表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘッドフォンを外して  作者: an-coromochi
最終章 ヘッドフォンを外して。
64/66

エンドロールなんて、余計なお世話だ。

最終章はこれで終わりとなります。


エピローグ(最終章と意味は被りますが)を最後に付け足しますので、

そこまで見て頂けると、嬉しいです。

終わった、という感慨もなく、反響を続けていた自分の声に、ただ、酔いそうだと思った。


階段を下りて表から退場するべきかとも思ったのだが、今頃、舞台袖で自分を待ち焦がれている執行のことを思い浮かべると、それは違う気がした。


体の向きを変えようと一歩下がったときに、会場を割れんばかりの拍手が鳴り響いた。


自分にとっては万雷の拍手、という表現が非常に的確である。


天地を引き裂くような雷鳴が、頭の中で叫び声を上げていた。


彼らにとっては善意なのだろうが、体育館に反響する乾いた拍手の音は、下手をするとチャイムの音よりも頭を強く揺らした。


 冗談じゃない、人の話を聞いてたのか、馬鹿野郎。


マイクに向かってそう叫びたくなる衝動に駆られたが、同時に、どこか満たされた心地になったのも勘違いではあるまい。


最後の最後に醜態をさらすわけにはいかない。


その一心で足を前に動かし、舞台袖の暗がりに身を移す。


陽の光を嫌い、石の下に隠れようとするダンゴムシのようにのろのろと、壇上を後にする。


 ぐわんぐわん、揺れる頭のまま暗幕の隙間を縫う。すると、途端に力が抜けて、その場に膝から崩れ落ちた。


電池を抜かれたロボットみたいに支えを失い、そのまま背中から冷たい床目掛けて倒れ込んだ。しかし、私の背中に触れたのは柔らかで、春の陽だまりのような温みだった。


見上げると、暗がりの中、瞳いっぱいに涙を溜めた執行の顔があった。


あたかも、夜空に瞬く星のように、涙の粒は輝いていた。


すすり泣く執行の声が、ぞわりと鳥肌を立てるが、率直に言って気持ちが良い。


何か言葉を発しようと口を開くも、結局、何を言えば良いのかが思いつかず、もう一度唇を閉じた。


 気づけば拍手はやんでおり、生徒会役員が閉会の挨拶をしている声だけが聞こえてきていた。


やり遂げたのだ、とじんわりとした達成感が胸に宿るのを感じているうちに、少しずつ発表前、自分が執行に取った大胆過ぎる行為が記憶に蘇る。


あぁ、馬鹿なことをしたものだ。

あんなことをしたら、告白の返事をしたも同然じゃないか。


段々と彼女の赤く、未だ涙に濡れた顔を真っすぐ見つめられなくなる。


せめて何か言ってくれればいいのだが、執行はずっとしゃくりあげて泣き続ける一方だ。


こんなにも、執行の口から呑気な声がこぼれるのを待ったことはなかった。


比較的、整っていると形容しても問題はない顔立ち。

そして、茶色を帯びたサラサラの長髪。

左側だけが長く垂れている髪の先端が、私の前でゆらゆらと揺れていた。


きゅっ、とすすり泣く声を抑え込んでいる唇も、今はとにかく愛らしく映った。


 しばらくそうして、彼女の柔らかな膝枕の上から、その落下してくる彗星を眺めていたのだが、退館を促す教師の声によって、直に終業のチャイムが鳴ることに気が付いた。


今更かもしれないが、やはり疲弊した状態でチャイムの音を聞くのは、精神的にも肉体的にも芳しくない。


「返せ」


執行の首にかけたヘッドフォンを指で叩き、催促する。


一瞬だけ不満そうに顔をしかめた彼女は、「もっと気の利いたこと、言えないのぉ?」と頬を膨らませた。


だが、私が力なく首をかすかに左右に振ると、仕方がないと言わんばかりにヘッドフォンを外してみせた。


薄暗闇に明滅する、相棒の輝き。

チカチカと、青い光が光る。

あるいは、弱い光を吸い込んで煌めく透明の粒子。


ほんの十分にも満たない時間離れていた相棒が、ゆっくりと近づいてくる。


目を閉じて、自分の耳に返ってくる優しい感覚に身を委ねる。


しんとした静謐が訪れる。


厳か、とまではいかないが、決して何者にも邪魔されない、豊かで、だが灰に包まれた大地のような静寂だった。


そして、その直後、呼吸ができなくなる。


両耳を覆うヘッドフォンの上から、軽く圧力がかかる。


何が起きているか理解できないほど、私という人間は鈍感ではなかった。


それでも、ただ目を閉じていた。

今、目を開ければ、きっと本当の気持ちとは別のところで体が離れてしまうだろう。


柔らかで、甘い、梅の花を思い出す、感触と匂い。


自分が幸せか、なんて考えたこともないけれど。


少なくとも二人の中には、あまりにも得難き沈黙が広がっていた。

読みづらかったり、もっとこうしたほうが良い、という意見がありましたら、是非お寄せください!


ご意見・ご感想、ブックマーク、評価が私の力になりますので、


応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