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「届かない」

「妖傀が、消えた?」


 星桜は目の前から薄くなり、姿を消した妖傀を目にして呟いた。

 翔月と凛、華恵も唖然としておりその場が動こうとしない。そんな時、星桜の後ろからうめき声が聞こえた。


「あっ、弥幸! 弥幸、しっかりして!」


 慌てて星桜が弥幸へと近づき、手を伸ばす。翔月と弥幸に駆け寄ろうとする。凛も足を支えながら立ち上がろうとするが、痛みでまた座ってしまう。


「あ。……失礼するぞ。悪いな」


 翔月が謝罪を口にすると、ポケットからハンカチを取りだし傷口に当てる。痛みで彼女は顔を歪めたが、止血をする手を止めない。


「弥幸! 弥幸!!!」


 星桜の悲しみに溺れているような悲痛の叫びが響く。

 そちらに目を向けると、星桜が倒れている弥幸の背中を押え、涙を流している姿があった。


「お前はその女の止血をしてろ」


 華恵が翔月に言うと、弥幸達に近付き始めた。

 隣に立ち、その場に膝を折り方膝を着く。風美をまず預かり優しく横へと寝かし、弥幸の傷口に手を添える。


 今はうつ伏せに倒れ、意識が朦朧としているのか動かない。

 星桜が広い服の袖で止血しているため、白無垢風の服が赤く染っていく。

 止血をしているにもかかわらず、血が止まらず弥幸の腹部からは赤黒い液体が流れ出て地面に落ちていた。


「このままじゃ、マジで死んでしまいそうだな」

「そ、んな……」


 華恵の言葉に、星桜は顔を真っ青にし弥幸へと目線を向けた。

 彼の瞳は虚ろで、どこ見ているのか分からない。視界がぼやけているのか、瞳がゆらゆらと揺れている。


「いやだ。嫌だよ。弥幸……」


 星桜の瞳から透明な涙が流れ、頬を伝い地面に落ちる。

 一度流れてしまった涙は止まらず、どんどん地面を濡らし、星桜は涙を拭おうとはせず止血を続けていた。


「…………こいつを助ける方法、それは一つだけ」

「っえ。その方法ってなんですか?!」


 星桜は体を乗り出し、顎に手を当て考えている華恵に問いかけた。


「心の巫女の力、()()


 そう口にし、華恵は涙を流している星桜に鋭い瞳を向けた。

 その瞳を受け、彼女は一瞬息を飲む。


「祈り……。それは、私でもできることなんでしょうか」

「君以外、できる人はいない。いや、今の君が出来るかどうかも、分からない。だが、これしかない。今の状況、君がやるしかないんだ」


 その言葉に星桜は、不安げに眉を下げ倒れている弥幸を見る。

 息が浅く、瞼も閉じようとしているため考えている時間すらない。


「……──分かりました。やります!」

「そうかよ。祈りのやり方は俺にも分からない。分かるのか?」

「今まで、弥幸には精神力を渡してきました。おそらく、その応用でできるはず……」


 止血していた両手を離し、自身の胸元付近へと持っていく。

 そこで手を組み、額から汗を流しながらも集中するように瞳を閉じた。


 息を一定にするように気をつけ、精神力を操作することに集中した。だが……


「……え、なんで……?」


 なにか違和感があるのか。すぐに目を開け、困惑の声を上げる。


「精神力を、操作できない?」


 祈るように手を組み、もう一度目を閉じ集中する。だが、結果は同じらしく何も変化がない。

 その事に焦り、どんどん息が荒くなる。

 落ち着かせようと息を大きく吐くが意味はない。

 焦りにより集中も出来なくなり、華恵も口を閉ざし続ける。


「……そっか。今までは弥幸が私の精神力を安定させてくれていたんだ。釘で繋がっていたから、手を貸してくれていたんだ」


 今は星桜が一人で、自身が持っている莫大な精神力を操り傷口を閉ざしてあげなければならない。だが、今の段階で精神力を操ることすら出来ていない。傷を塞ぐのはもっと無理な状況。


「蝋燭を、思い出せ……」


 口に出し、今までの修行を頭に思い浮かべ再度祈る。だが、結果は同じ。

 精神力を操ることすら出来ない。時間が過ぎるだけ。


「なんで。なんでよ!!!」


 焦りが苛立ちに変わり、声を荒らげる。

 怒ったところでなにか変化が起きる訳ではない。それでも、文句を口にしなければ気が済まない。

 星桜は何度も「治って! 治ってよ!!」と叫ぶ。

 華恵はその姿を見て、諦めたように目を閉じた。


「君ができないなら、もう──」


 目を閉じ、諦めたように華恵が口にした時。隣から手が伸びてきて、震える星桜の両手に優しく添えられた。


「っ、え」

「祈りは、精神力を操ることも大事。でも、それだけでは貴方の想いは届かない」


 そう口にしたのは、先程まで妖傀に体が乗っ取られ弥幸に酷い傷を負わせた人物。風美が真剣な眼差しを星桜に送っていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます

次回も読んでいただけると嬉しいです


出来れば評価などよろしくお願いいたします(*´∇`*)

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