孤児院
神官が孤児院について色々と説明している。
この街には今まで孤児院が無かったので非常に有り難いと喜んでいる。
今までなら孤児は悲惨な末路を辿るのが殆どだが、この孤児院が有れば少しでも救われる者が増えると、出来るだけ孤児を受け入れてるらしい。
今まではいくら孤児院の建設を申請しても認められなかったとの事だ。
(断る理由が『弱者は要らん』とはな…。どんな世紀末なんだ…。)
余りの内容に頭が痛くなる。
「難しい話はこれ位にして、早速案内しましょう。」
そう言って早速案内してくれる。
そこまで広い施設では無いが、そこら中に子供が溢れていた。
乳飲み子位から10歳ちょっと位までだろうか、あちこちで騒ぎ声が聞こえる。
「皆元気ですね。」
母上が笑顔で話してるが、私は少し引いていた。
まさかここまで居るとは…。
場所によっては子供たちが折り重なってタワーを作っている。
笑い声が聞こえるから恐らく何かの遊びなのだろう。
「それだけが取り柄ですな。幸い食料は秘密裏に支援して下さる方も多いです。ここは最後の砦、何とか守り抜いて見せますよ。」
覚悟を決めた顔で神官が答える。
子供達と遊んで行きましょうと言う母上の言葉に軽い絶望を覚えながらトボトボと歩く。
母上は勿論、リサとアリスも子供達から囲まれている。
どうしようかと思っていると、二人の少女が手を伸ばして来た。
「にーちゃ、こっち。」
「来て来てー。」
狼耳と狐耳をした獣人の子だ。
後をついて行くと何人かの子が集まっていた。
「どなたですか?」
「見た事無いわね。」
こちらを見て声をかけてくる。
「にーちゃだよ!」
「良い人ー。」
獣人の二人が頭を擦りつけてくる。
「ッウ!この方は…!」
「この悪戯好き共!服を見ればどんな人か分かるだろうに!」
年長の二人が獣人の子たちを叱る。
どうやら6人で遊んでいたようだ。
「大丈夫だから余り叱らないでやってくれ。」
年長の二人に声をかける。
私より少し年上に見える。
「良かったら何をして遊んでいるのか教えてくれないか?」
私の言葉に驚いた顔をしていたが、真ん中の二人が笑顔で答えてくれた。
「仕方有りませんわね。特別ですわよ?」
「うんうん、貴方は良い香りがするし、仕方無いわね。」
仕方無いなーと言葉では言ってるが、すぐにも説明したいと表情に出ていた。
年長の二人は怖い顔をしているが、大丈夫と手で宥めておく。
どうやらお人形?ごっこをしていたみたいだ。
人形は居ないからそれぞれの指に役を割り振っていたらしい。
結構複雑な内容で、説明を受けてるだけでも結構長い。
獣人の子達は飽きて私の体に絡まっている。
「……と、言う事なの!」
「特別に貴方には王子様の役を与えてあげるわよ!」
二人がやっと説明を終え、私の役を教えてくれるが、遠くからリサの声が聞こえてくる。
「ごめんね。そろそろ時間みたいだ。」
二人に告げると、悲しそうな顔でこちらを見て来た。
「また今度遊ぼうね。」
二人の頭を撫で、絡まってるチビ達を丁寧に引き剥がす。
「君達二人もありがとうね。これあげるよ。」
孤児院に来るので持って来たお菓子と魔石を渡す。
魔石は以前図書館で見つけた本を元に作ったもので、私の魔力が入っている。
おもちゃみたいなものだが、子供達にはちょうど良いだろう。
その後走って来たリサと合流し、皆の元へと戻る。
それぞれ楽しく過ごせたらしい。
「ここの者達は将来家来にするのですか?」
リサが真顔でとんでもない事を聞いてくる。
母上が友達と言ったので勘違いしてるのだろうか。
「いや、私は特に何かするつもりは無いよ。」
私自身、この先どうなるか分かって無いのだ。
リサやアリス位なら何とか養って見せるが、ここの子供達の給料を払うのは難しいだろう。
「そうですか…。」
何かしょんぼりとしているように見える。
独り言を言ってるようだが、少し不穏な言葉が聞こえてくる。
「真の忠臣なら…無給でも……。」
これ以上放っとくと危険そうなので、急いで話をふる。
頭の中で(ブラック、ダメ、絶対)と前世の願いが響いている。
「アリスはどうしてるのかな?」
アリスは少し気が弱い所がある気がする。
気になって聞いてみるとリサが笑いながら奥を見ている。
「こらーー!魔王役はしっかりやられないとダメじゃない!ボクは正義の勇者なんだよ!」
奥の部屋ではアリサが男の子数人を相手にチャンバラごっこをしていた。
10人近く転がっているが、大丈夫何だろうか…。
「意外とお転婆なんだな…。」
原作では有名な剣士だし、らしいと言えばらしいのか?
「あ!ディノス様!」
慌てて木の棒を投げ捨てて駆け寄ってくる。
投げ捨てた棒が魔王役の子供に当たってしっかりノックアウトしている…。
「お、お疲れ。」
「はい!軟弱な子ばかりで困ってました!やはりディノス様は特別なのですね!」
アリスは授業に少しずつ参加するようになってる。
もしかしたら私達と同じ感覚でチャンバラをしたのかも知れない。
「アリス、その通りです。他の子を相手にする時はちゃんと手加減しなさいね。」
「はい!リサ姉様!」
これ以上ここで話してると子供達が深い傷を負ってしまうと、慌てて移動した。
母上と合流し、孤児院を後にする。
母上の周りでは子供達が気持ちよさそうに眠っており、穏やかな空気が漂っていた。
孤児院を出る時は大勢の子達が悲しんでおり、母親の偉大さを実感した。
「じゃ、取っておきの花火でも見せてやるか。」
以前母上とリサに見せたヤツのアレンジ版だ。
孤児院を魔力で覆い、建物の至る所で花を咲かす。
花が咲いた後は弾けて消えていく。中々幻想的な光景に仕上がったと誇れる位の仕上がりだ。
「「「わーーー。」」」
子供達が建物中を駆けて行く。
この街は子供達が楽しむ祭りも無いし、初めての経験だろう。
母上が頭を撫でてくるのをくすぐったく感じ、子供達にも少しでも幸せになって欲しいと願うのだった。
平日は20時頃投稿予定です。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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