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ヘッドフォンを外して  作者: an-coromochi
五章 色を塗ってください。貴方なら何色にしますか?
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謎解きの始まりは、カフェオレと、姦しさと共に。 2

 口火を切ったのは柊だった。


 どうやら彼女はあの一件のせいで、生徒会長として色々と面倒な仕事が増えることになってしまったらしい。


 生徒への通達、またそれに使う書類、教師陣が何か注意事項を提案する度にまた新しいのを作らなければならず、初めからまとめて指示ができない大人たちに、憎々しく顔を歪ませて言った。


「本当、役立たずなんだから」


 軽くカップの縁を指で弾く。割れたらどうするつもりなのか。


「お口が悪いぜ、会長」


 役立たずの中に鹿目川も混ざっているようで、少し不愉快だった。


「何よ」ともう自分や執行の前では、口の悪さを隠さなくなった柊は、不服そうに漏らした。だが、ハッと気が付いたように意地の悪い笑顔を浮かべた。


「別に鹿目川先生のことは言ってないのよ?」

「何だよ、忠告してやっただけだろ」図星を突かれ、ついムキになる。


「はいはい、そういうことにしておいてあげる」


 気に食わない態度でくるりとストローを回した柊が、目を伏せて長いまつげを上下に動かした。その品のある動きに、つい視線が奪われる。


 舌打ちでもしてやろうかと考えていると、面倒なことに、次は執行が横から同じ話題について質問をした。


「何、春ちゃんってやっぱり、かなちゃんのこと好きなの」

「ちげぇよ!」

「へぇー…ふぅん」頬杖をついて不貞腐れた様子の執行が、口の隙間から息を漏らす。


「あら、春泉さんモテモテね」


 わざとらしく高い声で丁寧な口調で言った柊は、冬原にも同意を求めるように、「ねぇ?」と首を倒したが、冬原は曖昧な笑みで受け流すだけだ。


 こういうときの彼女は少しつまらないが、大人だと思う。


「余計なことを…」と春泉は顔をしかめる。


 告白された側と告白した側である二人からしてみれば、今の一言は、そのときのことを思い出すトリガーになるものだった。


 その証拠に自分だけではなく、執行の面持ちもぎこちないものになっている。


 何か言うべきかと言葉を探すも、ぐるぐると柊がかき混ぜているカフェオレと同じで、常に思考が流動していて、一点に留まることができない。


 端的に言うと、考えがまとまらないということだ。


 居心地の悪い沈黙が流れる。ただ、それを感じているのは自分と隣の執行だけに違いないが。


「で、どうなの」沈黙を恐れず、執行が独り言のように呟く。

「別にどうでもいいだろ、もうこの話はやめようぜ」

「どうでもよくない」

「何でだよ」と尋ね返してから、相手の瞳が不服さをまとった鈍色の光を放ったのが分かった。


 それがどういう意思を含んでいるのかは、大して考えずともすぐに理解できた。


 執行は、正面に座っている冬原と柊を順番に見つめた。

 何かを逡巡するように口を閉ざしたが、それも一瞬で、覚悟を決めたように両手を膝の上に置いた。


 何を言う気だろうか、これまた余計なことを口にするつもりではないだろうな。


 杞憂であってほしいと思っていた春泉だが、最悪な形で、その想像は現実のものになってしまった。


「私、言ったよね、好きだって」

「ばっ、馬鹿っ!」


 右隣に座る彼女の顔を慌てて睨みつける。いつもの位置だ。


 顔が赤くなっているのが、見なくとも分かった。


 すぐに目の前の二人の反応を窺う。彼女らは揃って目を丸くしていたが、その後の反応はまちまちだった。


 困ったような微笑を浮かべただけの冬原と、驚きで硬直したままの柊。後者に至っては、ようやく再起動したと思った途端、赤面して三人の顔を高速で見回していた。


 涼しい顔をしていた執行だったが、空の容器にストローを突っ込んで、すすり続けている様子を見るに、冷静とは程遠い思考にあるようだ。


「何で言うんだよ」と責める視線を執行に送る。


 執行は口を尖らせて、「だって、春ちゃん分かってないじゃん」と小声で呟いた。


「返事、いつでも良いとは言ったけど、してよね、絶対」


 冬原以外の視線が自分に向く。


「わ、分かったから、この場でする話じゃないって」

「しなかったら、今度はクラス中に聞こえるように催促するから」


 冗談だと思いたかったが、表情は真剣そのものだ。

 きっと本気で、自分たちを見世物パンダにする覚悟があるのだろう。


「…サイコかよ」


 まだ執行が何か言いたがっている雰囲気を察知して、春泉は即座に話題の転換を図るべく、頭の中に残っていた話をした。


「そ、それにしても、どうして例の悪戯の犯人はあんな手紙の書き方をしたんだろうな」


 何だ急に、という顔を三人揃って浮かべる。柊に至っては実際にそう口にしていた。


 元々興味があったのか、執行はすぐに話に乗っかった。彼女の興味のベクトルを逸らすことには成功したらしい。


「それって、あの犠牲者が何とかってやつのこと?」

「ああ」春泉は軽く頷く。「わざわざ新聞の文字の切り抜きを使うなんて、古典的だし手間だと思わないか?」


 クラシカルなのは嫌いじゃないが、と付け足して、さっと三人に視線を巡らす。


 柊だけはまだ直前の話題を捨てきれずにいるようだったが、文句を言うことなく事件の話題に付き合ってくれた。


「そうね…、ああしたほうがバレないからじゃない?」

「バレないって、筆跡でか?」

「ええ、筆跡鑑定とか言うじゃない。その対策でしょ」


 柊が片目を閉じて言った。その動作に意味があるとは到底思えない。


「何でそんなことするんだよ、警察も来てないのに」


 それは、一度は春泉も考えたことだったので、すぐに問い質すことができた。柊もその指摘を受けて、「それもそうね」とあっさり意見を変えた。


「単純に面白半分なんじゃないの?」と執行が呑気に言う。


 まあ、それが意外と一番近いのかもしれない。


「元々、手の込んだ真似が好きな奴みたいだしなぁ」


 思いのほか話が盛り上がらなかった。そういえば、さっきから冬原は頷いたり、相槌を打ったりするだけだ。


 彼女はどうもこういう話し合いには興味がないようで、前回教室でも、まるで参加するつもりはなかったような気がする。


 正直、一番面白い意見が出てくるのは冬原だと確信していたため、少しつまらない。そういえば、と冬原が前回妙なことを言っていたことを思い出して、それについて質問する。


「なあ冬原、お前この間言ってたよな」

「何を?」

「単純なものほど強い、だったか?」

「あれ?私、そんなこと言ったかな」


 冬原は一瞬惚けるような態度を取ったものの、春泉がしつこく確認したことで、ようやくその発言を認めた。


「あれってどういう意味だ?」その意味を問う。

「別に、そのままの意味だよ」


「そのままって…冬ちゃん不思議ちゃんだったっけ?」


 執行まで話に便乗してきたためか、語らざるを得ないと判断したらしい冬原は、珈琲を一度口元に含み、舌を湿らせてから話を始めた。


「何でもそうでしょ?複雑な構造のものほど壊れやすい」

読みづらかったり、もっとこうしたほうが良い、という意見がありましたら、是非お寄せください!


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