…時間くらい守れよ。
これから二章の始まりとなります。
二章では、春泉と執行の日常がメインとなります。
あまりストーリーの進展はないですが、
お付き合いください。
噴水から吹き出る白い水飛沫を見ていると、どうして人類が、このような無駄な装飾に時間と資金をかけるのかが、いつも不思議になってしまう。
2月も2週目とはいえ、もうしばらく肌寒い季節は続く。それなのに水を散布する設備を停止させないのは何故だろう。これでは、いっそう近辺は寒くなるというのに。
地元の者の待ち合わせに良く利用されているらしく、駅前にある噴水付きの公園は、日曜日の正午過ぎということだけあって、そこそこの人で満たされている。
都市近郊に比べれば、きっと大したことはないのだろう。それでも、自分が昔住んでいた場所と比較したら十分多い。
人混みは嫌いだ。
四方八方から聞こえてくるざわめきが、思考を乱し、とてもではないがヘッドフォン無しでは正気を保てそうにない…、というのは大袈裟であるが、とにかく、それくらい嫌いなのだ。
それなのに、どうして自分が貴重な休日に、こんなところで立ち往生しなければならないのか。
左手にはめた腕時計へ視線を落とす。
時刻は12時55分、待ち合わせ予定時間の5分前という、教科書どおりの行動をした春泉は苛立たしげにため息を吐いた。
「遅え…」
思わずこぼれた言葉に、近くに立っていたOL風の女性が、春泉から距離を取った。それで声に出ていたことに気づき、咳払いをして空を見上げた。
どうして自分が待たされているのか、とイライラしながら、毒づくように舌を打つ。
視界の隅で待ち合わせの相手の姿を探すも、一向に姿を見せる兆しはない。
暇なので本でも読むか、という気分にもなれない。我ながら、時間に支配されている人間代表の自覚がある。
学校なんて特にそうだ。チャイムとかいう、それなしでは時間を管理できない、ダラシない人間が考案した無用の長物のせいで、最近は顕著だった。
寒いので、噴水から少し離れて待つかとも思ったが、それでは相手が自分を見つけられないかもしれない、と変なところで律儀さを発揮した春泉は、大人しく両手をロングコートのポケットに突っ込んで白い息を吐き出した。
身長の低い彼女がロングコートを着ていると、どこか着せかえ人形のようだった。
公園をぐるりと囲むように植えられている梅の木々に生気はなく、もうしばらく続く冬に、傷つき身を固め、立ち尽くしているようにも見える。
もう一度、時計を確認する。時刻は13時1分。最早遅刻である。
(何で、私が待たされるんだよ…!)
すると、今度は口にせずに済んだ文句を、召喚の文言にでもしたかのように、ようやく待ち合わせの相手が公園の入口のほうから手を振りながら姿を現した。
彼女は、生地の薄そうな白のロングスカートを履いて、飾り気のないネイビーのセーターに、白のダッフルコートを着ていた。上下が白なので、結構目立つ。
普通なら手を振って答えるところだろうが、待たされている身としては、そんなことよりも走れ、という気持ちでいっぱいだった。
人を待たせているのに、てれてれと歩いている。
一体どんな神経をしていれば、あんなふうにのんびりと歩いて来られるのだろうか。
人混みを器用に避けて近づいてくる彼女の顔を睨みつけながら、春泉はこんなことなら、あのときちゃんと話を聞いておけば良かった、と一昨日のことを思い出していた。
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