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褒美

「そう言えば、以前の会食でヌルドが褒美をくれると言っていたが、アレはどうなってるんだ?」


ある日の午後、ちょうど気になったので聞いてみた。

あれから一年近く経つし、もう忘れられてるのだろうか。


「それは…。」


セバスが言いにくそうに言葉を濁している。

リサとアリスはメイドの特訓中なので今はセバスと二人きりだ。

何も気を使う必要は無いと思うのだが。


「いえ、そうですね。今お持ち致します。」


少し疲れた顔をして退室して行った。

気になる所だがすぐに答えは分かるだろう。


「こちらになります…。」


そう言って見せられたものは呪われた剣だった。

かなり強い呪いらしく、厳重に聖別された布で巻かれ、口の開いた箱に収められている。

箱と布にはびっしりと呪文が書かれていた。


(これ…、褒美なのか…?)


セバスが隠していた理由が分かった。

こんな物を渡されてどうしろと言うのだろうか。

褒美だから身につけないといけないのだろうか……。


「と、とりあえず布は解けるのか?」


今の状態でも十分だが、中身も見ておいた方が良いだろう。

一応褒美として渡された物だしな…。


「今準備を致します。」


そう言って魔法陣が描かれた豪華そうな絨毯や聖なる光を投射する魔道具を設置して行く。

その光景に軽い目眩がしてくる。


(こんな物、どこかに捨てて来た方が良い気がする…。)


準備が終わり、セバスが手袋をはめて慎重に聖布を解いていく。

解いた途端に布は腐り落ちて行き、手袋を何度も変えている。


ようやく全貌を目にできたが、黒いモヤで覆われていて結局刀身を見る事は出来ない。


(コレはゲームでは見た事無いと思うが、呪いの剣自体はいくつか有ったな…。)


殆どの剣はゴミだったが、一部は聖剣や魔剣として変貌する物も有った。

問題としては解呪方法がそれぞれ違う事だろう。


(一応試してみるか…)


魔法による解呪は一般的な方法になるが、強い呪いを祓う事は難しい。

褒美の品だが出来るだけ頑張った姿勢を見せれば大丈夫だろう。


「解呪を試すから離れてくれ。」


「……畏まりました。」


明らかに危険だから止めるか迷ったのだろう。

私も本当は無視したい気持ちだ。


教会で見た光景を思い出して聖なる光をイメージする。

光魔法を発動して剣に向けるが、一向に黒いモヤが晴れる事は無い。

それどころか、こちらの光を侵食して来るので魔力の消費量がどんどん増していく。


何とか解呪の力を強める。

自分の中で最も聖なるイメージを思い浮かべていくと、段々と母上の姿になって行った。

そのイメージのまま力を振り絞ると、その美しい刀身が姿を現した。


「おお…!何と美しい…!」


(確かに美しいが…これは…。)


