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ヘッドフォンを外して  作者: an-coromochi
四章 静かなほうが良かったです。例えそれが、嵐の前の静けさでも。
30/66

消したり書いたりを、朝と夜みたいに繰り返すのか? 1

四章の開幕です。


七部構成なので、約半分が終わりました。


自己満足に過ぎない作品ですが、

みなさんの暇つぶしにでもなれば、幸いです。

 ぐしゃぐしゃに丸めた紙を、思いっきり部屋の隅に置いてあるゴミ箱目掛けて放り投げる。正確には、投げつけたと言ったほうがいいかもしれない。


 カチカチと、ストレスが溜まる都度、無意味に多く叩かれるペンシルの蓋が、抗議の声を上げるように飛び上がって教室の床に飛んでいった。


 その放物線を目で追った春泉は、もう限界だと言わんばかりに声を上げて、頭をかきむしった。


「あああ、無理だ、無理。思ってないことは書けねぇ、そんなに器用じゃねぇよ…」


 400文字の原稿用紙の上に、のしかかるように突っ伏した春泉の頭の上に、コツンと形ばかりの拳骨が落とされる。


「もう、どういう風の吹き回しか知らないけど、やると決めたのなら文句言わずにやりなさいよ」


「うるせぇ柊、冬原がいないからって私に当たるな」


 顔を上げて、こちらを見下ろしてくる柊を上目遣いに睨む。


「当たってないわよ、分かる?生徒会長様が付きっきりで手伝ってあげてるのよ、感謝しなさい」


「へっ、役に立ってないけどな」

「言ってなさい。いいから、手を動かして」飛んでいったペンシルの蓋を柊が拾い上げ、机の上に置きながら言う。


 春泉は、感謝の言葉も口にせず、チッ、と舌打ちして作業に戻る。


 3月の放課後は、まだ暖かいとは言えないものの、薄着でも肌寒いで済む程度にまで気温は上がっていた。


 結局、鹿目川に説得される形で弁論大会に出ることを決意した春泉だったが、まず難関となったのが原稿の作成だった。


 盲点だったが、当然お題になぞらえて書く以上、自分の本心とは少しばかりズレた内容を作り上げる必要があるわけで、建前のようなものを口にすることのない彼女にとっては、よっぽど慣れない作業だった。だからか、牛歩の如き作成スピードになってしまっている。


