに呟く。
ティニーは隣国が任命した聖女で、神から認められた存在では無い。
普通の神官達より神聖な力を持っているが、本物の聖女には遠く及ばないのだ。
母上は聖女候補でしか無いのだが、それでも遠い存在だと思っているらしい。
ゲームでは誇りに思っている様に描かれていたが、鵜呑みにしたのは失敗だったか。
「それよりも!いつマイハ様は目覚めるのかしら!?」
「多分もうそろそろだと思うよ。」
ティニーは私と同盟?を結んでからはずっと母上に会いたがっている。
聖国では母上は特別な存在らしく、今でも根強い人気があるらしい。
(前回の戦争もそれが原因だしな…。)
母上が公爵家に強奪された、と言う報せはすぐに隣国まで届き、聖国は奪還の兵を挙げた。
王国は私的な問題だからと公爵家単体で対応させ、父の虐殺が始まってしまった。
父と公爵家に忠誠を誓う一部の家臣達によって、瞬く間に聖国軍は倒されていき、ティニーの両親も亡くなってしまったのだ。
「楽しみね!」
ティニーが笑いながらアリスの頭をグリグリと撫でる。
アリスは少し迷惑そうにしながらも、何だかんだで嬉しそうだ。
三日後、母上が目覚めたとの報告を受けたのでティニーを案内する。
リサとアリスは既に移動している。
(今回は一週間か…。)
昔より徐々に伸びて来ている呪いに焦りを感じる。
歩きながら考えていると、いつの間にかティニーに頭を撫でられていた。
「何を悩んでるの?」
小さな子供に話しかけるように優しく微笑んでいる。
「いや…、今は母上のところへ行こう。」
私の言葉が気に入らないようで、不満そうに頬を膨らませている。
頬を突いてやりたいが、多分噛まれるだろうと思って諦めた。
「マイハ様、お会いできて光栄です。白都の聖女を任命されたティニー=ファルムです。」
私の時と同じように丁寧にお辞儀をする。
母上も嬉しそうに対応している。
「まぁ!聖国の聖女様ですか!?まさかお会いできるなんて!」
ティニーの両手を握ってぶんぶんと振り回している。
ティニーも満面の笑顔になってはしゃいでいるようだ。
「ワタシも本当に嬉しいです!憧れのマイハ様と会えるなんて夢みたい!!」
すぐに意気投合したみたいで母上の胸に顔を埋めている。
ちょっとアリスが嫉妬しているようだ。
「ディノスとも将来の約束をしました!お母様って呼んでも良いですか!?」
突然の発言に目を見開く。
リサから黒いモヤが出ている気がするんだが…。
「ちょっと待ってくれ!将来の約束って何だ!?」
「何言ってるのよ。…あぁ!また聞きたいのね!?仕方無いわねぇ…!」
絶対に勘違いしているが、話してくれるなら有難い。
「同盟の時に言ったじゃない!ワタシをあげるって!!」
少し頬を染めながらもキッパリと言い放つ。
そう言えば言っていた気がする。
同盟の話で頭が一杯になっていて全然気付かなかった。
「同盟は結ばれたわ!だからワタシ達は夫婦ね!!」
「そうなのか…?」
展開に頭がついていけてない。
ティニーの勢いに負けてしまいそうだ。
「勿論リサとアリスも一緒よ!」
母上に抱きつきながらリサとアリスを引っ張り、更に私に目で訴えかけてくる。
母上は興味津々に、リサとアリスは期待しながら私を見てくる。
ティニーには振り回されっぱなしだと思いながらも4人に歩み寄る。
すぐに皆に引き寄せられてもみくちゃにされてしまったが、むしろ嬉しいくらいだった。
リサの鼻息が荒い事だけが気になったが…。
「これでお嫁さん3人ねー。ディったらモテモテねー。」
母上が嬉しそうに微笑んでいる。
王国、と言うかこの世界では一夫多妻制が一般的だ。
王国では更に一妻多夫も認められているし、貴族でも恋愛結婚が推奨されている。
乙女ゲームだから当たり前かも知れないが、ちゃんと理由も存在する。
それは恋愛結婚の方が神々から祝福される可能性が高いと言う統計データが有るからだ。
ギフトや称号などを持てればより繁栄できるとして、各貴族家でも肯定的に捉えられている。
勿論政略結婚も普通に有るし、上位者から求婚されれば断るのは難しい。
「ディノス様のお嫁さん…ディノス様…はぁ…はぁ…。」
「ボ、ボクがディノス様の…!精一杯頑張ります!」
「ディノス!全部ワタシに任せなさい!」
3人が真っ赤な顔で喋ってくるが、それも良いなと思う。
まだまだ先の話だが、楽しくなりそうだと期待してしまう。
「じゃぁ早速裸のお付き合いね。」
どこから持って来たのか、母上がお風呂道具一式を手に持っている。
恒例のアレか…。
もうそろそろ流石にマズいんだが…。
どうやって逃げようか考えていると、ティニーに両肩を掴まれる。
「はい!マイハ様とご一緒できるなんて光栄です!」
結局いつものように体を洗われるのだった。
ーーーティニー視点ーーー
「残念ながら、やはり連絡は取れません。」
「そう…。」
白髪の執事の話に胸が苦しくなる。
(だから帰れってあれ程言ったのに!)
ワタシを護衛して来た騎士達は役目を終えても帰る事はせず、公都に滞在していた。
ワタシに何か有った場合にすぐ動く為だ。
この別邸に長居すれば迷惑をかけると出て行ったのだ。
(絶対に魔王達の手が回ると言ったのに!)
例え怪物達が動かなくても狂信者達が勝手に手を下す。
力に狂ったクズ共によって騎士達はやられてしまったのだろう…。
「お爺様に手紙を書くからお願いできるかしら?」
「勿論です。」
お爺様なら連絡がつかない事が分かればまた騎士を派遣するはず。
新たな犠牲者が出ない内にすぐ知らせないと。
「確か、この後はマイハ様を見舞えるのよね?」
眠りに就かれているマイハ様に会うのは初めてだ。
何故かディノスは渋っていたけど、ワタシに何か出来る事が有って欲しい!
「はい。そろそろディノス様の元へ向かいましょう。」
ディノスの元に寄って、二人でマイハ様の部屋へと向かう。
以前訪ねた時と何もかもが一緒だけど、ワタシ達の気分だけは全く違うわ。
「入るよ。」
ディノスの声と共に扉が開く。
ベットの天蓋からレースのカーテンが引かれ、薄らとマイハ様が見える。
リサがカーテンを開くと、やっと優しいお顔を見ることができた。
「え!?」
そのお姿を見れた喜びよりも戸惑いの方が大きい。
マイハ様は呪いによって眠っていると言われたけど、これって…!
「ディノス!?」
慌ててディノスを見ると口の前に人差し指を置いている。
やはりディノスは分かっているんだわ…!
何とか平静を保ち見舞いを終える。
見た瞬間に分かったけど、やはり何も出来る事は無さそうだった。
ディノスの私室に移動すると、リサ、アリス、執事がついて来た。
ワタシが執事を見ると、ディノスが意を察してくれたようで執事に声をかけている。
「セバス、これからの話は他言無用だ。勿論王家にもな。約束出来ないなら退室してくれ。」
「それは……。いえ、分かりました。誓います。」
二人が淡く光っている。
どうやら契約魔法を使ったみたいね。
「どう言う事!?何で黙ってたの!?何故あの呪いからは神の力を感じるの!!?」
光が収まるとすぐにディノスに詰め寄った。
ワタシの言葉にディノス以外の人間が驚いてるのが分かった。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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