そっちが表って、誰が決めた?
今回は少々短くなっております。
すでに、ここまでで事件の真相にお気づきの方はおられるでしょうか?
上手に伏線を敷けていないので、難しいかもしれませんし、
逆に簡単かもしれませんね。
書いている側には、そのあたりの塩梅がどうなのかは、分からないものです…。
何はともあれ、これからもお楽しみください!
…自分で考えて、と言われても。
自室に戻った春泉は、首を傾げながら、不服そうな顔つきで荷物を部屋の隅に置いた。何もない角際だが、ここが鞄の定位置だ。
考えるべきこと、というより考えられることは全部考えたのではないか?
ベッドの上に腰掛け、短く息を吐き出す。
電気も点けていないので、部屋の中は薄暗いままだ。
カーテンの隙間から漏れ出す、黄色い光だけが異様な輝きを放っている。ただ、それもすぐに見えなくなるだろう。
夜が来る。
夕食の支度もしなければならないし、お風呂にだって入らなければならない。
生きているというだけで、自然とやらなければならない作業が増えるものだ。きっと数年もすれば、化粧だってその一つに入るのだろう。
どうでもいい思考を頭の中から追い払い、もう一度、冬原が言った言葉の意味を考える。
彼女は明確に何かを知っている様子だった。いや、もはや犯人に心当たりがあるのだろう。
ロッカーの鍵を掛けられていた件を考え直せとのことだったが、あのときのことは、もうこの間みんなで話し合ったはずだ。
何か見落としがあるということなのだろうか…。
いつ掛けたのか、何故自分を狙ったのか。
どれも曖昧な解答しか得られず、全ては想像の上での筋道しか立っていない。
まだ、あの話の中に触れていない部分があるとすれば…。
ようやく頭が思考モードに入ったタイミングで、炊飯器が陽気なBGMを奏でて、米が炊けたことを告げた。
実家でも同じようなメロディだったが、もしかすると、日本の炊飯器共通なのかもしれない。
時計のほうを振り向くが、電気を点けてないので時刻が確認できない。まあ、普段通りの設定なのだから、今は18時30分前後だろう。
利便性と引き換えに、どこにいても時間に縛られて生きている人間の性に、皮肉な笑みを浮かべた瞬間、ふと、あのときは普段どおりではなかったことを思い出した。
そういえば、あの日は時計が少し早くなっていたおかげで、自分は助かったんだ。
あの偶然がなかったら、冬原たちの助けも間に合わなかっただろう。
――…偶然?本当に?
この高校に転校してきてから、あんなこと一度もなかった。
誰かが予め、時間をずらしていたのだとしたら。
「…まさかな」
そんなことをしても、何の意味もない。
それどころか、かえってアレのせいで私は難を逃れたのだから、私に害を成そうとしている人間にとっては、不都合なはずだ。
…いや、待てよ。それそのものが間違っているとしたら、どうだ?
思考の転換だ。
コペルニクス的、とまでは言わないが、自分が今まで手放しで表と信じていたコインの裏表を、疑ってみるんだ。
百円玉と同じだ。
数字が入っているほうが表と勘違いしやすいが、その実、桜の咲いているほうが表なように。
証拠もなく、決めつけている。
考えを、変えるんだ。
そう、例えば、そもそも犯人には、私を害する意思はなかったのだとしたら…。
刹那、雷に撃たれたかのような衝撃が体中を駆け巡った。
その一瞬の電気信号が、次々と自分の中の小さな疑問を刺激して、数分前とは全く違った全体図を描き出していく。
バラバラに砕け散っていたジグソーパズルのピースが、本当は違うパズルのピースだったことに気が付いたような、閃き。
しかし、だとすれば。
…確かめるべきことがいくつもある。整理すべき問題も。
春泉は何かに急かされるように、携帯電話に手を伸ばした。
夕食のことも、お風呂のことも、今の彼女の頭の中からは、綺麗サッパリ消え去っていた。
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