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ヘッドフォンを外して  作者: an-coromochi
五章 色を塗ってください。貴方なら何色にしますか?
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謎解きの始まりは、カフェオレと、姦しさと共に。 1

この節より、謎解きフェイズが挟まってきます。


だらだらと続いておりますが、

お付き合いくださっている方がいらっしゃれば、

お楽しみください。

公園の奥へと繋がる遊歩道から、冬原と柊が慌てたような全速力で駆け寄って来る。半分は芝居に近いものだと気づいていた春泉たちからすると、ややシュールである。


時間は13時15分。ゆうに15分の遅刻だ。まあ、自分と執行が噴水前に辿り着いたのも、つい数分前のことなのだが。


やはり、まともに顔が見られない。口を開くとボロが出そうだったが、ここで黙って彼女らの謝罪を受け入れていては、かえって怪しい。


日頃の捻くれた自分の態度が、今ばかりは憎らしい。


「もぉ、遅いよ?冬ちゃんたち」


遅くなるのが分かっていたくせに、執行はまるで何も知らないかのように、本気で不満そうな態度をしている。とんだ女優だと、彼女の演技力を褒め称えたくなる。


「ご、ごめんなさい。ちょっと寄り道しちゃって」

「へぇ」何とか呆れたような顔を作る。


「…私はちゃんと言ったのよ、遅刻しちゃうって」

「ちょっと蝶華!ずるいよ」


まあ、それは真実なんだろうな。


覗き見していたときの柊の様子を思い出して頷きたくなるが、そういうわけにもいかない。


 裏切りとも呼べる行為を咎める冬原だったが、柊のほうは拗ねたようにそっぽを向いて口を閉ざしていた。


何も知らなければ、珍しく揉めていると考えただろうが、全てを知っている以上、こんなものどう見たってカップルの痴話喧嘩だ。


「どっちも同罪」指先を交互に向ける。「止めなかったのなら同罪でーす」


続いた執行の言葉に、柊は言葉を詰まらせ、視線を彷徨わせた後、素直に謝罪を口にした。


お前は悪くない、と言ってやりたかったが、ぐっとこらえて鼻を鳴らしてみせる。


「へ、どうせイチャイチャしてたんだろ」

「違うわよッ!」


やたらと激しい反応を見せる柊に、図星を突かれるとつい怒ってしまうタイプなのだな、と冷静に分析してしまう。


今度から彼女にカマをかけて怒り出したときは、図星だということだな。


その様子にとうとう耐えられなくなったらしい執行が、吹き出してしまった。


肩を震わせ口元を覆い、明後日のほうを向いた彼女に、柊が憤りをぶつけているが、何故執行が笑い出したのかは、正確には理解していなかったようだ。


ついさっきまで申し訳無さそうな顔をしていた冬原が、すっと難しい顔に変わって考え事している素振りを見せたが、直ぐさまこちらに視線を飛ばしてきた。


その探るような眼差しに、反射的に顔を背けてしまう。


「…あ」


春泉にしか聞こえないような声で呟きを漏らした冬原の顔が、一瞬で真紅に染まる。


羞恥の極みに至ったらしい冬原は、少し怒った顔で頬を膨らませると、横を向いた。チラリと一瞥する瞳がわずかに潤んでいる。


バレたらしい。


かわいそうに…。彼女の明晰すぎる頭脳が逆目に出てしまったようだ。


執行の大笑いと、自分の不審な態度で覗いていたことを察したのだろう。

世の中には知らないほうがいいこともある、というのはあながち嘘ではなかったらしい。


それにしても…。


完全に拗ねてしまったらしい冬原の顔をじっと見つめて、春泉は考えた。


人の照れている姿というのは、何故か可愛い。そんなふうに率直な感想が浮かんで、思わずこちらの顔も赤くなってしまう。


こんな雰囲気でキスを求められたら、全人類が断れないのではとさえ思えてくる。


 柊が落ち着いたところで、目的地のショッピングモールへと向かう。公園からは徒歩で10分ほど歩いたところの施設だ。


転校してすぐ、執行と一緒に訪れた場所でもあった。


今日は土曜日で、課外授業のない日だ。


名目としては、今週は色々とあったため、そのリフレッシュとして遊びに行こう、というものだ。もちろん言い出したのは執行だ。


足の向くままにお店を見て回る。ほとんど、執行と柊が行きたいアパレルショップばかりだった。


シックで大人びすぎているものか、逆に派手な服装のどちらかで、前者のほうはマシだったものの、後者のほうは全く興味が湧かなかった。


 二人の買い物の途中で、ふと、脳裏に例の紙片の文字が浮かんだ。きっと暇すぎて、頭が思考に飢えていたのだと思う。


『貴方は二番目の犠牲者』


新聞の文字の切り抜きを使った、手の凝った一枚だ。


今思えば、どうしてあんな手の凝った作りにしたのだろうか。


普通、ああいうときに切り抜きを使うというのは、筆跡を誤魔化すためだが、別に警察が捜査に来るわけでもないのだから、不必要な労力ではないか。


「春ちゃん、飲み物は何が良い?あ、待って当てるから。んー、炭酸はなさそうだからぁ、珈琲かな」


気が付けば、喫茶店の前に来ていた。


そういえばちょっと休憩したいと誰かが言い出して、一服しようという話になったのだった。


その誰かが自分でないことしか覚えていない。女子高生がよく行きそうな内装だったので、おそらくは執行の趣味だろう。


執行が勝手に始めたクイズコーナーを適当に相手してから、オーダーを取りに来たウエイトレスに四人分の飲み物を注文する。


それらをキビキビと行ったのは柊である。さすがは生徒会長、どっちが客でどっちが店員か分からないくらいの落ち着きようと、的確さだった。


 5分もしないうちに飲み物が運ばれてくる。

珈琲が1杯、カフェオレが3杯。冬原以外の三人が糖分を欲していたらしい。


なお、珈琲に関しては砂糖もミルクも入っていない、ブラックホールを模したかのような暗黒的な水面がカップの中に広がっていた。


温かい液体が喉元を通過したところで、話題が服の話から、先日の事件に切り替わった。事件と呼ぶには大仰だったが、相応しい呼び方が思いつかないので仕方がないだろう。

読みづらかったり、もっとこうしたほうが良い、という意見がありましたら、是非お寄せください!


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