表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/90

小さな敵

ーーーディノス視点ーーー



アリスが悩みを抱えてるとの事だったが、自分で無事解決できたみたいだ。

最近はいつも笑顔で、一緒に居るだけでこちらが癒される。


私達と力量の差が有る事については解決出来ていないが、それについても吹っ切れたと言っていた。

私は公爵家の人間だし、リサとは年齢が離れているからだ。


勿論私としてもフォローしている。

リサと同じようにアリスにも魔力調整を行い、彼女の魔法を強化しているのだ。

それによって制御技術が見違える程になって来ている。


リサと違って暴走の恐れが無い為、限界までやっているのも大きい。

負荷をかけたり、意図的に魔力切れにしたりと、正直子供がするにはキツイ訓練だ。

それでも泣き言を吐かず、一生懸命頑張っている。

その姿を見ていると、私もまだまだ頑張らなくてはと思う。


「もう駄目ですー。」


アリスが私のベッドに倒れていった。

最近では就寝前に魔力を空にしてから眠るようにしている。

こうする事で魔力の回復速度や魔力量を増やそうとしているのだ。


魔法を専門とする一部の貴族家がやってるらしいが、一般的とは言えない修練方法だ。

魔力切れが起きる場合はその人間の精神力も同様に疲弊している。

そうなると魔力暴走が起きる可能性が高くなるからだ。


そもそも魔力切れ自体が魔法を使う人間にとって避けるべき状態なので、この修練をしている貴族家は特殊な家柄なのだろう。

私達の場合は『魔力操作』が有るので何も問題は無い。


アリスに魔法をかけ、良い夢が見れるように精神状態を安定化する。

魔力切れで意識を失うのは気絶に近いので、念の為に精神保護をかけているのだ。


「可愛い寝顔ですね。」


リサがアリスの頭を撫でている。

アリスはもう眠ってしまったみたいだ。


「そうだな。」


私もアリスの頭を撫でる。

起きてる時も可愛いが、寝ていると本当の天使のようだ。


むず痒そうな顔をしたと思ったらにやけ始めた。

いつまで見てても飽きそうに無いが、寝顔を観察するのも可愛そうなのでこれ位にする。


「アリス、良い夢を見るんだぞ。」


声をかけながら隣のベッドにアリスを移す。

訓練の関係で最近はアリスも同じ部屋で寝ているのだ。勿論ベッドは別にしている。


「そ、そ、それでは…っこ、ここからは大人の時間ですね…。」


リサが若干鼻息を荒くして服を脱ぎ出す。

いつもの魔力調整の時間だ。

やる事はアリスと殆ど変わらないのだが、突っ込むのは可哀想だろう。


リサが服に手をかけた所で背中に回り、余り見ないように気をつける。


「いくぞ。」


上着を脱いだ所で背中に手を当て、魔力の調整を行う。


日中の訓練でも似たような事をやってるが、夜はより繊細に行う。

最近はリサも多少魔力暴走を抑えられるようになって来たので、負荷をかけるようにしてるのだ。

これをやると極度の疲労に襲われるという事で、寝る前に行っている。


アリスの時よりも注意して行って行くが、暴走自体はもう大きな脅威では無くなっている。

勿論私が居ればという話だが、以前よりもずっと簡単に暴走を抑えられるからだ。

長い間リサの魔力を操作して来た事で、自分の魔力と同じように操作できるようになって来たのだ。

仮に暴走が起こりそうになっても、リサに触れずに抑える事も可能だろう。


リサの声を聞かないようにしながら作業を終える。

何故リサの出す声はあんなにも色っぽいのだろうか…。

そろそろ何か考えた方が良いかもしれない。


「ありがとう、ございました…。」


リサが荒く息を吐きながら服を着ていく。

魔力も大分消耗しているし大分辛そうだ。


「お休み、リサ。」


リサを抱き抱え、隣のベッドに移す。

アリスと同じように魔法をかけたので安眠出来るだろう。


二人の幸せそうな寝顔を見て、私もそのまま眠りについた。



翌日、訓練場に行くと知らない男が立っていた。

隣には渋面のセバスも一緒だ。


嫌な予感がしてセバスの元へと行くと、案の定招かれざる客だった。


「こちらは新しくディノス様の教育係となる方です。私は何も知りませんでしたので間違いだと思いますが、ここに居る間はお相手して下さい。」


「セバス!貴様もう引退した身だろう!俺に対して敬意を払え!!俺は正室フィアス様から是非と頼まれて来てやったのだぞ!次男ディノス殿よ、俺と正室フィアス様に感謝しておけよ!!」


(ついに来たか……。)


