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隣国の聖女

ーーー聖女視点ーーー



聖なる光が収まり、祈りの姿勢を解く。

長年待ち続けた神託は得られたわ。

その内容は望んだものと真逆かも知れないけど、神の奇跡に違いは無いでしょう。


「おお!」

「これで次代の聖女は決まったな!」

「流石は大司教の孫だ!」


見届けていた神官達が口々に騒ぎ立てる。


(勝手なものね。)


その様子を冷めた瞳で見つめながら、無言でこの場を立ち去る。


「何処へ行くのだ?」

「大司教様へ報告か?」

「余程嬉しかったのだろう。」


背後の声を無視してお爺様の執務室へと入る。


「ティニー、ノックをしなさいと言ってるだろう。」


「ああ!ごめんなさい!向こうで騒がれたのがムカついて、つい忘れていたわ!」


部屋に入ると今までの作った表情を崩し、ダラけた姿勢でソファに寝転がる。


「なんて格好をしとるんじゃ…。」


「だって聖女の役をするのも疲れるのよ?でもまぁもう少しの辛抱ね。」


ワタシの言葉にお爺様の動きが止まる。


「……嫌になったのか?」


何を思ったのか、見当違いの事を言ってきた。


「まさか!と言うより、そっちの方がよっぽど良かったわよ。」


これからお爺様の驚愕の表情が見れるかと思うと期待してしまう。

ワタシも平静を保つのに苦労したんだ。これくらいの悪戯いたずらは許して貰おう。


「どう言う事じゃ?」


「白都は滅びの運命に有るんですって!死都に生まれ変わるって告げられたわ!」


「……何と、言う事じゃ…。」


思った通り驚いてくれたみたい。でも全然嬉しく無かったわ。


「聖女の所へ助けを求めると良いだってさ。だからワタシは行くわ!」


「…まさか…、お主までが…。」


「勘違いしないでね。別に生贄になる訳じゃ無いわよ!」


勘違いするのも無理も無いけど、ちゃんと訂正しておかないと。


「人界の魔王にも、最近話題の覇王にも興味は無いわ!ワタシが会いに行くのは真なる聖女と小さな勇者よ!」


ソファに立ってお爺様に指を突きつける。

御行儀おぎょうぎは悪いけど、このインパクトなら伝わるでしょう!





ーーーディノス視点ーーー



アリスが来てから時が経ち、私ももう10歳となった。

リサは魔力暴走に悩まされながらも無事成人する事ができ、皆で祝福した。

アリスも訓練で悩んでたのが嘘みたいに元気になり、毎日元気に過ごしている。


母上の眠りが深くなっている事だけが気がかりだ。

ゲームでは時の眠りを受けた人間はずっと眠ったままだった。

母上は眠りと起床を繰り返していたので個人差が有るのかと思っていたが、今までは多少なりともレジストしていたから起きていられたのかも知れない。


(くそ…!)


このまま完全な眠りに就いてしまったらと思うと気が気で無い感じだ。

解呪に向けて出来るだけ急いではいるが、ゲーム知識を総動員してもこれ以上を望むのは難しかった。


「ディノス様!御来客です!」


セバスが慌てた様子でやって来る。

これほど慌てるのは珍しく、もしや本邸の人間がやって来たのかと警戒する。


「…誰が来たんだ?」


「隣国より、白都の聖女がいらっしゃってます!」


セバスの言葉に動きを止める。

一緒に居たリサとアリスも止まっているが、頭にクエスチョンマークを浮かべているようだ。


「本当か?」


「白都の大司教のお手紙をお持ちです。印章も確認しました。」


セバスが確認したなら確実か。


「分かった。すぐに向かう。」


言葉通りすぐ支度する。

2人目の3強を迎える事に内心では驚いている。


(まさか、白都の聖女が自ら来るとはな…。)


急いで広間に向かうと一人の少女と数人の騎士が待っていた。


「お初にお目にかかれます。この度、白都の聖女を任命されたティニー=ファルムです。折角ですので王国の聖女様にご挨拶に参りました。」


礼儀正しくお辞儀をしてくる。

母上に挨拶に来たと言ってるが、絶対に別の目的が有るだろう。


とは言え挨拶を返さない訳にもいかないので対応する。


「ようこそおいで……!」


挨拶の途中で聖女が掌底を打ち込んできた。


(お転婆娘という設定だったが、最初の挨拶すら聞かないとはな…。)


何かしてくるだろうと思っていたので難なく防いだ。

リサとアリスにも動かないように言っておいて正解だったようだ。


(リサはともかくアリスだと防ぎきれないだろうしな。)


「…何のおつもりでしょうか?」


「流石はシェール家の人間ね!」


猫を被るのも止めたようで、一人で納得している。

リサ達が怒ってるし、早めに説明して欲しいのだが…。


「突然攻撃されても怒らないみたいだし、合格ね!ワタシは貴方と同盟しに来たの!」


「同盟…?」


お付きの騎士達が驚いている。

聖女様の独断専行みたいだ。


「私にそんな権限は無いのだが…。」


聖女に合わせて敬語をやめる。


「ワタシとディノスの話よ!ディノスには白都を救って貰いたいの!お礼にワタシをあげるわ!」


「白都…。」


(まさか…神託が出てるのか?色々な所に影響が出てしまうが…。)


彼女の故郷である聖国の首都、通称『白都』は将来滅びる運命にある。

原因は不明だが死者の溢れる街となり、『死都』と呼ばれるようになる。


(まだかなり先の話だが、もう行動を起こすとはな…。)


一人生き残った彼女は死都を救う為に旅を続ける事となる。

ゲームでは死都奪還の手助けをする事で仲間に出来る。

他にも白都に関係する人物がいる為、今後の予測が難しくなりそうだ。


「それは…大司教の意思なのか?聖女なのだろう?」


大司教は確か聖女の祖父だった。いくら何でも孫を差し出すだろうか…。


「これの事?こんな物はこうよ!聖女の肩書はディノスに会う為に貰っただけなの!」


大司教の親書を破り捨てる。

余りの行動に騎士はおろかセバスも驚いている。勿論私も驚いた。


「親書を破くなんて前代未聞ですぞ!?」


騎士が嘆いているが、しっかりと言い聞かせてやって欲しい…。


「そんな事より!ディノスは同盟を受けるの!?」


真剣な顔でティニーが聞いてくる。

返事をする前に絶対に聞くべき事がある。


「ティニーこそ良いのか?公爵家は聖国にとっては不倶戴天の敵のはずだ。」


正直ティニーを仲間にするのは諦めていた。

ティニーの両親を殺したのはヌルドだからだ。

両親だけでなく一軍丸ごと殴殺おうさつされ、隣国では公爵家は忌み嫌われている。


私の言葉に唇を噛むが、しっかりと目を見て返事をして来た。


「構わないわ!マイハ様の子ディノスとの同盟だもん!」


目が潤んでいる。必要だと思ったが少し意地悪な質問だったか。


「分かった。ならその同盟を受けよう。」


例え個人間だろうと私に同盟を受ける権限など無い。

何より白都を救う方法なんて全く分からない。

それでもティニーの気持ちに応えなくてはと言う思いが全てを塗り潰してしまった。


母上と言い、聖女と呼ばれる人間はやはり特別なのだろう。

誤字脱字報告ありがとうございます。


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