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ヘッドフォンを外して  作者: an-coromochi
六章 転げ落ちた生贄は、口を閉ざしました。
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何度も言うが…こんなのデートじゃないんだって。

この章では、謎解きがメインとなりますが、


頑張って、イチャイチャさせようとも思っております…。

 誰かに突き落とされた可能性がある。


 そんな物騒な説明を冬原から受けたことで、学校側は、急遽全ての生徒を帰宅させた。


 困惑する周囲に対して、冬原はそれ以上の言葉を用いなかった。確かに、時間さえあれば誰もが行き着く結論ではある。


 しつこく冬原に説明を求めるも、彼女は、「また後で」とあしらうばかりでまともに相手をしてくれなかった。


 資料室へ荷物を取りに戻るついでに、携帯を弄っている執行を回収した。


 彼女は、雁首揃えて戻って来た三人に対して、「連れション?長かったね」などと呑気なことを聞いてきたが、すぐにこちらの青ざめた表情を見て、異変があったことを察していた。


 一通りの説明を行った後、全員揃って下校した。


 話を聞いた執行は、深く考え込むように唸り声を上げていたが、冬原の提言でとにかく学校から出ることになったのだ。


 その日は結局、ろくに話し合うこともなく解散した。しかしながら、次の日学校に行けば、否応なくその話題を口にせざるを得なくなった。

 学校中は当然、もはや嫌がらせの域を脱した行為についての話題でもちきりだった。


 最後に鹿目川に会っていた人物として、自然と執行の名前が挙がったが、それも職員室で会っていたに過ぎないので、たいして問題視されることはなかった。


 問題は、執行との話が終わって職員室を後にした鹿目川が、どうして屋上前の踊り場などに行ったか、ということだ。


 それがハッキリとしないうえに、鹿目川が意識を取り戻さないことも、事態の深刻化に一役買っていた。


 理由が分からない限り、彼女が呼び出されたという可能性が一番高い。


 ただ、納得のいかないことが何点かあった。


 一つ一つはたいしたことではない気もしたが、それでもこの胸のモヤモヤを拭わずには、先へ進めない確信めいた予感もあった。


 ここで言う、『先』が何なのか、どこに辿り着けるのかは、自分でも良く分からない。


 そして、迷いと呼ぶには大仰すぎるわだかまりを解消するべく、意見交換の場を設けることになったのだが、それに対する認知は三者三様であった。


 ある者は勉強会、ある者は余暇活動…。またある者は、ダブルデートなどとのたまう始末だ。


 場所はこの間のように喫茶店で十分だと思ったのだが、執行の強い希望で冬原の自宅になった。


 一人暮らし、というものに憧れを抱く年頃だから無理もない。

 ただ、その実態は自由という名の外装に包まれた、面倒の塊だと春泉は知っている。


 学校が終わり放課後になると、すぐに執行が仕切って冬原の家へと向かった。十分も歩かないうちに、目的のアパートに辿り着く。


 アパートは三階建てで築年数の新しい建物だった。形式上はマンションとのことだったが、印象としてはその中間だというのが相応しい。


 入口のオートロックにて、手の塞がった冬原の代わりに、柊がさっと鍵を取り出す。


 オートロックだったことにも驚いたが、それ以上に、鍵が柊の鞄から出てきたことに驚いてしまう。


 その行動に、しまった、と一瞬苦い顔をした柊だったが、時すでに遅し。獲物に飛び掛かるような勢いの執行に捕まり、面倒そうに相手をさせられている。


「合鍵じゃん!」柊は苦い顔で顔を背ける。「通い妻、同棲、うわぁいいなぁ!」


 そのどれもが、過剰な表現だったことは否めない。


 春泉は、突っ込むと余計な火の粉が飛んでくると判断し、もたついている執行と柊を追い越して冬原を追う。


 彼女の部屋は一階にあるらしい。一階の通路には格子が規則的に並んでおり、外からは侵入できないようになっていた。こうでなければオートロックも無駄になるので、当然ではある。