私の周囲が王家側の人間で固められているのが気に食わないだろう、正室フィアスが手を回したみたいだ。

この後セバスがヌルドに確認しに行くが、恐らく教育係を辞めさせるのは難しいだろうと言っていた。


「ディノス様、強さ的には大した事はないでしょう。ですが排除しても大丈夫か確認を取るまではご自重下さい。」


セバスによると公爵家の家臣は強者揃いだが、そう言った人間は全てヌルドアイズの派閥に居るらしい。

正室フィアス派は権力と金に目が眩んだ人間の集まりで、公爵家からすると落ちこぼれの集団との事だ。

それでも公爵の家臣に違いは無いので、私に早まるなと注意して来た。


「分かった。だが…早めに頼む。私はともかく二人をいつまで抑えられるか…。」


リサとアリスは鬼の形相で男を睨んでいる。

私に対する態度が気にくわないのだろう。


私の言葉に苦笑いした後、セバスはすぐに去っていった。

今では引退した身だし、少し時間がかかるかもしれない。



「それじゃあ行くぞ!Aランクまで上り詰めた、ティカーン様の剣技に震えるが良い!!」


「ッグ!」


セバスが去るとすぐに訓練が開始された。

この男の剣技は大した事無いが、力が強い。

受けたつもりが簡単に吹き飛ばされてしまった。


「「ディノス様!!」」


二人が悲鳴を上げる。

他の教官達も拳を握りしめて見守っている。

その様子を見て簡単に吹き飛ばされた事を恥じ、再び剣を構える。


「まだ諦めていないのか?!根性だけは一人前だな!!」


何度打ち合っても吹き飛ばされてしまう。

最初は皆悲しそうにしていたが、段々と周囲が静かになっていく。


「おら!!周りの!!奴らは!!諦めた!!みたいだぞ!!!」


今度は何度か打ち合えたが、やはり最後には吹き飛ばされてしまった。


「やっとくたばったか!?」


男が荒く息を吐きながら大声で喜ぶ。


「くたばったらマズいんじゃ無いのか?」


その様子に呆れながら立ち上がる。

ふと入り口に目をやると、セバスが見えた。静かに微笑んでいるようだ。


(まさか、この短時間で確認出来たのか?)


まだ一時間も経ってない。

その事実に驚いていると、不意に赤い炎に包まれた。


「フハハハハ!馬鹿が!何をよそ見をしている!実戦では魔法が使われる事も有るのだぞ!」


剣の訓練なのに何を言ってるんだと思いながら、魔法を消滅させる。


「阿呆が。貴様の魔法なぞ効くか。」


この男、本当に三流並の実力しか無いようだ。

腕力だけは見る所が有ったので練習になったが、それだけだ。


「…は?!…何をした!公爵家の秘宝でも使ったのか!?」


男が驚いているようだが、その台詞に私が驚いてしまう。

何故こんな貧弱な攻撃に秘宝を使う必要が有るのだ。


「良いから剣で来い。もう少しで貴様の力にも慣れそうなんだ。」


だからわざわざ愚直に付き合ってやったのだ。

わめいて無いで早くして欲しい。


「ハハハ!そうだったな!貴様はさっきまで俺の剣に吹き飛ばされていたのだ!!望み通り、剣で殺してやろう!!」


ようやく剣を構えてやって来た。

やっと訓練になるかと剣を合わせるが、結果は呆気ないものだった。


(こんなものか…。もう慣れたな。)


男の渾身の一撃を軽く受け止める。

相手は両手で剣を握っているようだが、私は片手だ。


「はぁ!?どうなっている!既に勝負は付いているはずだ!全員諦めていたでは無いか!!」


「はぁ……。」


思わずため息が出る。

こんなのを相手にしていると、自分が強者になったと勘違いしてしまいそうだ。


「貴様じゃ私を倒せないと気付いたから見守っていただけだ。今度はこちらから行くぞ。」


相手の剣を押し返し、その後はただ面を打っていく。

二度、三度と続けていく内に男は後ろに下がっていき、大量の汗を流している。


「ッハ!ッフ!ッ何故!何故だ!!」


騒ぎながら面を受けているが、もう限界のようだ。

最後に足を滑らせた所で額を打つ。

盛大に吹っ飛んで行ったが、死んでは無いだろう。


「お見事です。」

「お疲れ様です!」


リサとアリスが迎えてくれる。

その後ろではセバスが頭を下げている。


「セバス、早かったな。助かったよ。」


二人に感謝を伝え、セバスに声をかける。

セバスが居なかったら今もあの男と打ち合って居ただろう。

それを思うと最大の功労者だ。


「何とか伝手を頼り確認しました。『殺すも殺されるも好きにしろ。』との事です。」


「そうか…。」


相手は私を殺すつもりで来ていたし、こちらが殺す事に躊躇ためらいは無い。

前世では考えられない事だが、公爵家の肉体に引っ張られているのかも知れないな。


「それは…。」

「良い事を聞きましたね!」


少し考えていると、リサとアリスが微笑みながらささやいた。

口角は上がっているものの、鋭い目で倒れた男を睨んでいる。

思わず一歩下がってしまう程の迫力だ。


「二人とも…。」


「「何でしょうか?」」


声をかけると、寒気のする笑顔で振り返って来た。


「…程々にな。」


「「はい!」」


殺さなければ良いだろう。あの男も相応の覚悟を持って来たはずだ。

決して二人の迫力にビビった訳では無いと自分に言い訳しながら話を終えた。


その日、訓練場から悲鳴が途切れる事は無かったという。

私も同席したが、二人を怒らせないようにしようと心に誓った。

決してビビった訳では無い。いつまでも笑顔で居て欲しいからだ。

22時頃にも投稿します。


誤字脱字報告ありがとうございます。


面白ければブックマーク、評価お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