「元気だねぇ」
闇から出てきた二人は、弥幸を見て顔を見合せた。
「へぇ。まだ生きてたんだね。さすが、生まれながらの天才君」
「はぁ? 意味わかんないんだけど。君達、誰なの。知っているていで話されてもこっちは知らないんだから、自己紹介は必要だと思うんだけど」
言い放つ弥幸に、ユミは顎に手を当て楽しげに微笑みながら彼を見る。
まとわりつくような視線を向けられ、弥幸は眉をひそめ「きもっ」と口にした。その言葉が聞こえていたらしく、ユミは顎から手を離し、散歩をするように近づき始めた。
「待って!!」
「っ! おい!」
星桜が弥幸を守るように前に立ち、弥幸はそのことに驚き声を上げる。
「おや。心の巫女が自ら目の前に……なるほど。これは、チャンスかな?」
ニヤニヤと笑いながらその場に立ちどまり、ユミは星桜を舌なめずり回すように見る。その視線が気持ち悪かったのか、彼女は身震いした。だが、自身を奮い立たせその場から動こうとしない。
「弥幸に近づかないで!」
「友達思いだねぇ。でも、今は静かにしていてもらおうかな」
そう口にすると、ユミが右手の中指と親指で「パチン」と、音を鳴らす。すると、星桜の影が不気味に動きだした。
「避けろ!」
「えっ」
弥幸の声とともに、地面から触手のような影が伸び星桜の腕や足に絡み付く。
拘束されてしまった彼女は、そこから動こうと藻掻くが意味はない。
「そこで少し大人しくしていてねぇ~」
またしてもユミは弥幸へ近づこうと歩みを進めた。その後ろで、凛が杖を構え火の玉を作りだす。だが──……
「っ! ちっ」
凛の前にクグリが立ちはだかる。
気だるそうにタバコを口に咥え、右手を腰に当て二人を見下ろしている。
横目でユミはクグリを見たあと、再度視線を戻し弥幸の目の前まで移動した。
隣には風美と華恵がバツの悪そうな表情を浮かべ座っている。
「本当に、覚えていないんだねぇ」
「全く。というか、なんで僕のこと知ってるの」
「それはねぇ~」
笑みを浮かべながらユミが口にすると、何故か突然右足を弥幸の横顔目掛けて蹴りあげた。
いきなりの事ですぐに反応出来なかった彼はもろに食らってしまい、横へと飛ばされる。
「ぐっ!!」
「なんで知っているか。それはねぇ、お前がウザイからだよ。弥幸」
先程の軽い口調ではなく、重くドスの効いた声で弥幸へと近づく。
弥幸は地面に倒れ、立ち上がろうとしている途中だった。その時、急かすようにユミが彼の髪を鷲掴み無理やり顔を挙げさせ自身に近づかせる。
「いっ──」
「お前には恨みしかないんだよ、弥幸。なんでか、わかんないのか?」
ユミは微笑みを消し、感情が分からない表情で弥幸を見つめる。その目には殺気が含まれており、弥幸は身動きが取れない。
視線だけで彼の動きを封じ、話しかけ続ける。
「お前は、昔からそうだ。俺の出来ないことはすぐにできて、新しいことをすると俺よりもレベルが高い。何をやっても弟に負ける。そんな惨めな気持ちを、お前はずっと味あわせてきたんだ。俺にな」
「い、みがわかんないよ。というか、弟……?」
「本当に分からないらしいね。なら、教えてあげる。俺は、お前の実の兄。赤鬼遊美だ」
名前を聞いた瞬間、弥幸は目を大きく見開き目の前にいる彼を見る。
「な、にを言っている。なんで、兄を知っているんだ」
「本人だからに決まっているだろう」
「そんなはずは無い。兄さんが、こんなことするわけが無い」
「どの口が言っている。そもそも、俺にこうさせているのは、弟である君だよ? 弥幸」
兄から放たれる言葉に、弥幸は何も返せない。髪を掴まれてしまっているため、その場から逃げることさえできない。
「天才は、時に人を狂わせる。お前のせいで、俺の人生めちゃくちゃだ」
「僕は……何もしてない。何も、してない!!」
「黙れ。お前は、俺を苦しませた。これは、その報いだ」
そう口にすると、遊美は弥幸の首に右手を伸ばした。そして、力強く締め始める。
「がっ!」
「弥幸!!!!!」
星桜は弥幸の名前を叫び、影から抜け出そうともがき続ける。だが、逆に体にくい込み身動きを封じられた。
何も出来ない状況になり、彼女はそれでも諦めずもがき続ける。
凛と翔月は、目の前に立ち塞がる人物、クグリをどかせようと神力を使う。
凛は杖を強く握り、前方に伸ばし火の玉を生成。
翔月は武器がないため、近くになにか代わりになるものがないか探し始めた。すると、ちょうど少し先に太めの木の枝が落ちているのを見つけた。
それを手にし、炎を纏わせクグリへと走り出す。
火の玉は凛が操り、翔月に当たらないように制御しながら放っていた。
「子供って、元気だねぇ」
口に咥えていたタバコを右手で持ち、息を吐く。余裕を崩さない態度に、翔月は正面から木の枝を振り上げ力任せに叩きつけようとした。だが、それを左手で簡単に受け止められる。
「なっ……」
翔月が振り下ろした時、後ろから火の玉がクグリに襲いかかる。
だが、なぜか火の玉はクグリに当たる直前で止まってしまう。
「えっ……」
「やれやれ……。勢いがあるのは子供の特権ではあるけれど、この状況でそれは、命取りでは無いかな?」
口にすると翔月が振り下ろした木の枝を折り、火の玉は不自然にふわふわと動き出した。そして、それは何故か凛を見ているように固定される。
「え、ちょっ──」
「こんなことも、想像しなければ……」
火の玉はいきなり凛へと襲いかかった──……
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