「誰」
風美は星桜の組まれている手に右手を添え、力強く、それでいて温かみがある優しい声で再度彼女に伝えた。
「祈りの意味は、神仏に請い願うこと。
簡単に言えば、お願いしているのよ。だから、精神力を操ることではなく、神にお願いする気持ちで祈るの。そうすれば、貴方の想いを神が拾い上げ、叶えてくれる。だから、操るじゃなくてお願いを意識してみて」
風美が震える体を両手で支え、汗を流しながら伝える。
「風美様、お身体は大丈夫でしょうか」
「問題ないわ。私だもの」
そう口にすると彼女は星桜に再度顔を向け、眉を釣りあげ口を開く。
「早くしないと、死んでしまうわ」
「は、はい……」
怪しむような瞳を向けながら、星桜は目を閉じ集中する。
先程のような焦りはない。落ち着いており、集中できていた。
すると、胸元にある両手が淡く光出した。それは、徐々に強くなり星桜を包み込む。
「……──お願い、弥幸を助けて」
星桜がそう呟くと、光は弥幸へと注がれる。
腹部にある傷口が強く光り始めた。
「これが、心の巫女……」
「あのお方が欲しいと思うのも、分かるわね」
二人が見ていると、先程まで流れ出ていた血が止まり始めた。それだけではなく、穴が空いていたはずなのだが、それも徐々に塞がる。
完全に傷口が塞がり、星桜は目を開け組んでいた手を弥幸へと伸ばした。
「弥幸、お願い……。起きて……?」
震える声で何度も名前を呼ぶ。だが、虚ろな瞳はどこを見ているのか分からない。
「お願い……だから……」
顔を俯かせ、涙が地面へと落ちた。その時。
「……あ」
風美が驚きの声を上げ、その声に星桜も顔を上げた。すると、目を開き驚きの表情を浮かべる。
「…………星桜、無事だったみたいだね」
安心したような表情を浮かべた弥幸が、体を起こし星桜に優しく微笑んでいる。
その後、自身の体を確認するように腹部に手を当て、周りを見回した。
「あぁ。やっぱり、君も大丈夫だったんだ」
「お陰様で……」
バツが悪そうに風美は顔を逸らし、下唇を噛んでいる。
その様子を見ている弥幸は、溜息をつき頭を搔く。
「別に。気にする必要は無いでしょ。今、こうして無事だったわけだし。君、そんな性格じゃないでしょ」
「気にしていないわよ。図に乗らないでくれるかしら」
「なら、その顔辞めたら? ブサイクがもっとブサイクになっているけど」
「女性に失礼ね。だから、モテないんじゃなくて?」
「モテる必要がないから問題ないよ」
「負け犬の遠吠えかしら?」
「ブーメランなの気づいてる?」
二人のそんな静かな言い争いの中、星桜は弥幸を見て体を振るえさせている。
そして、我慢の限界と言ったように両手を広げ彼を抱きしめた。
「っ! ちょ、おい!!」
「よかった……。本当に、よかった……」
弥幸に抱きつき、彼の温もり感じている。
いきなり抱きつかれ弥幸は、慌てて離させようとするが、疲労もあり星桜を離させることが出来ていない。
苦い顔を浮かべている彼。そんな光景を、凛と翔月は安心したように微笑みながら見ている。
弥幸が凛に気づき、足元へ視線を向けた。そこは、翔月が巻いたハンカチが赤く染っている。まだ血が止まっていないらしく、広がっていた。
「…………ねぇ、星桜。もう一人治せる?」
「え?」
星桜は弥幸からゆっくりと体を離し、彼の視線を辿る。その先には、凛の怪我している足。
星桜は慌てて「凛!」と名前を呼び、走った。
「凛、今治すから」
「え。でも、星桜も疲れているでしょ? 私は大丈夫だから」
「私も大丈夫だから。ちょっと待ってて」
そう口にすると、星桜は再度胸元で手を組み祈り始めた。すると、弥幸の時と同じように淡く光だし凛の足を纏い始める。
血が滲み、ハンカチが赤く染まっていたが、止まり始めた。凛は、首を傾げ「え」と、言葉をこぼす。
「……──よしっ。これで大丈夫だよ」
「い、痛みが無くなった?」
凛がハンカチを解き、自身の足に触れる。血が付いているが、傷は完全に塞がってた。
「すごっ」
「うん……凄い……。これが、心の──」
翔月が驚きの声を上げ、凛が同意をする。その時、草を踏む音が聞こえ始めた。
「…………き、来た……」
星桜が目を見開き、凛達の後ろに顔を向けた。身体を震わせ、顔を青くしている。
華恵もそちらに目を向け、険しい顔を浮かべ立ち上がる。
「風美様。来ましたよ」
「そのようね……」
二人の会話を聞き、弥幸は足音が聞こえる方へと顔を向ける。
「…………誰」
闇からでてきた人物は、先程まで星桜を追いかけていたユミとクグリだった。
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