「やるよ」
「「やめろぉぉぉおおおお!!!」」
凛と翔月の声が森に響きわたり、風で木の葉が揺れる。その時、どこからか勢いよく何かが飛んできた。
「……──っ。遅いっつーの」
人を射抜くような真紅の瞳を翔月達の後ろへと向けられる。
二人の間には鎖。それを辿ると、妖傀の首へと繋がれていた。鎖の先についているのは、銀色に輝く鎌。それは、妖傀の首元へと添えられており、少しでも動くと斬られてしまう。
それにより、弥幸の肩口に噛み付くことが出来ない。
「誰が……」
翔月が呟くと、後ろから慌ただしい足音が暗闇から聞こえてきた。
荒い息遣いに、二人を呼ぶ女性の高い声。その声に反応するように振り向くと、そこには額から汗を流し、膝に手を付き息を整えている星桜の姿があった。
「はぁ……っ。か、翔月。凛!!」
「し、おん。なんで?」
凛は思わず問いかけるが、星桜は質問に答えず弥幸の状況と彼女の足を見て顔を歪めた。
「このままじゃ……」
どうすればいいのか。星桜は来たばかりのこの状況で、自分に何が出来るのか目を至る所に向け考える。すると、鎖をジャラジャラと揺らしながら近づいてくる人影が星桜の後ろから現れた。
「お、お前!!!」
そこから現れたのは、弥幸にひどい怪我を負わせ、星桜を連れ去った風美の伴。華恵だった。
眉をひそめ苦々しく口を結んでおり、虫の居所はすこぶる悪いのが容易に想像出来る。
「はぁ。まったく。めんどくさい、めんどくさいなぁ。なんでこうなってしまうんだ。なんで、俺の周りにはめんどくさい奴しか現れないんだ。許さない許さない。めんどくさいこと行った奴、俺達に関わらせた奴。殺す殺す殺す殺す殺す……」
前に出会った時と雰囲気や口調が全くの別人なため、翔月と凛は思わず顔を青くし苦笑する。
「あいつ、前回の奴……なのか?」
「見た目はそうだけど、中身は別人?」
そんな話をしている間も、弥幸は未だに何かを探している。
星桜はそんな彼を見て、胸元に手を置き瞳を震わせる。
「弥幸。何か、何かを……」
星桜は焦り、思考が冷静ではない。その時、華恵が息を吐き、無理やり思考を停止させ周りを見回し始める。そして、星桜の隣に立ち、耳元で囁いた。
「心の巫女。神力を目に込めろ」
「え、目?」
「言うことを聞け。俺は今、すこぶる機嫌が悪い。何をしでかすか分からない」
「は、はい」
華恵の怒り心頭の瞳に睨まれ、よく分からないまま星桜は目を閉じ集中し始める。
「目に、集中……」
息を整え、手を横へと垂らし。
脱力した状態で、弥幸の方に顔を向け、閉じた瞳をゆっくりと開けた。
すると、何故かその瞳は弥幸と同じく真紅の色へと変化しており、射抜くような鋭い瞳が妖傀へと向けられる。
「っ弥幸!!! もっと下! 少しだけ右側!!」
いきなり星桜が叫び、弥幸は視線だけを彼女に一瞬だけ向け、直ぐに言われた通り手を下げた。そして、右側へと少しずらした時。
「……──見つけた」
そう口にした瞬間、弥幸はいきなり腕を抜きとるため勢いよく引いた。その手には、誰かの左手が握られている。
悲痛の叫びが妖傀の口から響き、周りの人達全員顔を歪める。
華恵は首を締めようと鎖を引くが、意味はなく徐々に叫び声が大きくなっていく。
弥幸が引っ張れば引っ張るほど、苦しげに顔を歪め、その場から逃げようと暴れ回る。
鎌が首を切りつけようと関係なく、地団駄を踏み逃げようと暴れる。
弥幸は腹部の傷が響き、力が入っていない。それを目にし、星桜は走り出した。
「なっ、待て! 危険だ!!」
華恵の制しなど気にせず、星桜は弥幸の隣に移動し、影の右胸から少し出ている肌色の左手を一緒に握った。
弥幸と星桜の視線が交差する。
「……やるよ、星桜」
「わかったよ。弥幸」
お互い名前を呼び、力強く頷き妖傀へと顔を向けた。
「っ、せぇーの!!!!」
星桜の掛け声に合わせ、同時に引っ張る。だが、なかなか抜くことが出来ない。
妖傀の声が激しくなり、二人の耳から血が流れ始める。
それでも歯を食いしばり、引っ張り続けた。
その光景を見ていた華恵は、余っている鎖部分を今度は妖傀の腰へと投げ巻き付けた。
「おい! お前! 手が空いているなら引っ張るの手伝え!!!」
「あ、はい!」
翔月は瞬時に自分が呼ばれたことを理解し、華恵が握っている鎖を両手で掴む。
「俺と同じタイミングで引っ張れ!」
「はい!!」
華恵が「せぇーの!」と口にし、タイミングを合わせ弥幸達とは反対側に妖傀を引っ張る。
四人は必死に引っ張り続けた。四人の唸り声と、妖傀の叫び声が森を埋め、風が後押しするように吹き荒れその場にいる人達の髪を大きく揺らす。
すると、妖傀の右胸から少しだけでていた左手が徐々に引っ張られ、腕、肘、肩と。どんどん姿を現してきた。
若葉色の髪、瞳を閉じた顔。着物のような形をし、フリルが付いているドレス。
姿を現し始め、残りは足だけ。
弥幸の腹部から妖傀の右腕が抜け、血が地面を赤く染める。それを機にする余裕がなく、彼は残りを引っ張りだそうと力を緩めず後ろへと下がる。
すると、残りの両足も引っ張り出すことができた。
中から出てきた人物を、弥幸が咄嗟に自身へと抱き寄せその場に背中から地面へと落ちた。
星桜も同じくその場に崩れるように背中から転び、頭を支えその場から起き上がった。
「いたたっ………あ。妖傀が……」
中にいた人物を抜き取ったからか。先程まで鼓膜が敗れるほどの叫び声を上げていた妖傀が、なぜか急に口を閉じ始め小さくなっていく。
黒く染っている姿が徐々に薄くなり、そのまま苦しげな表情を浮かべながら、姿を消した。
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