 格子の間から吹き込んでくる風は、すぐそこが田んぼであることも相まって、強く、何者にも邪魔されない心地の良い自由な風だった。


 冬原が奥から二番目の扉の前で立ち止まった。どうやら彼女の部屋に着いたようだ。


 何となく、目の前で戸が開かれるのを待つのは憚られたため、その手前の部屋の正面で待っていた。


 暇つぶしがてら扉に目をやると、小さな張り紙が貼ってあったのだが、その細かい文字を追う前に冬原が入ってくるよう告げた。


 挨拶を小声でして、靴を脱いでいる冬原の後ろに並ぶ。玄関は狭く、二人で立っているのがやっとだった。


「散らかってるけど」と冬原が至近距離で呟く。


 何となく唇に視線が行って、反射的に顔を逸らした。綺麗な桜色だった。


「別に大丈夫」


 穏やかに微笑み、室内に上がる冬原の背中を盗み見る。


 意外と端正な顔立ちなんだな、と感想を抱いていると、後ろから二人分の視線を感じ、慌てて自分も部屋に上がった。


 振り返れば、執行と柊の責めるような顔があった。

 心を見透かされたようで恥ずかしかったので、急いで奥へ進む。


 室内は思ったよりも物が少なかった。いくつかの本棚とベッド、炬燵、回転式の座椅子が置かれている以外は、一点を除いて、空虚な印象すら抱かずにはいられなかった。


 その一点のほうを凝視する。


 大きい布の掛かったイーゼルとキャンバスが、日の当たらないところにポツンと、死んだように置かれている。


「絵を描くのか?」気づいたら、口から言葉がこぼれ出ていた。「え?」


 ベッドの上に鞄を放り投げていた冬原は、春泉のその発言に勢いよく振り向くと、絵と彼女の間に立ちはだかるようにして割り込んだ。


「え、とこれは貰い物」

「貰い物?」


 すごいプレゼントである。

 こんなものを一人暮らしの女性の部屋に送り付けるなんて、変わった知り合いがいるのだろう。あるいは、冬原がよっぽど絵が好きなのかもしれない。


 ただ、彼女にしては感情を隠せていない動きの速さだったので、少しだけ気になる。


「どんな絵なんだ?」

「う」

「う?」冬原の発言がおかしくて、笑い交じりに繰り返す。

「べ、別に普通の、絵」

「ふぅん、へぇ…」


 明らかに様子がおかしい。誤魔化そう、という意識がありありと見える。


 どうやら、見られたら困る物だということは間違いなさそうだ。


 珍しく慌てる冬原の姿に、ついつい調子に乗ってちょっかいを出してしまう。


「もしかして、いやらしい絵とかじゃねえの?」

「い、あ…」


 ビクリと肩を震わせ、頬を紅潮させた相手の反応に、まさか図星だとは思っていなかった春泉も硬直する。


 それから何とか言葉を探したのだが、上手くフォローできるワードが浮かばず、結局、笑うことも出来ない。じっとフローリングを見つめる形になってしまった。


 人付き合いが苦手な自分が、あまり容易に、ふざけたからかい方をするものではないな、と今更ながらに反省する。


 きっと執行あたりなら適当に誤魔化せたのだろうが、自分には無理だ。


 そうして二人して固まっていると、急に凄い力で首根っこを掴まれて、そのまま数歩後ろに引きずられる。


 首が締まって苦しかったが、見上げた般若のような形相に身が竦み、すぐにそれどころではなくなってしまう。


「何を、してんのよ」疑問形だが、返答を期待しているわけではあるまい。「あ、いや、別に」


「別にぃ?」

「あ、いや、そのぉ」


「人の部屋なんだから、じっとしてなさい」

「は、はい」


 蛇に睨まれた蛙のように背筋を伸ばし、硬直する。


 それを横目で見送った柊は、何かを咎めるように眉をひそめて冬原を睨んだのだが、彼女はいつもどおり曖昧に笑ったかと思うと、飲み物の準備を始めた。


「んー、何か女子高生の部屋にしては、味気ない感じ」


 先程のやり取りを見ていなかったのか、執行が部屋のあちこちを物色するように歩き回っていた。すぐに柊に取り押さえられ、春泉が座っている炬燵の前へと連行される。


 執行は、「ケチ」とか、「鬼ばば」だとか喚いていたのだが、柊の冷たく尖った視線に貫かれて、首を竦めるのだった。

読みづらかったり、もっとこうしたほうが良い、という意見がありましたら、是非お寄せください!


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