純白の剣で、隣にあった鞘も真っ白だった。

すぐにまた真っ黒のモヤで覆われていたが、確かに美しいと言えるだろう。

ただ、恐らくは聖剣のたぐいでは無いと思う。


持ち手に反応して自らの存在を変える剣で、純白だったのは聖なる力に影響されたのだろう。

ゲームでは設定だけ登場した気がする。


「セバス、今はまだ無理みたいだ。また封印を頼む。」


今すぐに使うのは難しいが、将来的に役に立ちそうだ。


「すぐ取り掛かります。」


新しい聖布を取り出し、素早く巻いていく。

ほどく時よりは呪いが薄れているので封印は短時間で終える事ができた。



少し疲れたのでソファの方に移動して体を預ける。

ポケットから魔法の袋を取り出して魔石を取り出す。


魔法の袋は公爵家の物だ。

公爵家の一員として必要最低限の物を持たされている。

魔法の袋は最低限とは言わないと思うが、他にもエリクサーなどの高級品が渡されている。

金や物については不自由した事は無い。その点だけは有難いと言える。


母上は使わないようにしているみたいだが、私は特に気にしていない。

公爵家の金を使って公爵家を潰そうとしてるのだから不義理な行為と言えるが、その辺りはもう割り切っている。

外道に落ちない範囲であれば何でも利用するつもりだ。


「綺麗な宝石ですな。」


魔石で遊んでいたらセバスが声をかけて来た。


「ただの魔石だぞ。」


「魔石ですか?質の良い宝石にしか見えませぬが…。」


私の返答に困惑しているようだ。


「魔石から一旦魔力を抜いて、単一属性の魔力を込めるとこうなるみたいだな。」


これも『魔力操作』の副産物だろう。

魔石から魔力を抜いたら普通は砕け散るし、純粋な単一属性を込めるのも難しい。


「なるほど…。それだけで巨万の富が稼げますな…。」


「当分はやらんよ。正室フィアスから狙われるだけだ。」


絶対に巨大な宝石とか好きそうな性格してるからな。

下手に見せれば本気で狙って来るだろう。


セバスも苦い顔をしている。

もしかしたら王家への贈答品と考えていたのかもしれない。

私から特別な宝石が贈られれば王都に呼ぶ口実ができる。

そろそろ王家の人間が私を直接確認したいと考えてもおかしく無い。


この年齢で一度も社交界に出た事が無いのが異常と言える。

乙女ゲームの世界だけあって王国はパーティが頻繁に開催されるのだ。

三男ドリスも赤子ながら既に出席済みと聞いた。


(ん…。綺麗に出来たな。)


リサとアリス用に漆黒と金の魔石を作り上げる。

透明度が高く、宝石としても一級品だろう。

加工する事は出来ないので価値としては低いが、子供のプレゼントとしては上出来だろう。


「二人はどうしている?」


早速渡しに行こうとセバスに尋ねる。


「もうメイド教育は終わってるはずですが…遅いですな。」


セバスも分からないようなので散歩ついでに探しに行くか。

子供が上手に出来た絵を見せに行くみたいだとかすかに思うが、物が宝石だし違うはずだと自分に言い聞かせる。

何となく恥ずかしくなって急いで屋敷をまわる。


「あ…!ディノス様…!」


リサが見つかると、少し小さな声で名前を呼ばれる。

誰かから隠れているのだろうか。


奥の部屋を見るとアリスが膝を抱えて頭をうずめていた。

泣いているように見える。


「どうしたんだ?何か失敗したのか?」


今朝までは元気にしていたように見えたが…。


「はい…。紅茶をこぼしてしまって…。」


そんな事か、と思うがリサの深刻な顔が気にかかる。


「他にも何か有るのか?」


「…はい。…訓練で私達に全くついていけてないのがショックみたいです。後はホームシックにも…。」


リサの言葉に驚く。

私の前ではそんな素振りは全く見せていなかった。

精神年齢は高いと思っていたが、少女のケア一つ出来ないとは。


「申し訳ありません。後輩の面倒一つ見れず…。」


リサは謝ってくるが、この子もまだまだ少女だしな…。

何より訓練についてはアリスが強くなるしか無いと思ってるのだろう。

公爵家に関わる人間は強さについてシビアだからな。


「後で私が話を聞いてみるよ。」


今すぐ行ってやりたいが、アリスが落ち着いてからの方が良いだろう。

厳しいようだが、アリスの中で答えを出して貰えないと手助けは難しい。

私の侍従としての道しか無いなら私が道を作るが、アリスにはまだ色々な道が有る。

修羅の道を強制しても良い事は無いだろう。


「リサ、こっちへおいで。」


私室へとリサを呼び、先程の魔石を見せる。

一応ペンダントの形にする事までは出来た。


つたない出来だが、今までのリサの忠勤に対してのお礼だ。」


「わ、私にですか…?!」


リサが驚きながらも、ゆっくりと両手で受け取る。

大事そうに胸に抱き、涙まで流している。


(ここまで喜んでくれると嬉しいな。)


自分としては中々の出来だと思うが、色々と改善点も見つかった。

ペンダントにした事で宝石とそれ以外の質の差が強調され、宝石が浮いてしまっている。


何よりもリサの髪と瞳の色と同じ色なので、統一感は有るのだが宝石としては微妙な気もする。

門外漢なので素人考えだが、映えるような宝石を贈るのが良かったかも知れない。


(次の課題だな。)


今度はもっと出来の良い物を贈ろうと思い、泣き止まないリサの頭を撫で続けた。



「あ!あの!私からもあります!」


泣き止んだ後、リサが手を挙げて発表する。


「ディノス様と比べると恥ずかしいのですが…」


おずおずと差し出された手には綺麗なハンカチが乗っていた。

百合の花が刺繍された白いハンカチだ。


「リサが編んだのかい?」


そう言えば以前刺繍の本を読んでいた気がする。


「はい!あ!刺繍部分だけなんですが!」


私が受け取ると目を瞑って審判を待つような顔をしている。

眉間にシワが残ったら大変だろうに。


「ありがとう。綺麗な百合だね。」


そう言って胸ポケットに綺麗にしまう。

刺繍が見えるように整える。少し前に社交界で流行った見せ方らしい。


「なんて神々しい…!」


リサが「はわわわ…」とか呟いている。

大分キャラが崩れてしまっているようだ。


リサが落ち着くのを待って、その日は静かに過ごした。

平日は20時頃投稿予定です。


誤字脱字報告ありがとうございます。


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