 それを見かねた鹿目川が、品行方正、嘘八百を得意とする生徒会長様の柊蝶華を春泉に付けたのだった。


 そして今日も、例の資料室にて、柊と二人で缶詰状態になりながら原稿を綴っているわけだったのだが…。


「どうせなら、お前じゃなくて鹿目川先生が良かった」


 ぼそりとこぼれた本音を聞き逃さなかった柊は、生徒会の仕事らしき資料をめくりながら、弾かれたように顔を上げた。


「え?」意外そうな顔を見て、また口に出ていたことに気が付く。「いや、何も」

「…貴方」


 明らかに何か言いたげな柊の言葉を遮るように、彼女が興味ありそうな話題を投げかける。


「き、今日は、冬原はどうしたんだよ」

「知らない」


 適当な風除けになればと思って口にした話題だったが、思った以上に面白い反応が返ってきたため、これ幸いにと話を続ける。


「ははぁ、もしかして夫婦喧嘩か?」ジロリと柊が目を細め睨みつけてくる。「そうか、お前たちでもそんなことあるんだな」


 いついかなるときも、ベタベタイチャイチャしている彼女らを思い浮かべて、おかしくなる。


 もちろん、春泉の頭の中に浮かんでいるほど、目に見えるスキンシップは多くない。


 春泉が揶揄するように肘を付いて言ったことで、柊のほうも集中力を削がれた様子で、視線を一瞬春泉に向けた後、窓の外へと動かした。


「で、どうしたんだよ?」

「そんなことを聞く暇があるのなら、手を動かしなさい」

「ちょっとした気晴らしだよ。な、いいだろ?」


 不貞腐れた姿の柊が珍しくて、ついつい作業を忘れて理由を尋ねてしまう。

 それに対して柊は、初めのうちは適当に誤魔化していたのだが、同じような問答を繰り返しているうちに、とうとう彼女も自分の職務を忘れて愚痴をこぼし始めた。


「あの娘、馬鹿なのよ」

「はぁ?アイツ、相当頭良いと思うけど」

「そういう頭の良さじゃないのよ、その、何度言っても聞かないと言うか、やめないと言うか…」


 何となくだが、話の着地点がぼんやりと見え始めた春泉は、顔をしかめ、唾でも吐き捨てるかのように言葉をはさんだ。


「あほくさ」

「なによぉ、そっちが聞いてきたんじゃない」


「知ってるか?夫婦げんかは犬でも食わないんだぜ」

「…う、うるさいわね」


 阿呆らしくて逆に作業に身が入りそうだ。


 人の惚気話を聞くくらいなら、綺麗事をひとまとめにした、お涙頂戴の作文を書いたほうが遥かにマシである。


 しかし、バッサリと切り捨てられた柊は、全くもって春泉の勘違いなのだと必死で、説得力のない言い訳を無造作に並べ始めた。


 それを適当にあしらっているうちに、資料室の扉がノックされ、反射的に音のした方向へ視線を向ける。そのまま、「どうぞ」と入室の許可を促した。


 ノックをしてくるような人間は限られている。

 そのうえ、ここで作業をしていることを知っている人間といえば…。


 がらりと扉が音を立てて開かれる。だが、そこにあったのは春泉が期待していたものとは少し似ているものの、全く別人の顔だった。


「やっほぉ、はかどってるぅ?」


 先程とは、違う意味で阿呆らしい声と仕草で執行が中へと入ってきた。


「何だ、執行かよ」

「何だって何さ、誰と思ったの!」イチイチ声がでかい。


 執行の執拗な追求を無視していた春泉だったが、正面に座っていた柊が、さり気なく彼女の内心を暴露したことで、慌てて立ち上がることになった。


「鹿目川先生よ、私よりも先生との個人授業をご所望らしいから」


「ちっげえよ!お前や執行よりマシだってだけだ」

「はいはい」


 今度はこちらが適当にあしらわれて、思わず(ほぞ)を噛んで、その綺麗な顔立ちを正面から睨みつける。しかし、その整った顔でゾッとするほど優雅に微笑まれて、口をつぐんでしまった。


 美人の圧力、というのは平凡な顔立ちの女性を黙らせる力があるものだと、最近になって痛感するようになった。


 そのやり取りを見ていた執行は、つまらなさそうに「ふぅん」と呟くと、春泉の右隣の席に腰を下ろした。いつもこの位置である。


「なんだ、暇なのかよ」

「別に」

「暇じゃないのに、わざわざ来ないだろ…」

「別にぃ」


 数分前の柊のような反応を見せた執行に、怪訝な視線を向ける。


 不服さを隠す様子のない執行は、頬を丸く膨らませて明後日の方向を見据えたまま、口を尖らせていた。


 おもむろに取り出した携帯を弄ってはいるものの、何か目的があっての行動には見えない。


「どうしたんだよ」


 放って置いても構わないのだが、あまりにも、大人しくじっとしている姿が珍しく、声をかけてしまう。


 しかし、折角声をかけてやっても、執行はツンと顔を逸したままで、こちらを向くことはなかった。その態度に、「何だよ」と春泉のほうも唇を尖らせる。


 それから少しの間無言の時間が流れていたのだが、見かねた柊が、何か言葉を発しようとした雰囲気を悟ったように、ようやく執行が口を開いた。


「大体、何で受けちゃったの」顔は資料室の扉に向けられたままだ。


「…何がだよ」


 その問いの意味を分かってはいたが、とりあえず分からないふりをする。


「弁論大会!代表者!」


 語尾を強めた執行が弾かれたようにこちらを見たが、その面持ちにはどこか必死さというか、焦燥感のようなものが滲んでいるように感じた。


 あぁ、と曖昧な返答をした春泉だったが、頭の中では急かされるような気持ちで、言い訳を模索していたところだった。

読みづらかったり、もっとこうしたほうが良い、という意見がありましたら、是非お寄せください!


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